電話をかけようとした。被災地の真っ只中で家族と明日をも知れぬ日々を送っている友人に。
しかし手が止まる。何を言えばいいのだ?
『頑張ってね』とでも言えばいいのか。ナメてるのか。
普段通りのいつもの日常が破壊された。今まで通りなら、仕事のグチを電話で話すくらいの余裕はあった。だけど、もはやそんな余裕はあるまい。
明日をも知れぬ日々を送り、食料すらままならない生活を送っている相手に、なんと言えばいいのか。
しかし、きっと待っているとも思うのだ。
人は、追い詰められれば追い詰められるほど、辛い気持ちになって、共感してもらいたいと思うのだ。
何を話せばいいか、そんなことよりも、話を聞くことのほうが大事だろう。一方通行的な励ましよりも、自分の辛さ、家族の不安、生まれたばかりの娘の心配を聞いて少しでも紛れるなら聞いてやるべきなのだ。
向こうは土日も休日もへったくれもない毎日なのだろうが、明後日にでも電話をかけてみよう。話を聞ければそれで十分だ。