7月15.16日の両日、一年ぶりに山中湖畔のアイドルフェスSPARK2023に行ってきた。2日間とも天候に恵まれ、久しぶりに充実感のあるオタ活だった。具体的なライブの感想に入る前に、今回のフェスの全体的な印象から。
今年のSPARK2023、それはようやくアイドルフェスが、本来の姿を取り戻した時間だったと思う。マスク着用の義務も、ソーシャルディスタンスの強要もそこにはなく、ステージ上のアイドルの熱唱に、オタク達が大声で合いの手やコールを入れる。数年前まで当たり前だったライブの日常が、こうして戻ってきたことの意味はとてつもなく大きい。
また、この山中湖畔というロケーションがとても素晴らしく、都会から離れ、自然の中でアイドルを観ているという非日常性が、このイベントを特別なものにしていた。会場内はどこか牧歌的で「ゆるい」空気が支配していて、まるでこの場所だけ時間がゆっくりと流れているようだった。
そういえば出番を終えたアイドルが、他のアイドルの特典会に普通に参加してチェキを撮っていたり、屋台の出店に並んで、焼きそばを買っていたりといったレアな光景を見かけたが、それもこのSPARK2023というフェスの「ゆるさ」がそうさせてしまうのだろう。もっとスゴかったのは、出番前の手羽先センセーションのオレンジの子(名前がわからない。スイマセン)が、ステージ衣装のまま普通に観客エリアで、オタクに混じってつばきファクトリーのライブを観て盛り上がっていたこと。演者である特権を行使せずに、あくまでもひとりのオタクとして行動する彼女の姿勢は素晴らしい。
以下はこの2日間で特に印象に残った事柄の具体的な感想で、ある程度、時系列にそって書いていこうと思う。
そもそも今回の遠征の目的というか、最大の動機は、この場所で一年越しのリベンジを果たすことにあった。これには少しばかりの説明を要する。
昨年の7月、幕張のNATSUZOMEのステージで、たまたま数年ぶりに夢みるアドレセンスのライブを観て、ひとり気になるメンバーを見つけた。歌っているときの表情が豊かで、小柄だが不思議と大人びた色気を持っているそのメンバーが気にかかり、帰宅後に調べてみると、その子の名が鳴海寿莉亜だということが判明した。なるほど彼女が今の夢アドのリーダーなのか。
夢アドのライブスケジュールを見ると、ちょうどいい具合に、自分が近々行く予定にしている山中湖のアイドルフェスに出演が決まっているではないか。よし、これはもう一度ちゃんと観てみる必要がありそうだな。と盛り上がったのも束の間、本番直前になって彼女がコロナに感染していることが判明し、当然の如く山中湖の出演は見送られてしまった。
なので、今回この場所で夢アドを観る、というか鳴海寿莉亜に会うというのは、1年前の忘れ物を取りにいくような不思議な感慨があった。
初日、中央自動車道の渋滞によって到着が遅れ、残念ながらCALL MY NAME feat 夢みるアドレセンスのステージが観れなかったが、その後の特典会には参加出来た。そもそも自分はツーショットでアイドルとチェキを撮ることに大して関心はなく、普段はほぼスマホのワンショットで事足りているのだが、この日は今年になって初めて寿莉亜ネキとツーショのチェキを撮ってしまった。まあせっかく遠くまで来たのだし、たまにはこういうのも良いかと。
夢アドの単独ステージは、日没の頃、KIKU STAGEで行われたのだが、何と言ってもこの日のライブの目玉は、新体制後はじめて披露された「アイドルレース」に尽きるだろう。おそらく夏の野外ライブを見据えて温存していたのだと思うが、イントロのスタートシグナルの音が聴こえた瞬間、興奮して思わず叫んでしまった。
初日、他に印象に残ったグループとして、まずは虹のコンキスタドールをあげたい。虹コンのライブを観たのは、去年の夏以来になるが、いつの間にかグループを卒業、引退していたはずのメンバーが、シレッと復活していたのには笑ってしまった。いや、そこを突っ込むのは野暮ってものか。
この手のフェスで顔役と言ってもいい虹コン、FES☆TIVE、Appare!といったグループにはひとつの共通項があるように思う。それはメンバーが年中入れ替わっているのに、グループのイメージがデビュー以来ほとんど変わらない点だ。虹コンの場合、とくにその傾向が顕著であり、メンバーが誰であろうと、MVの中で水着を着て、夏のナンバーさえ歌っていればとりあえず虹コンになる。今回のライブでも、いつもと同じように夏をテーマにしたアゲアゲ曲ばかりが歌われていた。普通に考えると、それはマンネリズムと停滞を意味するが、虹コンの場合、それが一種の様式美として成立しているところが凄い。この日のライブを観て改めて感じたが、彼女達ほど夏の野外ステージが似合うグループはいないと思う。
