久しぶりに歩いた竹下通りの喧騒は、中高年のオヤジには、どこか場違いで居心地が悪く、明らかに自分ひとりが浮いているように思えてくる。そんな気恥ずかしさを覚えながら、私は冷たい雨の降る中、原宿RUIDOへと歩を進めていた。


 はたしてこの会場に来たのはいつ以来だろう。TPDにとって事実上最後のライブとなった公演が、96年の3月にこの場所で行われているが、ひょっとしたらそれ以来かもしれない。


 地下のフロアへと続く階段を降りるとそこには懐かしい風景が...と思いきや、店内は改装されており、当時の面影はまったく残っていなかった。しかしそんなことはこの際どうでもよくて、問題なのは、この場所へ、彼女達が「TPD」として、運命的な帰還を果たしたことである。


 フロアにパイプ椅子が並べてあるところは昔のRUIDOと同じ。観客の収容人数もだいたい同じくらいだろうか。ただし以前よりもステージが若干広くなったような気がする。


 定刻時間が過ぎて、場内が暗転し、ジェット機の轟音がフロアに鳴り響いたとき「まさか!」と思ったが、そのまさかだった。


 28年ぶりの原宿RUIDO公演。それは「BACK IN THE U.S.S.R亅から始まった。


 手元に資料がないので、断言は出来ないが、自分の記憶を信じれば、この「BACK IN THE U.S.S.R」、おそらくシアターサンモール以来のパフォーマンスになるのではないだろうか。それにしてもよくこんな古い音源が残っていたものである。


 ステージ上には川村知砂、中川雅子のツートップに新井雅と愛ちゃん、それにアッコもいる。前回の六本木の公演では、観ているうちに段々と気分が高揚していったが、今回のライブはいきなりジェットコースターを急角度で降下していくようなスリリングな展開で始まった。


 続いて「ブギウギ・ダンシング・シューズ」、「ジャスト・ライク・マジック」といった定番曲が続いたとき、思わず膝を打った。つまり今回の公演のテーマは原点回帰ではないだろうかと。なるほど、この日、披露されたほぼすべての楽曲が初期の作品のみに限定されていたのは、明らかに原宿RUIDOという会場を意識してのことだった。


 さて前回の公演では、久しぶりに「TPDのアッコ」が観れたという感激で、興奮のあまり取り乱してしまったが、あの時と比べたら、今回はいくらか冷静さを保てたような気がする。とはいえ前回よりも単純にアッコの出番が増えたのは、明らかに俺得な内容だった。


 それにしても..と思う。事実は小説よりも奇なりというバイロンの言葉があるが、本当に数ヶ月前まではこんなことが起こり得るなんて、予想だにしていなかった。 DANCE SUMMITの御旗のもとに、かつてTPDに在籍したメンバーが同じステージに立ち、当時のライブを再現している。その姿を観ているだけで胸が熱くなってくるが、さらに言えば今回の公演ではBishiこと石井智子と、6期生だった高野モニカもそこに加わり、新旧メンバーが入り乱れ、もはや何でもありの様相を呈している。


 驚いたのは前回とライブの内容をガラッと変えてきたことだった。細かくチェックしたわけではないが、感覚的には90%くらい、RUIDO仕様のセットリストに変えてきたように思う。前回のセトリも良かったが、今回の曲目もそれに匹敵するくらい素晴らしかった。【シンTPD】によって、新しく生命を吹き込まれた名曲の数々は、観客の感情移入を受け入れ、まるで各々のメンバーの人生を映し出しているかのようにも見えた。


 では私が今回もっとも感情移入した曲は何だったか?


 それは徳永愛がボーカルを担当した「ラッキー・ラヴ」である。イントロを聞いただけで身震いするほど大好きな曲だが、今回、愛ちゃんのバックには、パジャマを着たアッコとモニカがいる。さらには寸劇のシーンでBishiが乱入するというのも一興で、繰り返すが本当にこんなシーンが見られるなんて夢にも思っていなかった。TPDのラッキー・ラヴ史の中で、順位をつけるとしたら、その最上位に位置するのは、93年2月に、やはりここ原宿RUIDOで行われた中川雅子バージョンだと思う。しかし愛、アッコ、Bishiという登場メンバーの思い入れだけで言ったら、今回のバージョンのほうが上かもしれない。同時に、私は高野モニカというメンバーのことをよくは覚えていなかったが、今回、ウン十年ぶりに観ていたら思い出してきた。アートスフィアのときに浴衣姿で前座で出てきたコだ..たぶん。(違ってたりして)


