情弱なので、前回8月にCHANCE STUDIOで行われた公演のチケットを取り損ない、とても悔しい思いをしていたのだが、公演終演後に知り合いから、10月に六本木で追加公演が行われると、すぐさま連絡が入った。
しかも今度の公演には、自分のパフォーマンスドール人生の中でも、最愛のメンバーだったと言っても過言ではない、アッコこと鈴木明子が電撃参戦するというではないか。自分を古くから知る人間だったら、私がどういうテンションで今回の公演を迎えたのかお分かり頂けると思う。
六本木金魚という会場には初めて行ったが、ライブスペースというよりも、いわゆるキャバレーというか、ショーパブというやつで、どこか悪趣味で何やらいかがわしい雰囲気を放っている。
場内に入ると、ステージに設置された正面のスクリーンには、92年の4月に日本青年館で行われた公開オーディションの映像が流れている。今改めて見ると髪型といい、化粧といい、格好といい、やたら古臭く感じる。 当たり前だろう。今から30年以上も前のアイドルの映像だ。 あのときステージ上にいたメンバーを、まさか30年後も観ることになるとは夢にも思わなかったが、それはメンバーとて同じ気持ちだったはず。
失われた時を求めて、令和のDANCE−SUMMITが六本木で開幕する。
オープニングは川村知砂と中川雅子の2人による「黄昏蝶々」。あまりコマーシャルな楽曲とは言えず、一曲目にしては意表をついた選曲だが、エキゾチックで異国情緒溢れるメロディがフロアを包み込み、六本木金魚の怪しい空間ととてもよくマッチする。
軽い挨拶を挟み、そのまま川村、中川両名による原宿ジェンヌのレパートリーが矢継ぎ早に歌われる。当時の振り付けがそのまま再現されているのが嬉しい。中には今世紀に入って、初めて聴いたような懐かしい曲もあり、久しぶりに旧友に会って思わず話がはずむような感覚を覚える。
しかしそんな感慨に浸る間もなくライブは急展開し、「Tokyo Romance」の音源にのって、ステージ上には新井雅と徳永愛が登場する。頭にはハットを被り、手にはステッキを持っている。雅を生で観るのは20年くらい前に行われたUNPLUGGED TPD以来か。愛ちゃんを観るのもCHANCE以来なので、やはりそれなりに年数が経っている。 愛ちゃんの表情がやや硬く、緊張しているのが見ていてわかる。対して雅はとても落ち着いているように見える。
下手に徳永愛、上手に新井雅をそのまま配した状態で、川村さんのソロ曲「誓い」へと続くわけだが、ここでアクシデントが発生する。マイクトラブルで川村のボーカルがまったく聞こえない。異変に気づいた雅が機転を利かせて舞台袖に引っ込み、川村のマイクを取り替えて事無きを得たが、このときの雅の動きがとてもスマートで、まるで一流レストランのウェイターがテーブルに飲み物を運んでくるかのごとく、さり気なく川村のマイクを取り替えた。しかしそんなアクシデントがあったにも関わらず、ライブそのものは決して悪い感じがしない。
「誓い」のあとは、そのまま川村さん一人だけがステージに残り、曲は「DANCE FOR YOUR FUTURE 」へと変わる。自分の記憶が正しければ、この曲は過去のTPDのステージで一度も歌われたことはないと思う。つまり固定のダンスフォーメーションがないので、バックダンサー2人が捌けたということではないだろうか。
次に歌われたマチャコのソロ「HEAVEN×2」も、それなりに意表をついた曲だが、これも過去にTPDのステージでは聴いた記憶がない。川村さんの「DANCE FOR THE FUTURE」同様、あえて無難な曲だけでセトリを組まないところに、今回のライブの本気度がメンバーから伝わってくる。
続いて「In The Arm of Night」。ボーカルが中川でバックには愛ちゃんと雅が再登場。これも記憶が正しければ、おそらく3人とも初挑戦の曲だと思う。しかもかなり難易度の高い曲だ。予想外の曲が何曲か続き、 ステージが進行するにつれ、これは相当に良いライブなのではないかという気がしてきた。いわゆる「例の化学反応」が自分の体内で少しづつ起き始めた。あのTPDを観た時に起こる全身の血液が沸騰して、ドーパミンが放出されているような普通ではない感覚。
川村さんとマチャコのソロ、もしくはツインボーカルを中心にライブは進行し、雅と愛ちゃんは基本的にはほぼ2人のバックダンサーに徹する。また大藤さんはライブの場面場面でソロを担当し、それらを有機的に繋ぎ合わせることによって、彼女達が昔のTPDのDANCE−SUMMITを再現しようとしていることは明らかだった。
「AirPort」
「太陽の陰」
「BOOGIE WONDERLAND」
「ストレートアヘッド」
「JUST LIKE MAGIC」...
