第四章 沖縄の海(5)
【 妻と飛んだ特攻兵】①
1977年8月12日 読売新聞夕刊
僕の手元に一枚の新聞記事があります。
1977年8月12日 読売新聞夕刊、
タイトルは
「機と共に 死の出撃 あの同乗女性はだれ」。
満州・平台飛行場で彼の出陣を見送った彼の同期、故・高橋良雄さんが残した切り抜きです。
特攻の悲劇というよりは戦争の悲惨さというものを感じるお話ですが、新聞記事の内容は2015年、作家の豊田正義さんの手で「妻と飛んだ特攻兵8・19満州、最後の特攻」(角川書店)という本にまとめられ、テレビでもドラマ化されましたので、ああ、あの話か、と思い出される方もいらっしゃると思います。
こんなお話です。
1945年8月14日、日本はポツダム宣言を受託、翌15日、天皇の終戦の詔勅によって日本軍は戦闘行為を中止しました。
事実上の終戦ですね。
満州にいた日本軍各部隊も指示に従って撤退と移動を始めていましたが、8月9日に日本に宣戦布告したソ連軍は満州に攻め入って徐々に南下しつつありました。
満州南部の大虎山飛行場に駐屯していた大虎山分屯隊も不必要なものを焼き払い、本体に合流すべく錦州へと移動の準備を始めていたのですが、
この隊の中の十人が密かにソ連軍戦車に対する特攻を企てていたんですね。もちろん日本軍は8月15日をもって戦闘停止状態ですから出撃命令などありません。
8月19日午後2時、十機は錦州の本隊に向かうと見せかけて大虎山飛行場を飛び立ちます。
しかし十機は錦州とは違う方向、ソ連軍のいる方向へと...
つづく