耳の記憶多感な頃に聴いた耳の記憶は、時々、私を苦しめる。あの音が大好きだった。憧れであり、目標であり、至福の時間だった。敬服に、嫉妬はない。そこに追い付ける気すらしなかった。そして、同じ場所で同じ曲を聴く時、無意識に、もう聴く事のない音を求める自分がいる。今日も出逢えなかったあの音は、甦る思い出と涙と共に、再びパタンと鼓膜の中に閉じられた。クラリネッティスト 谷上真実