 そして、この日のキラーチューンをもう一曲あげるとしたら、やはり、それは前回同様に新井雅の「愛なんて」になるだろう。「ラッキー・ラヴ」のようなコミカルなナンバーも良いが、ここでは強面のTPDが観れる。当時から好きな曲だったが、この曲の見せ場は歌というよりも、エッジのきいた緊張感のあるダンスだろう。雅をセンターに置き、バックには新旧4人のメンバーが激しく競い合うように踊る。下手側のマチャコ、愛ちゃんと、上手側の川村、アッコが「対」を成しているようにも見えるし、フロントの雅がバックの4人を従えているようなフォルムにも見える。観る側の想像力と知的興奮を駆り立てるような図式だ。 


 ジェットコースターに乗っているような状態は、結局、最初から最後まで続き、本当に夢のようなセットリストだったが、とくに「BAD DESIRE」からラストの「OVERNIGHT SUCCES」までの、息もつかせないような展開は圧倒的で、マチャコはライブの終盤で観客に注意勧告をするべきだったと思う。「お客様の中で、こんな症状の人はいませんか? 心臓に疾患のある人や、高血圧の人は、これからラストまでの時間は、あまりにも刺激が強すぎるから、すぐに会場から出ていったほうがいい..」と。


 私は今回の【ひとりTPD】を、至福と追憶が入り混じった感情の中で観ていた。マチャコが師と仰ぐDANCE SUMMITの礎を築いた中村先生は数年前に他界し、当時のTPDメンバーの多くは、今では芸能とは関係のない普通の生活を営んでいる。時の流れは残酷で、我々は身近な人間の死を、現実として受け入れなくてはならない年代に差し掛かってきた。しかしいくら振り返ってみても、もう二度と過去に戻ることは出来ない。


 それでも【ひとりTPD】は、30年前に受けた多くの感動と興奮を、再び思い起こさせる絶好の機会を我々に与えてくれた。私は91年に初めてTPDのライブを観てから、活動を停止するまでの数年間、時間の許す限り彼女達のライブを観てきたが、少しづつその記憶は曖昧になってきている。 今回、時間を巻き戻し、再びTPDを観ることが出来て、それが夢や幻ではなく、30年前にかかった魔法がいまだに解けずにいるのだということを改めて再確認した。アンコールの「ロコモーション」で、メンバーひとりひとりがステージに登場してきたとき、いろんな記憶がフラッシュバックし、思わず涙腺が緩んできたが、この歳になっても、こんな気持ちにさせてくれるTPDというグループは、やはり私にとって唯一無二の存在だ。


 次回の10月公演までのあいだ、当分TPDロスが続きそうだが、「次」があるんだという幸せを、同時に今噛み締めている。


 





 


 






 


 



 



 

 



 






 






 


 


 


 


 


 


 



 




 


 



 情弱なので、前回8月にCHANCE STUDIOで行われた公演のチケットを取り損ない、とても悔しい思いをしていたのだが、公演終演後に知り合いから、10月に六本木で追加公演が行われると、すぐさま連絡が入った。

 しかも今度の公演には、自分のパフォーマンスドール人生の中でも、最愛のメンバーだったと言っても過言ではない、アッコこと鈴木明子が電撃参戦するというではないか。自分を古くから知る人間だったら、私がどういうテンションで今回の公演を迎えたのかお分かり頂けると思う。

 六本木金魚という会場には初めて行ったが、ライブスペースというよりも、いわゆるキャバレーというか、ショーパブというやつで、どこか悪趣味で何やらいかがわしい雰囲気を放っている。

 場内に入ると、ステージに設置された正面のスクリーンには、92年の4月に日本青年館で行われた公開オーディションの映像が流れている。今改めて見ると髪型といい、化粧といい、格好といい、やたら古臭く感じる。 当たり前だろう。今から30年以上も前のアイドルの映像だ。 あのときステージ上にいたメンバーを、まさか30年後も観ることになるとは夢にも思わなかったが、それはメンバーとて同じ気持ちだったはず。

