既にお気付きの方もいらっしゃるかもしれないが、私は将棋が好きである。
…大好きと言っても過言ではないのかもしれない。
今まで将棋より好きになった人があるかも怪しく、
或いは人間生活に支障を来すレベルかもしれない。
(今まさに支障を来している最中のようにも見える)
盤上は比喩でも何でもなくもう一面の宇宙であり、
地上にあるのと同じだけの真実と美を蔵しており、
宇宙遊泳に慣れるにつれ地球の重力が毒と変わる。
将棋指しは苦しみながら勝ち、苦しみながら負け、
PCに向えば将棋を指し、山に登れば将棋を指し、独りの時は独りで指し…
一たび眠りに就けば二枚飛車に追われる夢を見る。
…将棋とは、斯くも美しいゲームである。
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「現実は小説より奇なり」というが、将棋界を見ればそんなことは火を見るより明らかで…
普通芝居でやるべきことを坂田三吉がやっており、
本来映画でやるべきことは升田幸三がやっている。
少年漫画でやるべきことを谷川浩司が全部済ませ、
ギャグ漫画ですべきことは羽生善治が大体やった。
(大山康晴に至ってはゲームのラスボスそのものだ)
ネット上に現れる正体不明・棋力名人級の幽霊も、
囲碁界でこそ漫画のネタ(saiさん)になるが将棋界では単なる実話(dcsyhiさん)に過ぎない。
…そうして、小説でやるべきことを担当したのが羽生世代の永久欠番・村山聖先生である。
幼少時よりネフローゼを患い、病床に臥せる日々…
そこで出会った将棋に命の全てを懸け、その鬼気迫る姿は人をして「怪童丸」と呼ばせた。
終盤力は既に超一流。羽生との戦績は完全に互角。
姿形に一切の拘りを持たぬ、ただ勝つための棋風。
苦難の末、遂にA級八段・タイトル挑戦まで漕ぎ着けるも、そこで彼の持ち時間は切れた。
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記憶内最古のニュースが阪神大震災である私にはそれが何年前の話かすらよく判らないが…
このたび広島県出身で森信雄門下のふっくらした某若手棋士がタイトルを手にしたという。
頻繁な離席、空咳、異常な早指しは決して見目麗しくなく、竜王も明らかに苛立っていた。
(二日制には時間攻めがない…そんなふうに考えていた時期が私にもありました)
ただ序盤早々不利に陥った将棋を二局続けて耐え、逆転にまで持ち込んだ事実は動かない。
「プロは美しい棋譜を遺すために生きるもの」と背中で語る谷川浩司を観て育った世代と、
将棋倶楽部24の毒々しく無機質な画面を観て育った世代が同じ価値観を持てるはずもなく…
竜王らしい在り方に徹した前竜王は結果として、
二日制を一日で終わらせ「こんな挑戦者を寄越した奴は誰だ?」と叫ぶ決断をし損ねた。
本来あの世代の群衆はあのような将棋を落とさないものとばかり思っていたのだけれど、
遅々としながらも時は確実に流れているようだ。

この不思議なゲームによって救われる人は、確かに存在する。(かつての私がそうだった)
人生の大部分を費やそうとする者も後を絶たない。
陽の沈む頃になってもそれは変わらないのだろう…
せめて緩やかなる衰退、心安らかなる結末を望む。
[まで340手をもちまして千日手。将棋サイド終了]



