X-MEN:ファースト・ジェネレーション(2011)
※ネタバレあり
【始まりの物語】
本作は、X-MEN第一作から時を遡り冷戦時代を生きる若き日のチャールズ=プロフェッサーXとエリック=マグニートー、レイブン=ミスティーク、ハンク=ビーストの4人を中心として如何にして彼らがX-MENの組織を立ち上げたのかが描かれます。
シリーズのスピンオフ的内容にも見えてしまいますが、少数派の苦悩というシリーズのテーマはしっかりと掘り下げられる重要作品であり、シリーズの予備知識の必要もないことから、初心者にもおすすめの作品でもあります。
【繊細な演出と信念の対立】
本作においてミュータントの面々は少数派として社会から一口に語られてしまいます。しかし、彼はミュータントは一人一人異なる血の通った人間です。本作はそれを、個々人の心情の機微に焦点を絞った繊細な演出で描きます。
チャールズとレイブンは、家族のように共に育ち強い絆で結ばれています。しかし、ミュータントと人類の関係には異なる考えを持ちます。チャールズは人類を信じ、共生の道を模索しますが、レイブンは人類を信じ切れません。
同じミュータントと総称される二人ですが、チャールズの能力はテレパスで外見上人類とのの差異はありません。一方のレイブンは青い肌を持つ人類とは大きく異なる外見を持ちます。手にした能力により、それぞれ人類との距離感がことなるからこそ、絆で結ばれたはずのチャールズとレイブンには信念に違いがあるのです。
そして、中盤レイブンと惹かれあうミュータントの科学者ハンクが登場します。ハンクも外見に影響が出るタイプのミュータント。
レイブンとの共通性から意気投合しますが、ハンクはミュータントの力を「治療すべきもの」と考えます。彼の考えは現実的なもののように思えますが、レイブンとしてはミュータントとしての自分を否定するものの様に思えてしまいます。
そして、レイブンのそのような葛藤に同調するのがエリックです。彼は「ミュータントは誇り」という信念を持ち、青い肌のありのままのレイブンを受け入れようとします。
エリックの考えは、孤独と迫害に苦しんできたミュータントの希望となるものですが、突き詰めれば、争いの火種となってしまうものです。だからこそ、チャールズは人類との共生を諦めず、エリックの説得を試みます。
「苦しむミュータントを救いたい」同じ理想を抱きつつも、経験や立場の違いから、考え方に少しの違いが生じ、やがて対立の道へ進んでしまう。繊細な心理描写から普遍的な歴史のジレンマを描き切るスマートかつ重厚なシナリオです。
社会的なテーマを論じるとなれば肩の凝る内容になりそうなものですが、本作はレイブンとチャールズ、ハンク、エリックの関係を軸に、個人のドラマを通して、壮大なテーマに接続する手法を取るため、とても見やすく、分かりやすい。
信念の対立という壮大なテーマをスティーブ、バッキー、トニー三者の友情のドラマに落とし込んだ「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(2016)とも通ずる手法です。
【実在の歴史が描かれる作品】
本作は1960年代の冷戦時代を舞台に実在の歴史的事件、キューバ危機を背景にスリリングなサスペンスが展開します。
本作公開時期のあたりから、実在の過去の歴史を扱うアメコミ映画が増えたように思います。
本作の続編「フューチャー&パスト」(2014)は1970年代。「アポカリプス」(2016)は1980年代。「ダークフェニックス」は1990年代。
別のシリーズでは「キャプテン・アメリカ/ファースト・アベンジャー」(2011)は第二次世界大戦の時代。「キャプテン・マーベル」(2019)は1990年代。「ワンダーウーマン」(2017)は第一次世界大戦。「ワンダーウーマン1984」(2021)は1980年代。
これら作品群は対策の潤沢な予算を活かして当時のファッションや文化、風景を精密に再現します。このような作品群から歴史を学んでみるのも面白いのではないでしょうか。