 失われた時を求めて、令和のDANCE−SUMMITが六本木で開幕する。

 オープニングは川村知砂と中川雅子の2人による「黄昏蝶々」。あまりコマーシャルな楽曲とは言えず、一曲目にしては意表をついた選曲だが、エキゾチックで異国情緒溢れるメロディがフロアを包み込み、六本木金魚の怪しい空間ととてもよくマッチする。

 軽い挨拶を挟み、そのまま川村、中川両名による原宿ジェンヌのレパートリーが矢継ぎ早に歌われる。当時の振り付けがそのまま再現されているのが嬉しい。中には今世紀に入って、初めて聴いたような懐かしい曲もあり、久しぶりに旧友に会って思わず話がはずむような感覚を覚える。

 しかしそんな感慨に浸る間もなくライブは急展開し、「Tokyo Romance」の音源にのって、ステージ上には新井雅と徳永愛が登場する。頭にはハットを被り、手にはステッキを持っている。雅を生で観るのは20年くらい前に行われたUNPLUGGED TPD以来か。愛ちゃんを観るのもCHANCE以来なので、やはりそれなりに年数が経っている。 愛ちゃんの表情がやや硬く、緊張しているのが見ていてわかる。対して雅はとても落ち着いているように見える。

 下手に徳永愛、上手に新井雅をそのまま配した状態で、川村さんのソロ曲「誓い」へと続くわけだが、ここでアクシデントが発生する。マイクトラブルで川村のボーカルがまったく聞こえない。異変に気づいた雅が機転を利かせて舞台袖に引っ込み、川村のマイクを取り替えて事無きを得たが、このときの雅の動きがとてもスマートで、まるで一流レストランのウェイターがテーブルに飲み物を運んでくるかのごとく、さり気なく川村のマイクを取り替えた。しかしそんなアクシデントがあったにも関わらず、ライブそのものは決して悪い感じがしない。

 「誓い」のあとは、そのまま川村さん一人だけがステージに残り、曲は「DANCE FOR YOUR FUTURE 」へと変わる。自分の記憶が正しければ、この曲は過去のTPDのステージで一度も歌われたことはないと思う。つまり固定のダンスフォーメーションがないので、バックダンサー2人が捌けたということではないだろうか。 

 次に歌われたマチャコのソロ「HEAVEN×2」も、それなりに意表をついた曲だが、これも過去にTPDのステージでは聴いた記憶がない。川村さんの「DANCE FOR THE FUTURE」同様、あえて無難な曲だけでセトリを組まないところに、今回のライブの本気度がメンバーから伝わってくる。
   
 続いて「In The Arm of Night」。ボーカルが中川でバックには愛ちゃんと雅が再登場。これも記憶が正しければ、おそらく3人とも初挑戦の曲だと思う。しかもかなり難易度の高い曲だ。予想外の曲が何曲か続き、 ステージが進行するにつれ、これは相当に良いライブなのではないかという気がしてきた。いわゆる「例の化学反応」が自分の体内で少しづつ起き始めた。あのTPDを観た時に起こる全身の血液が沸騰して、ドーパミンが放出されているような普通ではない感覚。

 川村さんとマチャコのソロ、もしくはツインボーカルを中心にライブは進行し、雅と愛ちゃんは基本的にはほぼ2人のバックダンサーに徹する。また大藤さんはライブの場面場面でソロを担当し、それらを有機的に繋ぎ合わせることによって、彼女達が昔のTPDのDANCE−SUMMITを再現しようとしていることは明らかだった。

 「AirPort」
「太陽の陰」
「BOOGIE WONDERLAND」
「ストレートアヘッド」
「JUST LIKE MAGIC」...

