午前中から吹き続ける強い風は深夜になってもやむ気配がない。
ある家を探して車を走らせているがなかなか見つからない。
住宅地に迷い込んで何度も引き返しては進んだ。
急に道がつながったと思ったら広い道路に出た。
カーナビには出てない道路だった。
たぶん建設中の道路だろう。
天気も一日じゅう荒れてるし郊外の道だし車のヘッドライトはひとつも見えない。
右に行こうか左に行こうか考えてしばらくとまっていた。
結局、右に出た。
数百メートル走るといきなり巨大な鉄柵が道を塞いだ。
そこに着くまで一台の車も人間も見なかった。
車の方向を変えて引き返した。
帰るときは猛スピードでも大丈夫だ。
慣れるというのは強い。経験はどんなものでもひとを図太くするのだ。
おれはアクセルをべた踏みして暗闇を音速で進んだ。
リニアモーターカーに乗ってトンネルを通り過ぎたことを思い出した。
あの頃はまだ小さかった娘を連れて毎日いろんな場所に行った。
ただ幸せな日々が続いていた。
永遠にそれが続くような気がしていた。
リニア実験車は時速500キロだった。
ビデオカメラを持っていったけど車内のスピードメーターを撮影して喜んでた。
500キロを超えるデジタル表示を見て乗客はみんな拍手した。
幸福感というのはどんな形でも罪がない。
もう片方の突き当たりは信号だった。
T字路だった。
信号は青だった。
この建設中の道路がどのくらいの距離か正確にわからなかった。
思い切り右にハンドルを切った。
おれは左にハンドルを切るのが苦手だ。
このまま街へ帰ればいいんだ。
探していた家はわからなかった。
まあいい。明日電話してからもう一度出直そう。
あの道路では結局、誰ともすれ違わなかった。
おれの家の近所でも昔、広い道路を作っていた。
いつのまにか誰かがスケボーの板が置いたり、真新しいアスファルトにスプレーで模様のような英字が踊ってたり、恋人たちが車の中で抱き合ってた。
おれはもうおっさんだったけど前からずっとやってみたかったバスケを本格的に始めてそこで毎晩ドリブルの練習をした。
犬の散歩のおばさんが小さな声で挨拶してくれたりした。
昔は昔。
今は今。
だから、見たこともない強い風が吹き続けたって驚くことはない。
明日はもう普通になってる。
経験はひとを図太くさせる。
本当はよくないんだぜ。そういうの。
広い道路だってそんなにたくさんいらないだろ。
よく考えろよ。
そんなにスピード出すな。
