誰かが私を揺すっている・・・
『菫・・・菫・・・』
なに・・・?まだ眠いよ・・・
『菫・・・』
目を少し開けたら紅の顔が間近にあった。
『・・・紅?』
寝ぼけた私は特に驚きはしなかった。気になってたことを言わなくちゃとだけ考えた。
『あのね、お礼にクッキー焼いたの・・・』
眠くてまぶたがくっついちゃう。
机のひまわりの前に置いた袋を指差した。
『俺に・・・?』
『食べてね・・・』
それだけ言うのがやっとだった。
朝の光に目が覚めて、体を起こそうとしたけど何かに押さえられててできなかった。
胸の上を見ると、腕・・・?
その先に、明るい茶色の髪が日に透けて金色に光ってる――紅!
私は腕をどけてよく見た。やっぱり紅・・・
うつぶせて、こっちを向いている、美しい顔・・・よく眠っている。
紅は花のようないいにおいがした。
あんまりぐっすり眠っているので起こすのがためらわれて、自分だけ起きて着替える。下に降りて、ごはんを食べる。
お父様は区長の補佐をしているので朝が早い。ごはんを食べると一番に家を出る。次が私で、お母様は私を道場に送り出してから、近くの仕立て屋さんに行く。
お父様が出て行った後、呼び鈴が鳴ってお母様が出ると緑子様だった。
『先日は・・・』
と言いかけたお母様をさえぎって、緑子様は、
『大変失礼ですがお邪魔させて頂きます』
と言って家に入った。そのまま二階に上がると、ほどなく『わっ!』という声が聞こえた。
『捕まえた!逃がさないわよ!』
『姉ちゃん!離せよ!』
『離すわけないでしょ!帰るわよっ!』
緑子様は紅を捕まえて階段を下り、丁寧に非礼を詫び、礼を言って帰っていった。
その様子がほんとに可笑しくて、私は笑っていた。
お母様は『大変ねぇ』と呟いた。