ほとんどひとりで話す俊くんの話を聞きながらしばらく歩いていると、二又に分かれた道にでた。
俊くんは右に、僕はその反対の左に行くからいつもはここからひとりになる。
「俺はこっちけど…」
俊くんが右側の道の方へと向かい出すと、かなえちゃんは少し考えてから「私はこっちやから、バイバイやね」とその反対を指さした。。
まだかなえちゃんと一緒にいられる。
そのことが嬉しくて、ゆるむ頬をなんとかおさえながら、2人にばれないように小さくガッツポーズをした。
「そっか。そんじゃ、また明日」
そう言いながら走りだし、あっという間に見えなくなるその背中を手を振りながら見送る。
「いこっか」
うるさかった俊くんがいなくなり、なんとなく気まずくなってしまう。
このままじゃいけないと、とりあえずてきとうなことを言って歩きだしてみたが、いっこうに話題が出てこない。
おとずれた静寂にどうしようと焦っていると、かなえちゃんがぽつりとつぶやいた。
「俊くんてめっちゃ背ぇ高いなぁ」
なぜかチクンと痛む胸に気づかないふりをしながら、言葉を返す。
「なに食べたらあんなでかくなるっちゃろうね」
「ほんまやねー。うらやましい?」
「…そんなこと、ない」
「そっか」
沈黙のせいか足どりが早くなっていた。
それに気づいたのは、見慣れたオレンジ色の屋根が見えはじめてから。
もう、あまり時間はない。
その日の放課後、かなえちゃんと一緒にみんなで帰ることになった。
もちろん、ただ帰るだけじゃなく、はやく新しい町に慣れてもらおうと、いろんな場所を案内しながら帰ろうという話だった。
アスレチック公園、ヒミツの隠れ家、この町唯一のスーパーマーケット…
ひととおり案内が終わった頃には、あたりはもう薄暗くなりかけていて。
俊くんの「解散!」の一言で、各自自分の家の方へと歩きだした。
学校のそばにある住宅地に住んでいる人がほとんどで、今まで歩いてきた道を集団でひきかえしていく。
それとは反対にまっすぐ歩き出したのは、いつも一緒に帰っている俊くんと、転校してきたかなえちゃん。
ちょっと前に住宅地に引越しのトラックが停まっていたという話を聞いたから、それをすっかりかなえちゃんのことだと思いこんでいた。
でも、いい意味で期待は裏切られたらしい。
「あれ?かなえちゃんもこっちやったと?あっちの住宅地に住んどると思っとったばい」
いつもの調子で話す俊くんをうらやましく思いながら、ばれないようにほんの少しだけ歩くペースをおとす。
少しでも長く、かなえちゃんと一緒にいたいから。
もちろん、ただ帰るだけじゃなく、はやく新しい町に慣れてもらおうと、いろんな場所を案内しながら帰ろうという話だった。
アスレチック公園、ヒミツの隠れ家、この町唯一のスーパーマーケット…
ひととおり案内が終わった頃には、あたりはもう薄暗くなりかけていて。
俊くんの「解散!」の一言で、各自自分の家の方へと歩きだした。
学校のそばにある住宅地に住んでいる人がほとんどで、今まで歩いてきた道を集団でひきかえしていく。
それとは反対にまっすぐ歩き出したのは、いつも一緒に帰っている俊くんと、転校してきたかなえちゃん。
ちょっと前に住宅地に引越しのトラックが停まっていたという話を聞いたから、それをすっかりかなえちゃんのことだと思いこんでいた。
でも、いい意味で期待は裏切られたらしい。
「あれ?かなえちゃんもこっちやったと?あっちの住宅地に住んどると思っとったばい」
いつもの調子で話す俊くんをうらやましく思いながら、ばれないようにほんの少しだけ歩くペースをおとす。
少しでも長く、かなえちゃんと一緒にいたいから。
ちら、と横を見ると、筆箱にかかれた名前が目に入った。
かなえちゃんか…どんな字なんかなぁ。
漢字は得意な方だったが、どうしても「かなえ」という字が浮かんでない。
しばらく頭を悩ませると、何個かこれかな?というものがあがった。
可奈絵、香菜恵…違うなぁ。
花苗…ってそんなはずなかよねぇ。
とりあえず「かなえ」と読める字をあててみるが、どれもしっくりとこない。
そんなことを考えていると、突然頭に痛みを感じた。
「いった!」
「いった!じゃなかよ!何回呼んだと思っとるとね!?」
小さな頭をフル活用していたせいか、先生に頭を叩かれたのだと理解したのは数秒あと。
ずっと名前を呼ばれていたと知ったのは、まだみんなとおなじ教科書を持っていないかなえちゃんと机をくっつけたあとだった。
「けんたろうくん…やったよね?」
「え?なんで!?」
「さっき先生言うてたやん。何回呼んだと思うてんのん?て」
「え!?そうやったと?」
はじめて見る笑顔に、違う土地の言葉に、2人で話している、ただそれだけのことに妙に胸がドキドキさせられる。
顔、赤くなってないかな?
心臓の音、聞こえてないかな?
心配なことが山ほどあって、でも当然聞くことなんてできなくて。
頭のなかをぐるぐるまわる想いはとどまることを知らず、僕を混乱させる。
「けんたろうくん!」
慌てたようなかなえちゃんの声になにごとかと思う間もなく、本日2度目の頭への衝撃。
それも、1回目よりもはるかに強く。
不穏な空気を感じて上を見ると、そこには噴火直前の火山のような先生が立っていた――。