メタルギアソリッド3 スネークイーター(2004)
METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER(MGS3)

※「メタルギアソリッド3:スネークイーター」及び「メタルギアソリッド:ピースウォーカー」のネタバレあり。

 

【「身体性」が描かれる理由】

「心身問題」という言葉があります。AI開発において技術者がぶつかる壁のことです。

AI(人工知能)開発はこれまで人の持つ知能のみに注目し、その再現を成そうという目標のもとに発達してきました。

しかし近年、知能とは肉体との関係性の上に成立するものではないのかという見方が強まりました。

テクノロジーの進化をテーマとしてきたメタルギアソリッドシリーズが三作目においてテクノロジー発達の過程にある過去に舞台を移し、身体性にフォーカスするのも、そのような背景のためです。

身体性があって、初めてテクノロジー論が成立する。

本作では「キュアーシステム」「フードシステム」等を駆使して様々な切り口から「身体性」の表現が試みられます。

【「特別な感情」と、その再現】

そして、本作で時代に翻弄され、悲劇的な最期を迎えたザ・ボスは続編の「ピースウォーカー」でAIとして蘇ります。

ザ・ボスがAIのモデルとなるのも、いわば必然。

ザ・ボスを中心とする「コブラ部隊」は「戦場で抱く特別な感情」で成立します。

人工知能開発の最終目標は感情の表現です。だから、「感情」の象徴たるザ・ボスがそのモデルにふさわしい。戦場という極限状態で生まれる感情の表現は、人工知能開発の一つのベンチマークとなります。

そして、ストレンジラブ博士の開発したザ・ボスAIは核搭載自律歩行兵器ピースウォーカーと接続され、身体性を得ることでさらなる進化を遂げます。

しかし、その段階ではまだ「ザ・ボスの思考」の完成には至りませんでした。

ザドルノフとコールドマンの勢力争いの果てザ・ボスAIは核攻撃による「報復」を選択したからです。

【「感情」のきっかけ】

そして、そのような変遷をたどったザ・ボスAIですが、最後には「スネークイーター作戦」のザ・ボス同様の自己犠牲を選択し再び世界を救います。

ザ・ボスAIが「ザ・ボスの思考」を再現するに至る、完成のきっかけとは何だったのでしょうか。

それは直前までのスネークとの戦いです。

「スネークイーター」ラストのスネークとの戦いの再現を通じて、ザ・ボスの思考が再現される。

上述したようにAIの進化には身体性が不可欠です。しかし、それだけでは十分とは言えない。

人との関わりを通して、人工知能は感情を持つに至る。

現代におけるAI開発は、「目的」が先行します。達成したい「仕事」があり、そのために最適な「思考ルーチン」が定義され、「結果」から逆算される形で開発の道筋が定義される。

そのために閉ざされた「スタンドアロン」の環境でAIが開発される。

そのような外界との関わりが閉ざされた環境で「感情」を宿すのは難しい。

「流されてゆけ、私は留まるしかない。」

だから「スネークイーター」のザ・ボスは開かれた世界でスネークに試練を課し、自ら指揮する「コブラ部隊」との戦いを与えます。

「コブラ部隊」の持つ様々な感情に触れることで、若く未熟なスネークは固有の「感情」を抱くようになります。

「身体性」を軸に人間(スネーク)の普遍的な成長を描くのが「スネークイーター」

「テクノロジー」を軸にAI(ザ・ボス)の完成への過程を描くのが「ピースウォーカー」

DNAの二重螺旋のような、対比構造が見えてきます。