『ボクはトランプ』 | タンタンとパパの子犬の社会化ブログ

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ボクはのら犬... 

 

だれにも飼われていない自由な犬だけがもらえる称号だ! 


ボクには首輪もついていないし、人間が引っ張るヒモもついていない。 


好きなところへ歩いて行けるし、好きなところでお昼寝もできる。 


自由気ままなのら犬様さ♪ 


雨に降られりゃ公園のすべり台の下で雨やどりするし、 
寒い夜は駐車場の隅に丸まってりゃなんとかなる。 


週に2日はゴミの日もあるから、

たまにゃごちそうにありつけることも あるしね。 

人間たちはボクのことをいろんな名前で呼ぶよ。

 
街角の売店のおじさんは白黒ブチなので『ブッチ』って呼ぶし、 
公園にひなたぼっこに来るおばあさんは『マックス』って声を
かけてくれる。 


毛がちぢれてるから『クシャ』って呼ぶ女の子もいるよ。

 
まっ、名前なんて何でもいいんだけどね。 


ボクが一番気に入っているのは『トランプ』って名前。 


毎朝遊びに行くアパートに住んでる女の子ジャスミンのつけてくれた
名前さ。 


なんでも、ディズニーとかいう映画に出てたのら犬の名前らしい。 


非常階段を3階まで駆け上がってベランダに飛び降りたら、 
ガラス窓をコンコンたたくのが合図。 


彼女はすぐ気付いて、いつでもボクにミルクをわけてくれるんだ。 

「本当は飼ってあげたいんだけど、アパートではダメなの... ごめんね」 

頭をクシャクシャに撫でながら、ジャスミンはキレイな器に
新鮮なミルクを 入れてくれる。 


そんなジャスミンがボクは大好きなんだ。 


彼女が仕事にでかけるときはボクも一緒に付いて行く。 


自転車でさっそうと走る彼女に置いてかれないように、
ボクも全力疾走するんだ。 


仕事場の事務所まで着いたら、ボクとジャスミンはバイバイして、 
彼女は仕事、僕は食べ物探しにでかけるってワケさ。 



彼女に出会ってからもうずいぶんになる。 


悪ガキたちのワナにひっかかって、脚を怪我したときのことだ... 
雨の中道にうずくまってガタガタ震えてたよ。 


死ぬってのはこういうことなんだろうなって覚悟を決めてたときさ。 

「ワンちゃん、大丈夫?」って声が聞こえ... 
ドロドロのボクを優しくコートでくるんでくれて、 
暖かな彼女の部屋に連れて行ってくれたんだ。 

怪我の手当てをしてくれて... 
食べ物をくれて... 
そしてキレイに洗ってくれたんだよ。 

脚が治るまでの何日か、ボクは生まれて初めて人間と一緒にいることの 
ぬくもりを知った... 


初めて誰かに守ってもらえる安らぎを感じたんだ... 

元気になって、また気ままなのら犬暮らしに戻っても、 
ボクの心の中にはいつもジャスミンが住みついていたよ。 

ジャスミンのアパートに近づくと、ボクのシッポは自然に揺れる。 
ジャスミンの声が聞こえると胸がドキドキする。

 
そして、ジャスミンに会えない日はとっても切ないんだ... 



ある日のことだった。 
ボクがいつものようにジャスミンのアパートへ行くと、 
窓を開けるなり彼女はボクの頭を抱きしめてキスした。 

「トランプ、聞いて! 私結婚するのよ♪」 

ボクにはよく分からなかったけど、ジャスミンが倖せなら 
それでいいんじゃないかと思った。 


そして、顔をいっぱい舐めてやったんだ。 


こんなに喜んでる彼女を見たことがなかったから... 

 

 

 

 

 


それから、ジャスミンはアパートを空ける日が増えていった。 


結婚の準備ってのが忙しいらしくて、ボクと過ごす時間がないらしい。 


「今度カレに紹介するわね!」って言ってたのにいつになっても
カレってヤツ には会わせてもらえなかった。 


そしてボクもジャスミンのアパートへは寄らなくなったんだ。

 
多分ボクがなにかヘマやらかしたんで、彼女はボクのこと嫌いに
なったんじゃ ないかって思ってね... 


でも、やっぱりがまんできなくなって、そっと見に行った晩、 
いつものように非常階段を上がってベランダに飛び降りると、 
彼女のアパートには何も残っていなかった... 

ジャスミンもジャスミンの物も何もなくなってる! 


ボクは力いっぱい走って彼女の仕事場へ向かったよ。 


でも、そこにもジャスミンはいなかった。 


大声で吠えていたら、彼女の仕事仲間が出てきて哀しげな顔で 
何か言ってたけどボクには分らなかった。 



なんどアパートと仕事場のあいだを行ったり来たりしたことだろう... 
ボクはヘトヘトになって、いつもの駐車場に帰ってうずくまった。 


爪が何本か割れて血がにじんでたけど、もう誰も手当てはしてくれない。 
そして、わかったことがひとつ。 

ジャスミンはどこか遠いところへ行ってしまったんだ... 



