「お酒もらってくるよ。何がいい?」
さすがに慣れたアオくんは甲斐甲斐しくユカリの世話を焼いてくれる。
人波を掻き分けてバーカウンターに向かう背中を眺めつつ、はじめて、ひとりでいるのが不安になった。
手がスマホを探してしまって落ち着かない。
やることもなく、ぼんやり周りを眺めると、次々と男たちと目が合う。
向こうからしたら、ユカリも好みの男を探しているように見えるんだろうなあ。
だけどね、退屈そうに壁の花になって、周囲の女性たちに声もかけずにぼんやりしている男って魅力がないのよ。
つまんないなあ、って顔に書いてあるけど、何か行動を起こさねばそりゃあつまらないでしょうよ。
一人で来ている女性たちも意外と多いが、ほとんどがなんだか慣れた様子で、はすっぱにスタッフと話し込んでいる。男ではなく、酒が目的ですというポーズ。
あれでは男の方も話しかけづらいかもなあ。
ぽつんとしている女性もちらほらいるけど、なんでその格好でハプバーに来たの?というような、化粧っけも無くちょっと…地味な感じ。
カップルはあんまりいなかった。
「お気に入りの相手はいた?声かけてきてあげようか」
アオくんがお酒を手に戻ってくる。
戻ってくる途中で、いかにも常連、というような貫禄をたたえたオジサンと会話を交わしていたが、顔見知りなのだろうか…。
「うーん…あんまり」
「せっかく来たんだし、誰かと話してみよ。」
ちょうどローテーブルに座っていた30代くらいのカップルに声をかけて、隣に移動するアオくん。
ユカリはあんまり気乗りしなかったけど、仕方なく続く。
彼女のほうはぱっちりした目の女の子で、酔ったのか彼氏の肩によりかかっている。
男の方はなんだか清潔感のない長めの茶髪にだるだるのカーゴパンツを履いている。
アオくんと彼氏の会話に適当にあいづちを打って聞く。
どうやら彼らはここの前にももう一件ハシゴしてきたみたいで、そちらでスワッピングしたという。
「ヤキモチ焼かないんですか?」
「んー、コイツは妬いてたよな?でもそれも楽しみのひとつって言うか」
彼女は人見知りなのか、こちらに目も合わせないし、会話ももごもごと小さい声で彼氏としか話さない。
なんだこの無益な時間は…。
「2人はカップル?ああ、セフレなんですか。どう、他の女とヤってたら嫉妬します?」
「彼氏だったら絶対に許さない」
なんだか会話に辟易としていたので、思わず強い語調になってしまって、アオくんが驚いたように見る。
やば、ユカリ、ここに来る前に、アオくんと他の女の子がやってるとこ見たい♡って言っちゃってたわ…。
彼氏はイヤだけどセフレならいいってちょっと失礼かな?
あわてて取り繕って、グラスが空いたのを機に中座する。
なんだか少し気疲れしてしまっていた。