一歩踏み入れるなり、ものすごい視線の圧力を感じた。

教室くらいの広さのフロアに2.30人はいるだろうか。そのほとんどが、ドアを開けて入ってきた新入りを値踏みするために振り返ったのである。



中は赤いカーペットが敷かれたフラットなフロアで、正面の壁際に沿ってソファ、フロアの真ん中には4.5人が会話できる程度の丸いローテーブルとクッション。

ドアから見て左側には一段高くなったスペースにバーカウンターとスツール席が並んでいる。

その空間のほとんどにみっしりと人がいる。

しかし意外にも若い。2030代がほとんど。男女比も6:4くらいかな。

そして全員、服を着ている。



ユカリが楽しみにしていた、肌色の大海原はどこにもない。



今夜はセクシーランジェリーナイトと聞いていたのだが

なんだか猫カフェに迷い込んだのと大差ない。イケイケなパリピ野郎や金髪ガールはどこにもいない。ギラついた太鼓腹のオヤジもいない。バニーちゃんもナースもポリスも、ギャルすらいない。


おかしい。ユカリの友人一同との飲み会の方がもっと肌色であるよ

今夜のために、ニットワンピの下に仕込んできたガーターベルトの出番はどこに。



ボーイが初心者のユカリを従えてあちこち歩き、規約を説明してくれる。

周囲からものすごい視線を感じていたたまれないので、彼の持つルールブックをガン見するしかない。


「プレイルーム以外で服を脱ぐのは下着まででお願いします。」

「ハプニングの際は必ず避妊具の使用をお願いします。スタッフにお申し付けいただければお渡しします。」


大人数に見つめられたまま真顔で説明される規約に、常識とは何か?と考えこみたくなる。


教師に当てられて黒板の前でわからない問題を解くような、妙な汗をかいた時間であった。



ひととおりの説明を終えて、ボーイから放り出されるとなんだか身の置き所がない。


「とりあえず座ろっか?」


視線の圧力にすっかり気圧されてしまい、うつむきがちなユカリの手を引いてアオくんがエスコートしてくれる。

偶然あいたソファに座った。


「なんか思ってたよりみんな普通の人だね?」

「そうだねぇ、今日はそういう日なのかもね



誰かが先陣切るのを待っているうちにダレてしまって、もはや誰も切り出せない。

たしかにそんな空気をひしひしと感じる。

あの視線は、この日和った空気を変えてくれる新入りを求めていたのだろうか