午後七時であたりはまだ薄明るい季節。
もし目覚めた時間が今なら朝だと言われても信じるような明るさだ。
街がまだ動いているしくたびれた感じのにおいの風が吹いているから夕方だってことがわかる。
月明かりは目立たない。
あんなに丸いのに。
でも深い青色の空は気温と完全に調和している。
こんなときにまっすぐ帰るのはもったいない。
今日やるべきことをすましてしまった人はみんな同じことを考えているはずだ。
誰もいない公園のベンチに座り誰かが来るのを待っていたこともあった。
夏がくる前におまえをしっかりつかまえようとしたけどだめだった。
それを忘れるために誰かが来そうな場所をいつも探してた。
いいこともたくさんあったさ。
でもおれがなりたかった気持ちにはついになれなかった。
そういう中途半端な気分が深い青色の空に調和していたんだ。
これから始まるところなのか。
もう終わってしまうところなのか。
どこに行って何をしてどんなかたちになりたいの。
おまえはあの日そんなふうなことをいろいろ言ってた。
話の内容よりおまえの声が作る音色を聞いてた。
おまえが作る音はおれたちふたりだけのあの瞬間によく似合ってた気がする。
気がつくと木の葉の天井と空が同じ色になってた。
何も見えなかった。
おまえの目の光だけを覗いた。
帰るころには薄いシャツに風がただ冷たかった。
あたりがぜんぶ黒かったら未来なんかわかるわけないじゃないか。
歩き出しておまえの手を握った。
このままじゃぜったいよくないっておまえは初めて強い声で言ったんだ。
それはたった三十分くらいのことだった。
深い青の空はなくなってしまった。
おまえは何も言わず電車に乗って行っちゃった。
おれは線路ぞいの壁にもたれてしばらく立ってた。
黒くなってしまった空を見上げた。
月のりんかくがはっきりしてる。
鋭い視線で見つめられてるみたい。
さっきまでの空の色は思い出せない。
もっとだいじなことを考えなきゃならないはずなのに。
時間はどんどん過ぎていくんだ。
いきものみたいに。
