『呼んだのは、ここで住まう部屋をそなたに選んでもらおうと思うての』
晶子は二年後に、この梅宮様の後継として瑶華苑に入ることになっていた。
『お部屋を…?』
それだけの為に、めったに人に会わぬという梅宮様がわざわざ呼んだとは考え難い。お言葉通り受け取るには、父から伺う梅宮様の話と違い過ぎる。
『そうじゃ。そなたが来るまでに整えておきたいのじゃ』
『お心使い、嬉しゅうございます。』
父の話では、梅宮様はここ何十年もの間華瑶苑を出たことがなく、また苑への来客も極端に制限なさっているという。
晶子が七年前に御会いした時も、晶子が次の宮であるらしいので見て頂きたいと父が三年間進言し続けて、やっとの思いで対面が叶ったと聞いている。
でも、今わたしの前にいらっしゃる梅宮様は、そんな感じではない――
『では参ろう。こちじゃ』
鮮やかに立ち上がり先に歩き出す。晶子が続くとテーブルはもうなかった。
左手の回廊を行くうち、庭の眺めが薄く色づいた銀杏から濃き緋の紅葉へと移り変わり、美事さにため息をもらすと、
『こは秋のしつらえじゃ。秋は好きかや?』
晶子はうなずいて、『錦秋映える御殿も美しく華やかでございますね』と答えた。
回廊に立ち尽くし、日々この眺めの前にいたらどんなにか素敵だろう、と思いながらも、晶子の心には忍び寄る淋しさが僅かに感じられた。
