今日は朝からワクワク感で早くから目覚めた。何故なら娘な沙織とランチデートを楽しむからだ。もちろん昨日のうちに外出許可は取ってある。
朝食が終わって早々に周りが慌ただしい。やたらと見舞客が訪れている。うるさいなあと思いながらも、テレビを付けた。今日から開幕のオリンピックのサッカー予選がやっていた。
終始ナイジェリアにリードを許した日本が最後の追い上げ虚しく敗北。ああ、これで予選突破は難しくなったなあとテレビを消してトイレに立つと、何と周りの患者はみんな退院していたことに気付いた。どおりで朝から周りが慌ただしかったことを理解した。
看護師さんが様子を見に来た時、
「ひょっとして今晩俺一人ですか？」
と聞くと、
「はい、もし急患が入ったら相部屋になりますが、その時はすみませんが…」
と言うのだが、私は誰か居てくれた方がいいと思っていた。一人で病室にいて、もし怪奇現象なんて起きたらどうしようと思っているからだ。
病室が静か過ぎるのも嫌なものである。私も明日退院にならないかと思った。
そうこうしているうちに、下まで娘が来たので着替えて降りて行った。
娘は笑顔で迎えてくれた。
車に乗り込み、約束のお寿司屋へ向かった。和歌山では有名なちょっと高い回転寿司の『弥一』。お昼時ともなると美味しいお寿司がリーズナブルで食べれるだけあり結構席は埋まっていたが、タイミング良く席が空いていたので直ぐに案内された。
私はお寿司１０貫盛りに茶碗蒸し、赤だしの付いた『那智』というセット、娘はお寿司６貫に茶碗蒸し、赤だし、鰹のたたき、一品、ミニ鍋の付いた『弥一』というセットを頼んだ。
直ぐにお寿司が運ばれて来たので、写真を撮って普段は食べない鯛の寿司からいただいた。
「美味っ！」
つい言葉が出た。新鮮なコリコリ感とサッパリした中に甘さもある。
１貫食べると、味わいながらもポイポイ口に入っていく。あっと言う間に１０貫完食した。茶碗蒸し、赤だしもめっちゃ美味い。
お腹が八分目、ちょうどいい感じになっている。にも関わらず、赤貝２皿追加注文してしまった。実に美味かった。味も腹も満足して店を出た。
外出ついでに娘と行きたい場所があったので娘に言うと快く向かってくれた。
着いた所は、和歌山城前のダイワロイネットホテル。二階にタイガースショップがあると娘が言ってたので一度行ってみたかった。
そこで二人で楽しく買い物をして帰ろうとした時、三階に美味しそうなケーキ屋を発見、娘に言ってお茶して帰ることにした。
私は洋梨のタルトを娘はフルーツのタルトを選び、コーヒーとグレープフルーツジュースを注文した。
窓から見える和歌山城を見ながら、娘にお礼を言った。この光景がセンチメンタルにさせたのか、私はいつしか娘にもしもの時のことを語っていた。娘の大きな目から涙が溢れ出した。
「泣いたらあかん。」
と娘に言う私の目からも涙が流れた。
「パパ絶対この病気と上手く付き合って、沙織と恭兵の結婚、孫の顔まで見るから。」
と、娘の顔を見つめながら誓った。
今日は本当に楽しいひと時をありがとう。そう娘を見ながら心で感謝した。
楽しかった時間は早く過ぎるもので、気が付けば病室へと戻っていた。
外出から帰ったので、シャワーを浴びた。
出てきた時、先生に呼ばれ、ナースステーションに入った。
「うん、これなら退院できるなあ。退院するか。」
その言葉を待ってましたとばかりに、
「はい、じゃあ明日でいいですか？」
と小躍りした。
「それでや、次の予定やけど計算したら、１６日が次の投与の日や、どうする？」
「はい、じゃあ１５日から入院ですね。」
次の入院の手続きをしてナースステーションを出た。
病室に戻った私は、他の患者がいないのをいい事に家や彼女、妹とあちこちに退院することを電話で伝えた。
今夜は１人でこの病室で眠れるのだろうか？