 何だか目眩がしてきそうな曲が続くが、TPDは30年以上前に、すでにこれだけのことをやっていた。その事実は改めて驚愕に値することである。
 
 そして個人的な関心としては、アッコがいったいどのタイミングで登場するのかということだったが、それはライブが折り返しに差し掛かった頃、突然やってきた。

「愛なんて」 。

新井雅がセンターでボーカルを務め、バックダンサーに川村さん、マチャコ、愛ちゃん、そしてアッコの4人。言うまでもなく現役時代にこんな編成が組まれたことは一度もない(というよりも時系列的に実現不可能だ)。雅にとってTPD時代唯一のソロ曲なので、ひょっとしたら今回の公演でも歌うのかなと思っていたが、歌にしてもダンスにしても、難しい曲なので、個人的にはやめたほうがいいだろうなと思っていた。しかし、この難しい曲に勝算があるほどグループとして仕上がっていた。つまり「勝てる」と思ったからセットリストに加えたのだ。

 新井雅のバックで、川村が踊っているというのも凄いし、アッコと愛ちゃんが、TPDの曲を一緒に踊っているというのも、昔から二人をよく知る自分にはまるで胸を締めつけられるような感慨があった。また愛ちゃんとマチャコが一緒に踊っているというのも、いにしえのCHANDOLLを彷彿とさせる。さらに言えばマチャコとアッコという絵面も、これまた不思議な魅力があり、とにかく個人的にはいろんな見せ場があった「愛なんて」だった。

 「愛なんて」があまりにも凄くて、しばし呆然としていたが、次の「ファンタジー」と大藤さんの歌ったソロ曲「 Far away」は、そんな自分の興奮を醒ますにはちょうどよかった。

「レモンのKISS」は川村さんが参加することによって、笑いを取りにきているのだろう。これもまた別の意味で想定外だ。さらにマチャコの「予感」「LOVEが泣いている」と続き、もう何だかよくわからない感動と興奮が身体の中を突き抜けていく。

 そして「BAD DESIRE」だ。ここで再びアッコ登場。おそらく彼女は30年近く前に、この曲を踊ったことなどほとんど覚えていないだろう。 

 それにしても彼女の凄みのあるダンスはどうだ。過去と現在が交錯し、気が狂わんばかりのエモーションの洪水が自分の胸中に去来する。このまま死んでも、我が生涯に一片の悔いもないが、なるべく冷静に観ることにつとめた。

 続く「SLASH DANCE」から、本編ラストの「空に太陽がある限り」への流れも実に気持ちがよく、欲を言えば「空太」は、大藤さんにも頑張って参加してもらいたかったが、それは贅沢というものか。

 アンコールの一曲目は「CATCH!!」だ。代表曲のひとつだが、意外なことに実はこの曲もTPDのライブ史の中では、さほど歌われていない。したがって生で観るのはけっこう貴重だったりする。
 
 その後、ステージ上には、この日の出演したメンバー全員が横並びで登場。もはや一言では言い尽くせないような感情が湧いてくる。会場に集まった観客の大半は、過去にTPDのライブを観たことのある人間だと思うが、誰しもが満足そうな表情を浮かべている。

 来年2月には原宿RUIDOで再び公演が行われることが告知され、ラストはもちろん全員で「WEEKEND PARADISE」が歌われた。

 強力な余韻とともに、令和のDANCE−SUMMIT【ひとりTPD】は終わったが、なぜこの公演が成功したのかを、自分なりの視点で考えてみたい。 

 簡単に言えば、それは個々のメンバーがTPDのライブというものが、何なのかを理解し、それを正確に実践したからだと思う。今、TPDをやるにあたって自分達が何をするべきなのか。彼女達はそのことをわかっていた。それがわかっていたから、大藤さんは歌うことだけに集中し、雅と愛ちゃんはバックダンサーになることを選択した。 また川村さんがマチャコのために、一生懸命尽力したのも自分がTPDの最年長メンバーとして、このグループとどう関わるべきなのかをわかっていたからだと思う。

 プレイングマネージャーのマチャコは、令和の今、TPDをやるためには何が自分達には必要で、何が欠けているのかを徹底的に考えたのだと思う。クロスワードパズルの解答を解くように、今のメンバーで何が出来るかを分析し、導き出した答えが今回のセットリストとメンバーの分担だったのだろう。

  これまでにも、TPDの元メンバーによってTPDの楽曲が歌われたライブが過去に何度かあったが、本当の意味でそこにTPDは存在していなかった。何故かといえば、出演しているメンバーが、TPDのライブとは何なのかということに対しての自覚が、ほぼほぼなかったからである。そこで歌ってるのは確かにTPDの元メンバーだが、彼女達自身が本気でTPDであろうという自覚がない限り、TPDのマジックは決して降りてはこないし、生まれはしない。

