西暦1600年——
夜風が、東山の杉林をざわつかせていた。
灯を消した一軒の山寺。その奥に、ふたりの男が静かに向かい合って座していた。
一人は、日ノ本の未来を左右する男——徳川家康。
もう一人は、異国より渡り来た黒衣の男。名をフランシスコ・デル・カサという。
「……約束は、守っていただけますね?」
家康は黙して茶を啜り、ややあって、重く口を開いた。
「戦に勝てば、貴殿らの教えは黙認しよう。ただし——混乱がこの地を呑み込むことは、決してあってはならぬ」
「ふむ……それでよろしい。ならば、我らは“運命”を貴殿に託しましょう」
男は懐から封書を取り出し、火鉢の上にかざす。
封蝋には、バチカンの紋章——十字と鷲の印があった。
「この密約は、貴殿に勝利をもたらすでしょう。だが、代償は——決して小さくはない」
家康の眉間にわずかな皺が寄る。
しかし、すぐにその表情を消し、低く答えた。
「それも……覚悟の上よ」
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🧠 考察メモ:家康と“外の力”の関係
江戸幕府を築いた徳川家康は、織田・豊臣に比べて「西洋に寛容だった」と言われています。
特に、1600年の関ヶ原以降しばらくはオランダやイギリスとの通商を開き、西洋技術や書物を積極的に取り入れていました。
一方、信長や秀吉はキリスト教に対し警戒心を強めていき、実際に追放令を出しています。
この物語では、そんな“歴史の流れ”の裏に「実は密約があったのでは?」という仮説を立てています。
📌次回は——
第1話:「本能寺の変と“もう一つの使者”」
織田信長が殺されたその日、京にいたという黒衣の人物とは誰だったのか?