何だか目眩がしてきそうな曲が続くが、TPDは30年以上前に、すでにこれだけのことをやっていた。その事実は改めて驚愕に値することである。
そして個人的な関心としては、アッコがいったいどのタイミングで登場するのかということだったが、それはライブが折り返しに差し掛かった頃、突然やってきた。
「愛なんて」 。
新井雅がセンターでボーカルを務め、バックダンサーに川村さん、マチャコ、愛ちゃん、そしてアッコの4人。言うまでもなく現役時代にこんな編成が組まれたことは一度もない(というよりも時系列的に実現不可能だ)。雅にとってTPD時代唯一のソロ曲なので、ひょっとしたら今回の公演でも歌うのかなと思っていたが、歌にしてもダンスにしても、難しい曲なので、個人的にはやめたほうがいいだろうなと思っていた。しかし、この難しい曲に勝算があるほどグループとして仕上がっていた。つまり「勝てる」と思ったからセットリストに加えたのだ。
新井雅のバックで、川村が踊っているというのも凄いし、アッコと愛ちゃんが、TPDの曲を一緒に踊っているというのも、昔から二人をよく知る自分にはまるで胸を締めつけられるような感慨があった。また愛ちゃんとマチャコが一緒に踊っているというのも、いにしえのCHANDOLLを彷彿とさせる。さらに言えばマチャコとアッコという絵面も、これまた不思議な魅力があり、とにかく個人的にはいろんな見せ場があった「愛なんて」だった。
「愛なんて」があまりにも凄くて、しばし呆然としていたが、次の「ファンタジー」と大藤さんの歌ったソロ曲「 Far away」は、そんな自分の興奮を醒ますにはちょうどよかった。
「レモンのKISS」は川村さんが参加することによって、笑いを取りにきているのだろう。これもまた別の意味で想定外だ。さらにマチャコの「予感」「LOVEが泣いている」と続き、もう何だかよくわからない感動と興奮が身体の中を突き抜けていく。
そして「BAD DESIRE」だ。ここで再びアッコ登場。おそらく彼女は30年近く前に、この曲を踊ったことなどほとんど覚えていないだろう。
それにしても彼女の凄みのあるダンスはどうだ。過去と現在が交錯し、気が狂わんばかりのエモーションの洪水が自分の胸中に去来する。このまま死んでも、我が生涯に一片の悔いもないが、なるべく冷静に観ることにつとめた。
続く「SLASH DANCE」から、本編ラストの「空に太陽がある限り」への流れも実に気持ちがよく、欲を言えば「空太」は、大藤さんにも頑張って参加してもらいたかったが、それは贅沢というものか。
アンコールの一曲目は「CATCH!!」だ。代表曲のひとつだが、意外なことに実はこの曲もTPDのライブ史の中では、さほど歌われていない。したがって生で観るのはけっこう貴重だったりする。
その後、ステージ上には、この日の出演したメンバー全員が横並びで登場。もはや一言では言い尽くせないような感情が湧いてくる。会場に集まった観客の大半は、過去にTPDのライブを観たことのある人間だと思うが、誰しもが満足そうな表情を浮かべている。
来年2月には原宿RUIDOで再び公演が行われることが告知され、ラストはもちろん全員で「WEEKEND PARADISE」が歌われた。
強力な余韻とともに、令和のDANCE−SUMMIT【ひとりTPD】は終わったが、なぜこの公演が成功したのかを、自分なりの視点で考えてみたい。
