メタルギアソリッド2 サンズ・オブ・リバティ(2001)
METAL GEAR SOLID 2 SONS OF LIBERTY(MGS2)
※ネタバレあり
【「コンテクストの生成」とは?】

近年、SNSの普及により、多くの人々がテクノロジーに関心を抱くようになりました。それゆえ人々は組織による情報の管理、検閲といったことにとても敏感になりました。イメージしやすいというのもあるでしょう。旧来のSF映画で多く用いられてきた題材でもあります。
そのような「コンテンツの制御」の問題点はイメージしやすい。しかし、本作において「愛国者達」のAIは自らの目的が「コンテンツの制御」ではなく「コンテクストの生成」であると言います。
では、「コンテクスト(文脈)の生成」の意味とは何なのでしょうか。
【愛国者達の目的とは】

トイレに行ったとき、このような張り紙を見たことがあります。
「トイレをいつもキレイに使ってくれて、ありがとうございます。」
意図は汲み取れます、要するにキレイに使ってほしいと利用者に呼びかけるているのでしょうが、どこか回りくどくも感じます。率直に意図を伝えるのなら次のような言い回しとなるでしょう。
「トイレはキレイに使ってください。」
しかし、そのように要望をはっきり伝えないのには理由があります。
「自己効力感」という心理学用語があります。人は自らが影響力を持てると感じることに積極的になりますが、反面、影響力を行使できないと感じる事柄には積極的になれないという心理傾向があります。命令されて強制されるような感覚があるから本能的に忌避感があるのでしょう。
ですから、例えば契約を取りたい営業マンなどは最初に複数のプランを提示してその中のどれかを選ばせる形を取り、ユーザーとの駆け引きをスムーズにしようとします。心理学では「ゴルディロックス効果」と呼ばれます。
さて、話を戻しますがトイレも「キレイに使ってください」とお願いすると命令された感じがして反発を招く。一方で「いつもキレイに使ってくれて、ありがとうございます。」と伝えると「いつもキレイに使っている複数の誰かの存在」を感じ取り、その複数に合わせようと自らキレイに使うという「選択」をする。
命令感をなくしつつ、自己効力感を与え、「みんながキレイに使っている」という「社会的圧力」で人の行動を決定付ける。
上記をまとめると、人はキレイにつかうという「自発的なモラル」よりも、みんながそうしているという「社会的圧力」に従いやすいということです。
そのような人間の行動の特性を利用することこそ、「愛国者達」のAIが語る「コンテクストの生成」の意味です。
だからこそ、「愛国者達」からプレイヤーの投影たる雷電への「自分なんてものがあなたにあるの?あなたは自由に値しない。」という批判が展開されるのです。
【ソリッド・スネークの言葉】

そして、デジタルの発達した現代社会においては「愛国者達」に限らず、誰にとっても、上記のような「コンテクストの生成」は容易になります。ネット上で一人の人間がアカウントを使い分け大勢を演じるというのは簡単なことだからです。
そのような手法は近年だとネット上の詐欺でも多く活用されてしまっています。大勢が参加していることなのだから安全というイメージは、ネット上では容易に作れるということです。
ですから、「大勢が信じているのだから安心」という判断はとても危険なものです。現代においては、個々人が情報そのものと向き合い真偽を判断しなくてはいけない。
「言葉を信じるな、言葉の持つ意味を信じるんだ。」
上述のソリッド・スネークの言葉は、そのような意味も内包しています。
【「英雄」というシステム】

ネット上にて「大勢」を詐称し、人心を操作することが「コンテクストの生成」の方法論と述べました。もう一つ、異なる方法論が本作で描かれます。
それは「英雄」というシステムです。
「英雄」とは、「大勢」の承認を得たものと定義できます。「大勢」の発言を信じやすい人は「英雄」の言葉を信じやすくもあります。その心の隙もまた、「愛国者達」に利用されかねない。
事実、近年ではネット上でテクノロジーを利用する形で「著名人」の発言を捏造し、「あの著名人が認めた商品」というようなフェイクの宣伝が幅広く展開されてしまっています。
「誰が言ったのかではなく、何を言っているのか」を考える。そのようなリテラシーをはぐくむことが重要と言えます。
だからこそ、ソリッド・スネークは「俺は英雄じゃない」と繰り返し発言し、私たちに自発的な思考を促すのです。
本作のラスボス、ソリダス・スネークは自らを彼自身にとっての英雄、ビッグボスのイメージに投影しますが、そのありようはソリッド・スネークと対照的とも言えます。
そして、本作の主人公の雷電は「愛国者達」の思惑を超えて、ソリッド・スネークという英雄への自己投影を放棄し、等身大の一人としての自立を選択します。
英雄へ自己投影を続けたソリダス。自己を選び取った雷電。そのような心理の対称性がラストバトルの勝敗を決定付けたのだと言えるでしょう。






