大地と付き合うようになって半年。大地は毎日仕事への送り迎えをしてくれている。陸のことがあってから1人で外出するのが怖かったから大地の気遣いは素直に嬉しかった。あれから陸とは話してはいないものの取引先の女性と結婚したとテレビで知った。陸とは色々あったけど幸せになって欲しい。1度は本気で結婚を考えるほど愛した相手だから。陸のことは本当に好きだったころの想い出が多すぎる。でも許せない想い出も私のなかでは同じくらいある。陸以上に好きになれる人なんていないって思ってた。でも陸に出会えたからこそ今の私がいるんだって思える。陸に対しての想いが心が燃えるような激しいものだったとしたら大地への想いは心の奥から温かい気持ちになれるもの。一緒にいると安心できる。大地が私を大切に想ってくれるように私も大地を大切に想っていきたい。心からそう思える。


大地に殴られた夜、大地から電話があった。ちょうど会議中で出れなかったが。留守電にメッセージが残っていた。
『………栞のことだけど。お前には栞を傷つけることは出来ても栞を幸せにすることは出来ない。これ以上栞に付きまとわないでくれ。苦しめないでくれ。…あと俺達付き合うことになったから。お前に栞は渡さない。俺が守ってゆく。諦めてくれ』
俺はメッセージを消去して溜め息をついた。栞と大地が付き合うことになったって関係なくなった。本当なら奪ってやりたい。しかし俺にはその権利がない。俺はあの日少し苛ついていた。親父と仕事の事で食い違い喧嘩したのだった。親父は古いんだ。そう思い部屋に戻ったら栞が寝かされていた。俺が部下に指示していた通り栞は拉致に近い感じで連れてこられたのだ。栞が愛しくて抱き締めようとした瞬間拒絶され逃げそうになる栞。顔には恐怖の色が見える。その時の俺はそんな栞を見て何故か理性が飛んだのだった。栞が泣き叫べば泣き叫ぶほど俺の中で何かが弾けた。気がついたら栞を無理やり抱いていた。理性がとんだとはいえ後悔はしていない。栞が欲しい。どんなことをしても手に入れる。諦めないと大地にいったのは本心だ。今でも栞を愛している気持ちに嘘はない。しかし昨日親父に呼び出された時に事態は変わってしまった。親父の待つ社長室にいたのは5年前に別れた亜紀だった。その横には小さな男の子が座っている。亜紀をみた瞬間嫌な予感がした。親父は俺を亜紀の隣に座らせ話だした。
『…陸。お前と別れた後、亜紀さんは1人でこの子を生んだ。お前の子を妊娠したとわかったのが別れたあとだった。連絡をしてきたがお前は大事な時だったから私が話をつけておいた。婚姻届けと海翔の出生届も出している。2人が一緒に暮らすのは陸の仕事が落ちていてからにして欲しい。そのかわり必ず亜紀さんを悲しませるようなことはさせませんから。という私の失礼な申し出にも亜紀さんも亜紀さんのご両親も嫌な顔をせず承諾して下さった。今ではお前も1人前になった。そろそろ一緒になってもいいだろう。なあ。亜紀さん。』と亜紀を見た。
『………はい。私の方は大丈夫ですが陸さんはいきなり私とって迷惑では………。』
『そんなことないよなぁ?陸お前はどう思う?迷惑なのか?』
突然のことに言葉が見つからない俺に親父は
『……あまりに驚いて言葉も出ないか?まあいい。あとは私が用意する。お前は何も考えなくていい。』
『勝手なこと言わないでくれ!!!俺には他に好きな人がいるから亜紀とは結婚できない!!!』
やっとのことでそういうと『まあ落ち着け。結婚できないって言うがお前は亜紀さんと既に夫婦なんだよ。海翔もお前の子だ。お前に決める権利はない。私は亜紀さんしか認めんぞ。…栞ちゃんのことは5年前に終わったはずだ。諦めさせたはずだったのに…。』
『…どういう意味だ?』
親父は俺をみて鼻で笑った。
『まだわからないのか?5年前お前には話してはなかったが亜紀さんとの婚約の話があった。亜紀さんのお父さんとは昔から親交があってな。そんなときお前から栞ちゃんとの婚約の話を聞かされたんだ。焦ったよ。まさかお前が藤堂さんのお嬢さんに手を出していたとは。あちらにも別の縁談があったはずだ。確か幼なじみの牧野さんだったはずだ。だから2人には悪いが別れてもらうことをうちと藤堂さんとで話し合って決めた。お前の結婚相手は初めから亜紀さんだけなんだ。』
俺は耳を疑った。俺と亜紀は戸籍上では結婚したことになってて今4歳の子供までいるだと?栞と大地が昔から決められた婚約者同士だと?何かの間違いか?そうでなければ今話してることは夢か?夢であって欲しい。俺は悪夢を見ているんだ。そう考えてた俺に亜紀は満面の笑みでこう言った。
『私 あなたと別れないから』
俺には受け入れがたい事実だが会社のことしか考えていない親父がしそうなことだった。嘘だろ…。俺の知らない間に結婚させられていたなんて……。どうすればいいのか。まさか亜紀が親父が決めた婚約者だったなんて信じられない。栞を愛人にするなんて酷いこと絶対に出来ない。俺は諦めるしかないのか………。
昨日はあのまま大地に抱き締められたまま眠っていたみたいで目が覚めると大地の腕の中にいた。昨日のことは思い出したくもないのに頭に浮かんできて涙が溢れてくる。泣いても泣いても涙がとまらない。体が震えたのがわかったのか大地が目を覚ましてしまった。小さい声で『ごめんね』っていうと大地は何も言わず優しく抱き締めてくれた。大地の腕の中は居心地が良くて不思議と落ち着く。いつも側で支えてくれる大地。私が本当に助けて欲しい時一番に手を差し伸べてくれるのはいつも大地だった。泣いている私の背中を優しく擦ってくれる。
『……大地。傍にいてくれてありがとう…。』
『お礼を言われるようなことはしてないよ。俺が栞の傍にいたいんだ。……栞。お前を守るのは俺じゃダメか?お前のことずっと傍で守って行きたいんだ…。』
『………………大地……。ありがとう。私も大地の傍にいたい……。いたいよ…でも…』
そこまで言ったところで背中にまわされた大地の腕に力がこもった。
『大丈夫。何があっても俺が守ってみせる。』


この日私と大地は幼なじみから恋人に変わった。