第四章 沖縄の海(4)
【 片道燃料 】③
第108振武隊・渡辺次雄軍曹
後ろに三角兵舎と女学生が見える
もう一つ、板津さんがお話ししてくれたことを書き記しておこうと思います。
「これな、知覧にあった実際の三角兵舎だ。」
といって見せてくれた写真、それは木立の中に隠れるように佇む三角兵舎とその手前で微笑んでいる第108振武隊・渡辺次雄軍曹の写真でした。
「後ろに女学生がいるだろ。聞いたことあるだろうけど隊員たちの世話をしていた女学生だ。」
知覧高等女学校の生徒が「なでしこ隊」として出撃する隊員たちの身の回りの世話をしていたことはよく知られていますが、たしかに渡辺軍曹の後ろ、三角兵舎の前に三人の女学生が写っています。
「あのな、一緒に行った女学生もいるんだよ。夜中に飛行機の中に忍び込んで隠れててな、そのまま飛び立って行ったってこともあったんだ。」
特攻隊員が三角兵舎で過ごす期間はごくごくわずかです。
各地から最前線基地である知覧に到着してから出撃命令を受領し飛び立つまで、その短い期間に隊員と世話をする女学生との間に恋心が芽生えることも不思議ではないし、恋心と言わないまでも、気持ちが通じ合うことはあったろうと思います。
第二章で触れた幸子さんがそうであったように。
これまでも述べてきたことだし、そしてこれからも繰り返し述べていきますが、僕の役割は特攻隊員や戦争で戦った兵士たちを英雄と讃えたり、美化することではありません。
あの時代を生きた人たちからお話を伺えば伺うほど、またさまざまな資料に触れれば触れるほど、そうした気持ちから遠ざかっていきます。
ただ僕が知り得た事実をそのままお伝えすることで、読んでいただいた方がそれぞれの立場で、それぞれの解釈で、何かを感じ取っていただければそれで良いんですよ...