次にDIALOGUE+。去年のSPARK2022で、たまたまこのグループのライブを観て、衝撃と言ったらちょっとオーバーになるが、それでもそれ相応のインパクトを受けたことは確かだった。
このDIALOGUE+。何と言ってもグループ名がいい。昨今のアイドルグループは、アンタら本気で売れるつもりがあるのかよと、思わず頭を抱えたくなるようなグループ名が多いが、そんな凡百のアイドルグループには絶対にないようなセンス、知性、クールさがDIALOGUE+というグループ名にはある。
そして本業が声優とは思えないような質の高いパフォーマンス。名は体を表すというが、これまた巷のアイドルグループによくありがちな、意味のない観客への煽りがなく、どこまでも静謐に、知的にパフォーマンスをこなす。
この日、彼女達のライブを2ステージとも観させてもらったが、あいかわらずのクオリティの高さに感服した。あえてウィークポイントを探すとするなら、ルックスが地味で、いわゆるアイドル特有の油っこさに欠けるところだろうか。しかし彼女達には、それを補って余るだけの魅力がある。8月のTIFでも本当に楽しみなグループだ。
翌日、16日(日)は朝から快晴。日差しは強いが湿気がないので、あまり不快な暑さには感じられず、まさにフェス日和といったところだろうか。
昨日、観れなかったCALL MY NAME feat. 夢みるアドレセンスの出番に合わせて現場に到着する。
CALL MY NAME feat.夢アドに関しては、少しだけ説明が必要だろう。
SPARK2023の本番直前になって、CALL MY NAMEのメンバー1人(絢野かの)が、病気で欠場することが発表される。そこで残りのメンバー椿あい子の単独のパフォーマンスでは、心もとないと事務所が考えたのかどうかは分からないが、急遽、同じ事務所の夢アドがサポートメンバーとして共演することになった。
全3曲が披露され、一曲はCALL MY NAMEが単独で歌う(つまり椿あい子のソロ)。もう一曲は椿が夢アドをバックダンサーとして従えて、CALL MY NAMEの曲の歌い、そしてもう一曲が、出演者全員で「ファンタスティック・パレード」を歌うという構成。
おそらく日程的に、リハーサルらしいリハーサルは出来なかったと推測するが、冷静に考えてみると、これはお互いにとってかなり無茶な注文だったはず。ただしこの日のライブを観る限り、急造グループとは思えない、息のあったパフォーマンスを見せてくれた。実質的に夢アドの出番も増えたことだし、とりあえずは良かったのではないだろうか。
ライブのあとは、前日と同様に特典会で、寿莉亜姉さんとツーチェキを撮る。せっかく屋外にいるのだからと富士山をバックに撮ったのだが、出来上がったチェキを見ると、あまりにも天気が良すぎて、逆光で富士山がまったく写っていないというヘタを打ってしまった。なかなか思い通りにはいかないものだ。
その後はまったりと会場内を徘徊し、ナナランドやTask have funなどのステージを観る。
この日は前日に比べると入場者数がかなり多かったように思うが、それもそのはず、メインステージのSPARK STAGEのタイテには、午前中からハロプロや、スターダストのグループの名前がびっしりと列をなしている。
自分はとくにハロヲタというわけではないが、せっかくこういう機会なので、15:00からのSPARK ST
AGEで、OCHA NORMAのライブを観ることにする。
何かもう基本性能というかポテンシャルが違っていた。OCHA NORMAのライブは、過去に一度だけ、やはり何かのアイドルフェスで観たことがあったが、その時も新人離れしたパフォーマンスに思わず舌を巻いた記憶がある。
今回のライブも30分間のあいだ、ほとんど退屈することなく真剣に見入ってしまったが、メンバーの名前も楽曲もまったく知らない自分のような末席の観客をも満足させるのだから、やはり彼女達の実力は「ホンマモン」と言って良いだろう。
話は変わるが、この手の大型フェスになると、特典会場がとても賑やかで、アイドルが直接オタクにフライヤーを配っていたりして、盛り上がっていることが多い。
ところで、自分にはオタクとしての矜持というか、これだけは守らなくてはいけないという一線があり、そのひとつに「ライブを観ていないなら、特典会に行くべからず」という掟がある。
それはアイドルといえども表現者であり、やはりその評価は提示された作品(CD、DVD等)と、ライブパフォーマンスでするべきであり、特典会でアイドルと会う、話す、触れるというのは、あくまでもオマケ、副産物と考えているからだ。従って今回もライブを観ていないアイドルの特典会にはいっさい参加していない。...と言いたいところだが、実は今回、その掟を破ってしまった。
