『やっぱ出ないか……』
俺はため息をつきながら携帯を閉じた。5年前俺は栞を裏切った。しかも俺が出ていったのは最低なことに栞と婚約をする日だった。その日は栞の20歳の誕生日だった。栞のことは本当に愛してた。でも当時の俺には結婚という2文字が重く感じていた。その頃ちょうど知り合った亜紀と意気投合し何回か食事に行ったりしてるうちに深い関係になってしまった。栞を大事に思う気持ちに嘘はなかった。しかし亜紀のことを好きな気持ちが日増しに大きくなっていった。そしてあの日俺は栞より亜紀を選んだのだ。その後3ケ月くらいして俺と亜紀は別れた。理由はすれ違いが増えたからだ。身勝手だとはわかっているが栞が恋しくて仕方なかった。だが栞に会いに行く資格もなく他にすることもなかった俺は1度は飛び出した家に戻り父に頭を下げ父の会社を受け継ぐことにした。あれから5年。がむしゃらに頑張った俺は社長の息子という肩書きが無くても一目置かれるようにまでなった。この手に栞を抱き締められる日が来るのだろうか。大地に偶然街で再会したとき栞は諦めてくれと言われたが無理だ。大地は昔から栞しか見ていない。栞は昔から結構もてるから大地や俺以外にも狙ってる男はたくさんいた。だから俺は大地や他の男に奪われる前に栞を自分のものにした。どうにかして栞とやり直したい。まずは栞と会わなきゃ駄目だ。俺は机の上の内線ボタンを押した。
突然大地に抱き締められ告白されて驚いたけど不思議と嫌ではなかった。どちらかというと居心地がよかった。幼なじみだからかなとか考えていると携帯が着信のあったことを知らせるランプを点滅している。誰からだろうと携帯を開いて息が止まるかと思った。何かの間違いかと思った。その相手は私がここ1ケ月何度も連絡しようとして発信ボタンが押せなかった陸からだった。
『…………………………………………………うそ。』
陸からの着信を知らせる携帯を開いたまま言葉を失ってしまった。メッセージがあることを伝える機械音のあとに5年振りに聞く陸の声が聞こえてきた。
『………栞。久しぶり。会って話がしたい。連絡まってる。いつでもいいから連絡して欲しい…………。』
そこでメッセージは終わっていた。どれくらい時間がたったのか窓の外は日が落ちていた。再び携帯電話が鳴り出した。思わずビックリして着信を見てみると大地からだった。
『……もしもし。大地?』
『栞今日はありがとうな。すごく嬉しかった。あと。急に抱き締めたりしてごめん。でもさっき言ったことは本気だから。栞に関しては俺もう諦めたりしないから。陸に負けないから。』
『えっ…?』

『陸から電話あったんだろ?』

『……………………。』
『…やっぱりな。さっき俺にも電話があった。栞に連絡したって。陸からやり直そうとでも言われたか?』私がメッセージが入ってただけで話してないって言うと大地は少しホッとしたみたいだった。
『……大地。陸は何で今になって………………。』
『栞 陸は今でもお前のこと好きらしい。離れてみてお前の大切さがわかったみたいだ。今度こそ裏切らないって言ってた。最終的に決めるのはお前なんだけど………俺は許さない。陸を認めない。』
『……………………大地』
『俺はお前が好きだ。他の誰よりも好きだ。相手が陸だって関係ない。俺が告白したら栞を困らせることくらいわかってる。でも2回も栞のこと諦めたくないから。だからって俺のことは気にしなくて良いから栞は自分の心に素直でいてくれたらいいから。それだけ言っておこうと思って。』
それだけ言うと電話は切れた。正直私自身陸が好きだとは言いきれない。今でも気になる存在だし好きなのかも知れないけど私達はやり直すには時間がたちすぎた。それに あんなに傷ついた頃には戻りたくない。陸には連絡しないでいようと思った。
今日はバレンタイン。以前は大地にも幼なじみだからと言うことで渡していた。陸がいなくなってからバレンタインというイベントすら避けていたから、ここ数年あげてないけど今年はありがとうの気持ちを込めてチョコを渡そうと思ってデパートで買ってきていた。大地は甘いものが苦手なはずなのにバレンタインのチョコだけは昔から欲しがった。大地の部屋に行くと寝転がってマンガを見ていたので
『またマンガ読んでるの?バレンタインなのに予定ないんだ。暇だねぇ~』と言うと『お前も今日みたいな日にうちにくるなんて暇だねぇ~』と笑いながら起き上がった
『で どうしたの?』と大地が笑顔でいうので
『はい。ありがとうの意味を込めてチョコレート。いつも支えてくれてありがとう。』っとチョコを差し出した。
よほど意外だったのか一瞬の間の後に大地が私をみた『………俺に?』
『そうだよ?他に誰もいないじゃん。』
『………………………』
『………………………』
『………………………』
『………………大地?』
『………………嬉しい。
超嬉しい!ありがとう!』凄く嬉しそうな笑顔で喜んでくれている大地を見たら私まで嬉しくなった。
『こっちこそありがとうだよ。いつも辛いとき一番近くにいて支えてくれて。どれだけ大地の存在に救われてきたかわからない。本当にありがとう。』
『……………栞。陸のこと今でも好きなのか?』
突然いつになく真剣な顔で聞かれて答えを探してると大地が話だした。
『……俺は陸を許せない。陸なら栞を幸せに出来ると思ってた。なのにあいつは栞を傷つけただけで…』
それ以上聞くのは耐えられなかった。
『ごめん。…大地。それ以上は言わないで。陸とのことは終わったの。この間は少し動揺したけど1度も連絡が来ないってことは陸にとって私とのことは終わったってこと……』
そこまで言った時に大地に抱き締められた。
『お前無理しすぎ。泣いてんじゃん。自分で気付いてないの?俺の前でくらい素直になれ』そう言われて始めて泣いていることに気付いた。ずっと長い時間大地は私の背中を擦ってくれた。誰かの温もりが心地よいってことを感じたのは久しぶりだった。どれくらいの時間が過ぎただろう。背中に回された大地の手に力が込もった。
『栞。俺は栞のことが好きだ。幼なじみとしてじゃなく恋愛対象として好きだ。小さい頃から栞と一緒に育ってきて栞を守るのが俺の役目だと思っていた。他の誰でもなく俺の手で守りたいって思ってた。だから陸と付き合うって知った時は正直ショックだった。でも…陸は俺の親友だし陸なら栞のことを大切にしてくれると思ったから俺は諦めようと思った。お前が陸を今でも心の中で大切に思ってるのはわかってる。その気持ちを無理に忘れろとは言わない。でもその心に少しずつで構わないから幼なじみとしてじゃなく1人の男として俺のことを見て欲しい…。今まで何年も待ったんだ。栞が俺のことを好きになってくれるまで待ってるから。』そこまで言うと大地はさらに力を込めて抱きついてきた。
『……………大地』
大地が私に対して恋愛感情を持っていたなんて気が付かなかった。いつも支えてくれた大地。その大地に応えられる日はくるのだろうか。