 数年前、亀戸で行われた昔のアイドルだけを集めたコンサートで、木原、川村、八木田の3人がTPDを再現したことがあった。しかし、それはまるで「出涸らし」のような歌とダンスで、過去のTPDのライブには遠く及ばないものだった。メンバー達も、せっかく呼ばれたし、ヒマだったので歌いにきましたというスタンスで、おおよそTPDのライブというものに対して、真剣に向き合っているようには思えなかった。

 自分は今回の公演が、あのときの亀戸のライブのような、ぬるい展開になることをとても怖れていたが、予想は嬉しい方向に外れ、そこにはかつて我々が夢中になったTPDが確かにいた。

 TPDのように常にメンバー間の愛憎が入り乱れたようなグループで、マチャコのような典型的な妹キャラだったメンバーが、今回グループを牽引したのは、とても意外だったが、逆に言えばマチャコのようなタイプの人間だからこそ、こういう仕事が出来たのかもしれない。今後、このグループが期間限定的なもので終わるにしても、最後にピリオドを打つのは、マチャコ自身の意志であって欲しいと私は願う。

 最後に少しだけ、この日あった個人的な事柄を書く。

 夜の部が開場し、私が上手側の最前列(アッコのゼロズレ席)に座り、開演を待っていたときのこと。少し前に挨拶を交わしたTPD時代からのヲタ友が、元メンバー(今は一般人なので、ここでは名前を伏せる)を引き連れて、突然、私の目の前に参上した。いきなりすぎて、そのメンバーとはあまり気の利いた会話は出来なかったが、単純に私が嬉しかったのは、30年近く経過しているにも関わらず、かつてのチームメイトが出演するライブを、遠方からわざわざ観に来てくれたという粋な心遣いだった。ステージ上のメンバーにも、間違いなくその気持ちは届いていたはず。そして、彼女と話してみて思ったのは、今は現役ではないにせよ、一度でもステージにあがった人間は、ファンの立場からしてみれば、その人は永遠にアイドルであり、憧憬の存在だということだ。

 多くの人達にとって、若い頃に自分が熱中したアイドルというものは、過去の記憶として封印され、その後の人生において、二度と観ることも、会うこともなく終わるものなのだと思う。また、それがアイドルとオタクとの正しい関係性なのだろうということもわかる。

 それでも私はこの日、ステージ上と客席で憧憬の存在と久しぶりに再会出来てとても幸せだった。



 

 

 

 





 

 

 


 

 



 



 

 


 

 



 














 

 


 

 

 




 

 

 
 








 



 

 



 


 


 

 
 

 

 

 
 






 

 

 

 

   7月15.16日の両日、一年ぶりに山中湖畔のアイドルフェスSPARK2023に行ってきた。2日間とも天候に恵まれ、久しぶりに充実感のあるオタ活だった。具体的なライブの感想に入る前に、今回のフェスの全体的な印象から。 


 今年のSPARK2023、それはようやくアイドルフェスが、本来の姿を取り戻した時間だったと思う。マスク着用の義務も、ソーシャルディスタンスの強要もそこにはなく、ステージ上のアイドルの熱唱に、オタク達が大声で合いの手やコールを入れる。数年前まで当たり前だったライブの日常が、こうして戻ってきたことの意味はとてつもなく大きい。


 また、この山中湖畔というロケーションがとても素晴らしく、都会から離れ、自然の中でアイドルを観ているという非日常性が、このイベントを特別なものにしていた。会場内はどこか牧歌的で「ゆるい」空気が支配していて、まるでこの場所だけ時間がゆっくりと流れているようだった。


 そういえば出番を終えたアイドルが、他のアイドルの特典会に普通に参加してチェキを撮っていたり、屋台の出店に並んで、焼きそばを買っていたりといったレアな光景を見かけたが、それもこのSPARK2023というフェスの「ゆるさ」がそうさせてしまうのだろう。もっとスゴかったのは、出番前の手羽先センセーションのオレンジの子(名前がわからない。スイマセン)が、ステージ衣装のまま普通に観客エリアで、オタクに混じってつばきファクトリーのライブを観て盛り上がっていたこと。演者である特権を行使せずに、あくまでもひとりのオタクとして行動する彼女の姿勢は素晴らしい。


