美しい花々、その甘い香りに迎えられ、晶子は朝日に照り映える黒檀の参道を歩いていく。下界の季節は春だが、そのせいではない。ここではいつもこうだ。
こと…こと…
沓音(くつおと)も軽く快い。
参道は欄干を目印に御橋に続いている。渡れば御殿の中だ。
出迎える者共に導かれ奥へ進むと、大御堂へ通される。やはり黒檀の張られた大広間だが、階段があったり雛壇があったり、四方に梅の古木が咲き誇っているせいか、広さはさほど感じない。
その雛壇の上には主が立っていた。
『お久しぶりでございます、梅宮様』
華瑶苑(かようえん)の御殿には座敷がない。立位での礼となる。
天域の構造は主の趣味が濃厚に反映される。御殿は朱塗りの寝殿造りで襖などはなく、御簾が掛けられただけのぐるりに磨かれた板間という部屋部屋だが、寒さは感じない。もちろん下界の春とは関係ない。
『よくいらした、晶子姫。美しく成りましたね』
梅宮様はそう言って段を降りて、晶子の側に立った。
晶子は梅宮様をまぶしく見上げて、遠慮がちに『ありがとうございます』と言った。
晶子は美しくない訳ではないが、この御方に言われては恥ずかしい限りだ。梅宮様は美しい。
『前に会うたのは、まだ幼くて…』
さっと裾を捌いて、梅宮様は出現した椅子に腰掛ける。テーブルも現れて腕を載せる。
『はい、まだ7つでございました。』
勧められるまま対面に座ると、静かに童女が茶を運んできた。抹茶に桜の練り菓子だ。
お茶をいただく間じっと見られていたので、晶子は落ち着かなくなった。梅宮様の視線は、まぶし過ぎる。
