俺は大神殿に来ていた。
――自分の開いた扉で・・・
『さあ、姫神様の御前よ。しっかりなさい』
『まだいらしてないけどね』
姉ちゃん達はそう言って俺の背に両側から手のひらを当てた。
その温かさがほっと俺の心を落ち着けた。
ここ大神殿は鳴宮様が管轄だ。建物も鳴宮様が建てられる――そもそも天仙京が彼女の天域だ。
色彩鮮やかな聖堂は、スペイン風。
だが鳴宮様はいつもいらっしゃらないと聞く。
幽玄峡の主は、自分の天域からめったに出ないものらしい。
もちろん、姫神様だっておんなじだ。
ここは、めったにないそのご降臨の為に存在する特別な場所・・・
俺に視える聖堂の中に姫神様の気配はなかった。
それどころか、一人の気配もなかった・・・誰もいない。
聖堂の正面に高く設けられた御座に、突然ふっと淡いグリーンの光をこぼして現れた――扉もなく、ただ煌くグリーンの光だけを纏って、姫神様は現れた。おひとりだ。碧様は、いない。
『よう来たの。契約の儀ごくろう。御使を遣わすゆえ、これより従うが良い』
姫神様は簡単にそう言って右手の人差し指を立て、その先にエメラルドの守り石を出現させると、ピンとこちらに弾いて寄越した。石は光を放ちながら落下して、地に落ちる直前にくるりと美しい黒豹に変化した。
艶やかな黒豹は一声吠えると、またくるりと変化して童女の姿になった。
『豹である。これより契約の儀終了まで案内する。ついて参れ』