 以下はこの2日間で特に印象に残った事柄の具体的な感想で、ある程度、時系列にそって書いていこうと思う。


 そもそも今回の遠征の目的というか、最大の動機は、この場所で一年越しのリベンジを果たすことにあった。これには少しばかりの説明を要する。


 昨年の7月、幕張のNATSUZOMEのステージで、たまたま数年ぶりに夢みるアドレセンスのライブを観て、ひとり気になるメンバーを見つけた。歌っているときの表情が豊かで、小柄だが不思議と大人びた色気を持っているそのメンバーが気にかかり、帰宅後に調べてみると、その子の名が鳴海寿莉亜だということが判明した。なるほど彼女が今の夢アドのリーダーなのか。


 夢アドのライブスケジュールを見ると、ちょうどいい具合に、自分が近々行く予定にしている山中湖のアイドルフェスに出演が決まっているではないか。よし、これはもう一度ちゃんと観てみる必要がありそうだな。と盛り上がったのも束の間、本番直前になって彼女がコロナに感染していることが判明し、当然の如く山中湖の出演は見送られてしまった。


 なので、今回この場所で夢アドを観る、というか鳴海寿莉亜に会うというのは、1年前の忘れ物を取りにいくような不思議な感慨があった。


 初日、中央自動車道の渋滞によって到着が遅れ、残念ながらCALL MY NAME feat 夢みるアドレセンスのステージが観れなかったが、その後の特典会には参加出来た。そもそも自分はツーショットでアイドルとチェキを撮ることに大して関心はなく、普段はほぼスマホのワンショットで事足りているのだが、この日は今年になって初めて寿莉亜ネキとツーショのチェキを撮ってしまった。まあせっかく遠くまで来たのだし、たまにはこういうのも良いかと。


 夢アドの単独ステージは、日没の頃、KIKU STAGEで行われたのだが、何と言ってもこの日のライブの目玉は、新体制後はじめて披露された「アイドルレース」に尽きるだろう。おそらく夏の野外ライブを見据えて温存していたのだと思うが、イントロのスタートシグナルの音が聴こえた瞬間、興奮して思わず叫んでしまった。


  

 初日、他に印象に残ったグループとして、まずは虹のコンキスタドールをあげたい。虹コンのライブを観たのは、去年の夏以来になるが、いつの間にかグループを卒業、引退していたはずのメンバーが、シレッと復活していたのには笑ってしまった。いや、そこを突っ込むのは野暮ってものか。


 この手のフェスで顔役と言ってもいい虹コン、FES☆TIVE、Appare!といったグループにはひとつの共通項があるように思う。それはメンバーが年中入れ替わっているのに、グループのイメージがデビュー以来ほとんど変わらない点だ。虹コンの場合、とくにその傾向が顕著であり、メンバーが誰であろうと、MVの中で水着を着て、夏のナンバーさえ歌っていればとりあえず虹コンになる。今回のライブでも、いつもと同じように夏をテーマにしたアゲアゲ曲ばかりが歌われていた。普通に考えると、それはマンネリズムと停滞を意味するが、虹コンの場合、それが一種の様式美として成立しているところが凄い。この日のライブを観て改めて感じたが、彼女達ほど夏の野外ステージが似合うグループはいないと思う。


 次にDIALOGUE+。去年のSPARK2022で、たまたまこのグループのライブを観て、衝撃と言ったらちょっとオーバーになるが、それでもそれ相応のインパクトを受けたことは確かだった。


 このDIALOGUE+。何と言ってもグループ名がいい。昨今のアイドルグループは、アンタら本気で売れるつもりがあるのかよと、思わず頭を抱えたくなるようなグループ名が多いが、そんな凡百のアイドルグループには絶対にないようなセンス、知性、クールさがDIALOGUE+というグループ名にはある。


 そして本業が声優とは思えないような質の高いパフォーマンス。名は体を表すというが、これまた巷のアイドルグループによくありがちな、意味のない観客への煽りがなく、どこまでも静謐に、知的にパフォーマンスをこなす。


 この日、彼女達のライブを2ステージとも観させてもらったが、あいかわらずのクオリティの高さに感服した。あえてウィークポイントを探すとするなら、ルックスが地味で、いわゆるアイドル特有の油っこさに欠けるところだろうか。しかし彼女達には、それを補って余るだけの魅力がある。8月のTIFでも本当に楽しみなグループだ。


