サンダーボルツ*(2025)

※ネタバレあり

【マーベル映画だからこそ】


以前、「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(2016)をマーベル映画だからこそできた作品と評しました。関連作品を通してそれぞれキャラクターの背景を書いたという前提を活かして、一本の映画に複雑な群像劇を集約したからです。

そして今回の「サンダーボルツ」。こちらもマーベル映画だからこそできた作品。正義でも悪でもない「グレーゾーン」のキャラクターの集結というのは、関連作品の積み重ねがあるマーベル映画だからこそできたこと。

エレーナ、バッキー、アレクセイ、ジョン、エイヴァ、アントニア。個性的なメンバーで構成される「サンダーボルツ」は罪悪感を乗り越え、ヒーローとして新生できるのか。

【スマートな脚本】


複雑な印象とは裏腹に、とても見やすい。本作の冒頭、ヴァレンティーナの罠により、施設に集結させられ、それぞれの命を狙うよう仕向けられたエレーナ達。戦いを通して格闘、透過、盾といった彼女らの個性的な戦闘スタイルが初見の観客へも伝わる親切な構成。シリーズ作品を追ってきた私のような観客にも良い復習になります。

そして、戦いの後、自分たちを欺いたヴァレンティーナへの報復という目的で一致した彼女らは協力して施設を脱出しようと試みますがいまいち足並みがそろわない。そんな中で、お互いがお互いをののしりあう。

「俺はキャプテン・アメリカだった」
「知ってる。2秒だけでしょ」
「ハハハ・・・」

それぞれの過去の「心の傷」を、お互いに容赦なく抉り合う。それぞれが気にしている部分に、ザクザクと踏み込む。言葉の鋭さに、ひやひやさせられる。しかし、このようなやり取りの中で、彼女らの背景が観客にもしっかり伝わる「これまでのあらすじ」としてしっかり機能します。ユーモアと共に成立する、綿密な脚本に感嘆します。

そして、反目しつつも、背中合わせで煙突のような高所を上るなど、チームプレー的な様子も見せます。アクションのみにとどまらない演出にしっかり引き込まれる。

そして、脱走劇の中で、エレーナの父のような存在のアレクセイ、更にはバッキーも合流。逃亡の途中で捕らえられたボブの救出を目指し、ヴァレンティーナの元へ向かいます。

【行動によって、ヒーローとなる】


ヴァレンティーナの策略により最強の存在として立ちふさがるセントリー=ボブを前に、エレーナ達サンダーボルツは敗走。そして、しょせん自分たちではなにも救えないと落ち込み、それぞれ戦いの地を後にしてしまいます。しかし、セントリーの暴走により、街に被害が拡大、サンダーボルツは、誰に命令されるでもなく「自分の中の善意に従い」人々を救いつつ、再び集結します。

不器用ながらも、人を守りたいという善意の元、しっかり行動する。そんな彼らの勇姿は紛れもないヒーロー。その様子はとても感動的なものであり、「輝かしい経歴ではなく、行動により人はヒーローになれる」という本作のテーマを感じさせます。

そして、クライマックスは意外なもの。強大なセントリーを相手に、武力ではなく、トラウマに寄り添い、ボブの心を救うことで、セントリーの暴走を終結させる。心の傷と向き合い続けた「サンダーボルツ」だからこそできる方法で、戦いは終結します。

【総括】


マーベル作品として異色のチームは、しっかりとその個性を活かして活躍。その雄姿は、アベンジャーズよりも身近な形で視聴者の私たちを勇気づけてくれるものでした。独自の輝きを持つ名作と言えるでしょう。

 

そして、街を救ったサンダーボルツは映画のラストに新チームとして世間に紹介されます。その名は「ニュー・アベンジャーズ」。予想外の展開ですが、これも今後の布石となるものでしょう。

 

次なる集結に向けて加速するマーベル映画に注目です。