それからのボクは、からきし元気が出なかった。

 
売店のおじさんがパンのはしっこを投げてくれても、 
上手にキャッチできなくなったし、 
公園のおばあさんが声をかけてくれても、気がつかなくなってた。 

だから、いつもなら絶対に逃げ切れる『のら犬狩り』の黒いワゴンにも 
気がつかずに捕まってしまったんだ... 


青い制服のおじさん2人に追いかけられたあげく、 
ワイヤーの輪っかが付いた鉄の棒で首を押さえられて、
麻袋に放り込まれて、 ボクは遠い所へ連れて行かれた。 



麻袋を開かれるとそこは鉄格子のおりで、ボク以外にも2匹の犬がいた。 

「やぁ、ここはどこか教えてくれないか?」 


ボクは隣のおりに入ってる年寄りのラブラドールに声をかけてみた。 

「ここかい? ここはいい飼い主にめぐりあえなかった犬たちが
最後に送られる 天国への待合室さぁね」
 


おじいさん犬は寂しそうな顔でぼそっと話してくれた。 

「わしはあまりに歳をとったんで、飼い主が死ぬところを
見たくないからと、ここへ連れて来られたんじゃよ。
次にあのドアが開いたらわしの番じゃて...」 


それを聞いていた隣の柵のダックスフントがクーンと鳴きながら
つぶやいた。 

「死にたくないなぁ... まだ、死にたくないよなぁ...」 

「ヤツは鳴き声が近所迷惑だからって捨てられたんじゃよ。  
 飼い主と一緒にいないと不安で鳴いちまうってだけなのにな...」
 

翌日、ラブラドールの言ったとおり正面のドアが開き、
青い服の人間が来て おじいさん犬は連れて行かれた。


そしてヤツは二度と戻っては来なかった... 



ダックスは怖くて我慢ができなくなったらしく、
高くて細い声で鳴き続けた。 


何を言っているのか分らないほど興奮していて、

聞いていると ボクも気が狂いそうだった。 

そして彼も次の日に連れて行かれた... 



それからは、しばらく静かな日々が続いたよ。 


新しいヤツも来なかったし、青服の人間も決して悪い連中じゃなかった。 


食べ物も持ってきてくれたし、掃除もしてくれたしね。 


最後にジャスミンの顔を見れたら、もう思い残すことはないなって
思っていたよ。 


もう一度彼女の優しい手で頭をクシャってしてもらえたらな... 


もう一度彼女のいい匂いのするほっぺたを舐められたらな... 




そろそろじゃないかって覚悟を決めていたときだった。 


天国へのドアがギィーって嫌な音を立てて開いた。 


ようやくボクの番か... 


まぁ、悪い犬生でもなかったさ。 


いい思い出だってたくさんあるしね。 

ドアの中から天使がお迎えにやってきたみたいだ... 


どこかで見たことのある天使だな... 




いや、天使じゃなくて...  

 

 

 

ジャスミンだよ!! 




ボクのこと指さして、「トランプだ!」って叫んでる。 


まぼろしだってかまわない。 


ボクはおもいっきりジャンプした。


何度も何度も鉄格子に向かってジャンプした。 



そして青服の人間が鉄格子を開けてくれたとたん、ボクとジャスミンは
抱きしめ合ったんだ!


このひとときを、どれほど夢見たことだろう... 


彼女はボクの顔を両手で支え、

それから頭をクシャクシャに撫でてくれたよ。 




もう...    誰かボクをころしてくれないかな(笑) 


あまりに嬉しくてそんな気分だった。 



あとで分ったんだけど、ジャスミンは結婚して新しい家に
引っ越してたんだ。 


そしてボクを迎えにあの街へ戻ったときには、ボクは捕まって
いたらしい。 


人づてにボクの居場所を探して探して、間一髪で助けてくれたのさ。 

それからのボクには夢のような生活が待っていたんだ... 

 

 

 

 

 


ジャスミンの旦那はとっても優しくていいヤツで、すぐに仲よくなった。 


ふたりはボクを家族として迎えてくれたよ。


寒い冬も暖かな暖炉の前でのんびりくつろぐことができるし、 
ゴミを漁らなくても美味しいごはんを毎日もらえる。 


そして、なによりも大好きなジャスミンと毎日一緒にいられるんだよ♪ 


ボクはもうのら犬じゃない。 


首輪をつけられてるし、外を歩く時はひもでつながれてる。 


けっして自由とは言えないけど、ボクはちっともイヤじゃないんだ。 

なぜかな...? 

そうか、ボクには家族ができたんだもの! 


守るべき大切なもの... 


つらい時には守ってくれる心強い仲間... 




自由とひきかえにしたってちっとも惜しくはないさ。 


それは君にもわかるはずだよ。 


いつかきっとね...😉