 翌日、16日(日)は朝から快晴。日差しは強いが湿気がないので、あまり不快な暑さには感じられず、まさにフェス日和といったところだろうか。


 昨日、観れなかったCALL MY NAME feat. 夢みるアドレセンスの出番に合わせて現場に到着する。


 CALL MY NAME feat.夢アドに関しては、少しだけ説明が必要だろう。


 SPARK2023の本番直前になって、CALL MY NAMEのメンバー1人(絢野かの)が、病気で欠場することが発表される。そこで残りのメンバー椿あい子の単独のパフォーマンスでは、心もとないと事務所が考えたのかどうかは分からないが、急遽、同じ事務所の夢アドがサポートメンバーとして共演することになった。


 全3曲が披露され、一曲はCALL MY NAMEが単独で歌う(つまり椿あい子のソロ)。もう一曲は椿が夢アドをバックダンサーとして従えて、CALL MY NAMEの曲の歌い、そしてもう一曲が、出演者全員で「ファンタスティック・パレード」を歌うという構成。


 おそらく日程的に、リハーサルらしいリハーサルは出来なかったと推測するが、冷静に考えてみると、これはお互いにとってかなり無茶な注文だったはず。ただしこの日のライブを観る限り、急造グループとは思えない、息のあったパフォーマンスを見せてくれた。実質的に夢アドの出番も増えたことだし、とりあえずは良かったのではないだろうか。


 ライブのあとは、前日と同様に特典会で、寿莉亜姉さんとツーチェキを撮る。せっかく屋外にいるのだからと富士山をバックに撮ったのだが、出来上がったチェキを見ると、あまりにも天気が良すぎて、逆光で富士山がまったく写っていないというヘタを打ってしまった。なかなか思い通りにはいかないものだ。


 その後はまったりと会場内を徘徊し、ナナランドやTask have funなどのステージを観る。


 この日は前日に比べると入場者数がかなり多かったように思うが、それもそのはず、メインステージのSPARK STAGEのタイテには、午前中からハロプロや、スターダストのグループの名前がびっしりと列をなしている。


 自分はとくにハロヲタというわけではないが、せっかくこういう機会なので、15:00からのSPARK ST 

AGEで、OCHA NORMAのライブを観ることにする。


 何かもう基本性能というかポテンシャルが違っていた。OCHA NORMAのライブは、過去に一度だけ、やはり何かのアイドルフェスで観たことがあったが、その時も新人離れしたパフォーマンスに思わず舌を巻いた記憶がある。


 今回のライブも30分間のあいだ、ほとんど退屈することなく真剣に見入ってしまったが、メンバーの名前も楽曲もまったく知らない自分のような末席の観客をも満足させるのだから、やはり彼女達の実力は「ホンマモン」と言って良いだろう。

 

 話は変わるが、この手の大型フェスになると、特典会場がとても賑やかで、アイドルが直接オタクにフライヤーを配っていたりして、盛り上がっていることが多い。  


 ところで、自分にはオタクとしての矜持というか、これだけは守らなくてはいけないという一線があり、そのひとつに「ライブを観ていないなら、特典会に行くべからず」という掟がある。


 それはアイドルといえども表現者であり、やはりその評価は提示された作品(CD、DVD等)と、ライブパフォーマンスでするべきであり、特典会でアイドルと会う、話す、触れるというのは、あくまでもオマケ、副産物と考えているからだ。従って今回もライブを観ていないアイドルの特典会にはいっさい参加していない。...と言いたいところだが、実は今回、その掟を破ってしまった。


 夕方近くに特典会エリアをうろついていたら、ふとマジカルパンチラインのブースが目についた。そういえば先日たまたまマジパンのリリースイベントを観て、ひとり気になるメンバーがいたんだよな。おっ、ブースの奥にいるじゃん。確かあの子だよ。うん、あの子。


 よほど物欲しそうな顔に見えたのだろうか。マジパンのスタッフの人が声をかけてきた。「新規の人はライン登録してくれれば、無料で撮影が出来ますのでどうぞ。」えっ、マジか! いや待て待て待て、もう今日はマジパンの出番は終わっていて、オレは観ていない。ここでホイホイと誘いにのってしまうのは、自分のオタク道に反する。かといってせっかく親切に声をかけてきてくれたのを無下に断るのも心が痛む。


