『裏天正記』国内編 第二話・後編:影は海を越えて  | ゆうがのブログ

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会議ののち、幕府は即座に動いた。出島を通じた限定的な貿易を除き、他の港を閉ざす命が下され、同時に“影の網”を張り巡らせる計画が着々と進められていった。

その要に立ったのは、服部半蔵。

「すでに、選抜された草たちが動き始めております。南はルソン、ゴア、マラッカ。東はマカオ、広州。北は朝鮮と渤海湾。すべてに目と耳を潜ませます」

半蔵の言葉に、本多正信が頷く。

「ゆくゆくは欧羅巴(おうらば/ヨーロッパ)にも……というのか?」

「はい、神の旗がたなびく地には、必ず商人と宣教師が参ります。影もまた、そこに潜むべきと考えます」

地図の上に置かれた碁石が、拠点候補を示す。

「中国南部の海港、インドの港町。かの地は地続きにて欧州に通じます。ゆえに、まずはそこに“根”を下ろします」

三浦按針がうなずいた。

「半蔵殿、かの地の言葉、習慣、宗教……いずれも異なります。若き者に必要なのは、剣技ではなく、耳と目、そして沈黙にございます」

「承知。ゆえに、影たちには武よりも学びを。潜伏とは、戦うことにあらず。溶け込むことなり」

この日、服部半蔵は江戸を発ち、再び諸国の影の長たちと会談を重ねながら、各地へ草を送り出す計画を練ることになる。

だが、すべてが順風満帆だったわけではない。

異国での潜伏は、言葉も文化も異なる中、孤独と猜疑の連続だった。ある草は現地に溶け込み過ぎ、帰る意志すら忘れ、またある者は敵の陰謀に巻き込まれ、命を落とした。

それでも半蔵は言った。

「百の根があれば、一つは芽吹く。それが“影”の生き方よ」

そして、密かに出された新たな命。

「日ノ本に仇なす兆しあらば、草たちは刺となって断て」

鎖国は、ただ門を閉ざすだけの政策ではなかった。その裏で、日本の影たちは海を越え、時に筆を、時に刃を、時に涙を使いながら、“民の心”を守るための戦いを始めていた。

(第三話に続く)

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【考察:鎖国とグローバル・インテリジェンス】

今回描かれたのは、鎖国の裏に秘められた“影の外交”の始動です。

歴史上、鎖国政策は日本が世界から孤立したように見られがちですが、実際には限定的ながらも情報収集と外部接触は続けられていました。本作はそこに「忍び」の視点を重ね、より戦略的な“潜伏外交”として描いています。

半蔵の構想は、防衛線を内ではなく外に引くという発想であり、現代のインテリジェンス戦と通ずるものがあります。「潜伏は、戦うことにあらず。溶け込むことなり」という台詞に象徴されるように、異文化理解と融和の中にこそ、真の“防衛”があるという思想が色濃く滲みます。

また、異国の地に根を張る草たちは、やがて本作のもう一つの軸である“グローバルな草ネットワーク”の原型となります。どのように異国に溶け込み、どうやって日本に貢献するのか。彼らの苦悩や使命感は、今後の展開に大きな厚みを与えてくれることでしょう。

この“外を閉じて、内から開く”という戦略的逆説こそ、本作『裏天正記』の最大の醍醐味の一つでもあります。