簡単に言えば、それは個々のメンバーがTPDのライブというものが、何なのかを理解し、それを正確に実践したからだと思う。今、TPDをやるにあたって自分達が何をするべきなのか。彼女達はそのことをわかっていた。それがわかっていたから、大藤さんは歌うことだけに集中し、雅と愛ちゃんはバックダンサーになることを選択した。 また川村さんがマチャコのために、一生懸命尽力したのも自分がTPDの最年長メンバーとして、このグループとどう関わるべきなのかをわかっていたからだと思う。
プレイングマネージャーのマチャコは、令和の今、TPDをやるためには何が自分達には必要で、何が欠けているのかを徹底的に考えたのだと思う。クロスワードパズルの解答を解くように、今のメンバーで何が出来るかを分析し、導き出した答えが今回のセットリストとメンバーの分担だったのだろう。
これまでにも、TPDの元メンバーによってTPDの楽曲が歌われたライブが過去に何度かあったが、本当の意味でそこにTPDは存在していなかった。何故かといえば、出演しているメンバーが、TPDのライブとは何なのかということに対しての自覚が、ほぼほぼなかったからである。そこで歌ってるのは確かにTPDの元メンバーだが、彼女達自身が本気でTPDであろうという自覚がない限り、TPDのマジックは決して降りてはこないし、生まれはしない。
数年前、亀戸で行われた昔のアイドルだけを集めたコンサートで、木原、川村、八木田の3人がTPDを再現したことがあった。しかし、それはまるで「出涸らし」のような歌とダンスで、過去のTPDのライブには遠く及ばないものだった。メンバー達も、せっかく呼ばれたし、ヒマだったので歌いにきましたというスタンスで、おおよそTPDのライブというものに対して、真剣に向き合っているようには思えなかった。
自分は今回の公演が、あのときの亀戸のライブのような、ぬるい展開になることをとても怖れていたが、予想は嬉しい方向に外れ、そこにはかつて我々が夢中になったTPDが確かにいた。
TPDのように常にメンバー間の愛憎が入り乱れたようなグループで、マチャコのような典型的な妹キャラだったメンバーが、今回グループを牽引したのは、とても意外だったが、逆に言えばマチャコのようなタイプの人間だからこそ、こういう仕事が出来たのかもしれない。今後、このグループが期間限定的なもので終わるにしても、最後にピリオドを打つのは、マチャコ自身の意志であって欲しいと私は願う。
最後に少しだけ、この日あった個人的な事柄を書く。
夜の部が開場し、私が上手側の最前列(アッコのゼロズレ席)に座り、開演を待っていたときのこと。少し前に挨拶を交わしたTPD時代からのヲタ友が、元メンバー(今は一般人なので、ここでは名前を伏せる)を引き連れて、突然、私の目の前に参上した。いきなりすぎて、そのメンバーとはあまり気の利いた会話は出来なかったが、単純に私が嬉しかったのは、30年近く経過しているにも関わらず、かつてのチームメイトが出演するライブを、遠方からわざわざ観に来てくれたという粋な心遣いだった。ステージ上のメンバーにも、間違いなくその気持ちは届いていたはず。そして、彼女と話してみて思ったのは、今は現役ではないにせよ、一度でもステージにあがった人間は、ファンの立場からしてみれば、その人は永遠にアイドルであり、憧憬の存在だということだ。
多くの人達にとって、若い頃に自分が熱中したアイドルというものは、過去の記憶として封印され、その後の人生において、二度と観ることも、会うこともなく終わるものなのだと思う。また、それがアイドルとオタクとの正しい関係性なのだろうということもわかる。
それでも私はこの日、ステージ上と客席で憧憬の存在と久しぶりに再会出来てとても幸せだった。