夕方近くに特典会エリアをうろついていたら、ふとマジカルパンチラインのブースが目についた。そういえば先日たまたまマジパンのリリースイベントを観て、ひとり気になるメンバーがいたんだよな。おっ、ブースの奥にいるじゃん。確かあの子だよ。うん、あの子。
よほど物欲しそうな顔に見えたのだろうか。マジパンのスタッフの人が声をかけてきた。「新規の人はライン登録してくれれば、無料で撮影が出来ますのでどうぞ。」えっ、マジか! いや待て待て待て、もう今日はマジパンの出番は終わっていて、オレは観ていない。ここでホイホイと誘いにのってしまうのは、自分のオタク道に反する。かといってせっかく親切に声をかけてきてくれたのを無下に断るのも心が痛む。
気がつくと私はライン登録をして、先日、気になったメンバー、吉澤悠華と一緒にスマホのフレームに収まっていた。残念ながら、今回はライブを観れなかったけど、TIFでは必ず観るので、それで勘弁してもらおう。
その後は、つばきファクトリーを数曲観たあと、BOTAN STAGEに向かいAppare!のステージを観る。この2日間で彼女達のライブアクトはすべて観たはずだが、このときのセットリストがいちばん攻めていて良かったと思う。
だんだんと日が落ちてくる頃、この日の最後の演者であるBEYOOOOONDSを観るために、再びSPARK STAGEへと移動する。会場内ではTEAM SHACHIが、熱のこもったパフォーマンスを披露しているところだった。
しばらくすると「今からみんなのところに行くよ!」と、メンバーがプロレスの場外乱闘さながらに、ステージを下りてきて客席に降臨。私が観ていた位置のかなり近くにまでメンバーがやってくる。当然のように会場内は大盛り上がり。その頃になると場内は真っ暗で、目視では確認できなかったが、観客席のかなり後方までメンバーは行っていたようだ。TIFでこんなことをしたら、おそらく永久追放処分が下されるだろう。前述したように、やはりこれはSPARK2023というゆるいイベントだからこそ実行出来た反則技なのだと思う。
もっと凄かったのはこのときのセトリで、何と「乙女受験戦争」を5曲連続で披露する。自分が場内に到着したときはちょうど3回目の「乙女受験戦争」が始まった頃だと思う。
あらゆる肉体言語を駆使して、最後方の観客にまで語りかける彼女達のヤケクソ気味のパフォーマンスは圧倒的で、場内のスタダファンは勿論のこと、BEYOOOOONDS待機のハロヲタをも飲み込み、彼女達が5度目の「乙女受験戦争」を歌い終えてステージを去ったあと、場内はどこか異様な雰囲気に支配されていた。
そして、そんな会場の興奮が醒めぬ間に、メインイベンターBEYOOOOONDSが登場。日は完全に沈み、会場内は漆黒の闇に包まれ、観客席から照らされる極彩色のペンライトの色が、暗がりの中でとてもよく映えて見える。
数時間前に観たOCHA NORMA以上に、アイドルとしてのスペックの高さと商品性を感じさせる゙。ハロプロというのは、昔から観客の支払った対価に対して、それに見合う優良なパフォーマンスを提供してくれるグループが多いが、もちろんBEYOOOOONDSも例外ではなく、常に安全安心のハロプロブランドの商品を供給してくれる。もっとスリルやリスクを味わいたいというのなら、他のアイドルグループを探せばいい。安全安心の品質保証をしてくれる商品は少ないが、危なっかしいのならいくらでもある。
さすがにメインステージの大トリだけあって、盛り上がることは盛り上がるのだが、ひとつ前に登場したTEAM SHACHIのようなリミッターを切ったような乱暴さはなく、全体的に手堅くまとめたような内容だった。
終演後、会場の外へ向かう途中、場内からはアンコールの声が聞こえてきた。アンコール? バカな。もう終演時刻はとうに過ぎている。ましてやワンマンライブではあるまいし、アンコールなんかあるわけ無いだろ。
時間にして1分か2分、あるいはもっと経っていたかもしれない。突然、場内から歓声が上がり、その瞬間だ!
「タタタタタタタタ...Hey Yo!」
それは、まるでロケット噴射のような「ニッポンノD・N・A!」だった。
あわてて場内に戻ったが、その後のことは興奮していて何だかよく覚えていない。
この手のフェスで、いくら大トリとはいえアンコールに答えるというのは、あまり考えられず、繰り返しになるが、やはりこれもSPARK2023に゙住む魔物がそうさせてしまったのだろうか。
メンバーがステージから去ったあと、場内から自然発生的に湧き上がる゙「BEYOOOOONDSサイコー」コールを耳にしながら、私は心地よい疲労感と共に会場を後にした。
来年もきっとこの場所に戻ってくることを誓いながら。