 気がつくと私はライン登録をして、先日、気になったメンバー、吉澤悠華と一緒にスマホのフレームに収まっていた。残念ながら、今回はライブを観れなかったけど、TIFでは必ず観るので、それで勘弁してもらおう。


 その後は、つばきファクトリーを数曲観たあと、BOTAN STAGEに向かいAppare!のステージを観る。この2日間で彼女達のライブアクトはすべて観たはずだが、このときのセットリストがいちばん攻めていて良かったと思う。


 だんだんと日が落ちてくる頃、この日の最後の演者であるBEYOOOOONDSを観るために、再びSPARK STAGEへと移動する。会場内ではTEAM SHACHIが、熱のこもったパフォーマンスを披露しているところだった。

 

 しばらくすると「今からみんなのところに行くよ!」と、メンバーがプロレスの場外乱闘さながらに、ステージを下りてきて客席に降臨。私が観ていた位置のかなり近くにまでメンバーがやってくる。当然のように会場内は大盛り上がり。その頃になると場内は真っ暗で、目視では確認できなかったが、観客席のかなり後方までメンバーは行っていたようだ。TIFでこんなことをしたら、おそらく永久追放処分が下されるだろう。前述したように、やはりこれはSPARK2023というゆるいイベントだからこそ実行出来た反則技なのだと思う。


 もっと凄かったのはこのときのセトリで、何と「乙女受験戦争」を5曲連続で披露する。自分が場内に到着したときはちょうど3回目の「乙女受験戦争」が始まった頃だと思う。  


 あらゆる肉体言語を駆使して、最後方の観客にまで語りかける彼女達のヤケクソ気味のパフォーマンスは圧倒的で、場内のスタダファンは勿論のこと、BEYOOOOONDS待機のハロヲタをも飲み込み、彼女達が5度目の「乙女受験戦争」を歌い終えてステージを去ったあと、場内はどこか異様な雰囲気に支配されていた。


 そして、そんな会場の興奮が醒めぬ間に、メインイベンターBEYOOOOONDSが登場。日は完全に沈み、会場内は漆黒の闇に包まれ、観客席から照らされる極彩色のペンライトの色が、暗がりの中でとてもよく映えて見える。


 数時間前に観たOCHA NORMA以上に、アイドルとしてのスペックの高さと商品性を感じさせる゙。ハロプロというのは、昔から観客の支払った対価に対して、それに見合う優良なパフォーマンスを提供してくれるグループが多いが、もちろんBEYOOOOONDSも例外ではなく、常に安全安心のハロプロブランドの商品を供給してくれる。もっとスリルやリスクを味わいたいというのなら、他のアイドルグループを探せばいい。安全安心の品質保証をしてくれる商品は少ないが、危なっかしいのならいくらでもある。


 さすがにメインステージの大トリだけあって、盛り上がることは盛り上がるのだが、ひとつ前に登場したTEAM SHACHIのようなリミッターを切ったような乱暴さはなく、全体的に手堅くまとめたような内容だった。


 終演後、会場の外へ向かう途中、場内からはアンコールの声が聞こえてきた。アンコール? バカな。もう終演時刻はとうに過ぎている。ましてやワンマンライブではあるまいし、アンコールなんかあるわけ無いだろ。


 時間にして1分か2分、あるいはもっと経っていたかもしれない。突然、場内から歓声が上がり、その瞬間だ!


「タタタタタタタタ...Hey Yo!」


 それは、まるでロケット噴射のような「ニッポンノD・N・A!」だった。


 あわてて場内に戻ったが、その後のことは興奮していて何だかよく覚えていない。


 この手のフェスで、いくら大トリとはいえアンコールに答えるというのは、あまり考えられず、繰り返しになるが、やはりこれもSPARK2023に゙住む魔物がそうさせてしまったのだろうか。


 メンバーがステージから去ったあと、場内から自然発生的に湧き上がる゙「BEYOOOOONDSサイコー」コールを耳にしながら、私は心地よい疲労感と共に会場を後にした。


 来年もきっとこの場所に戻ってくることを誓いながら。