日英FTAの交渉大詰め/形ばかりの譲歩を求めるイギリス | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

日英FTA交渉が大筋合意に至ったことは過去記事[日英FTA交渉が実質大筋合意]で述べましたが、交渉においてイギリス産チーズの扱いが最後のハードルになっていると報じられています。
記事によると、英国のブルーチーズの2019年のこ日本向け輸出額は10万2000ポンド(約1400万円)にとどまっており、日欧EPAで設定された欧州産ソフト系チーズの輸入枠(2033年度に関税撤廃予定)を振り分けてほしいと要望しているとのことです。
日欧EPAの附属書二-A『関税の撤廃及び削減』にはチーズだけでなく様々な乳製品や小麦、チョコレート(カカオ)などで[欧州連合の合計割当数量]についての規定があり、ブレグジットの移行期間中はイギリスもこの[欧州連合]の一員として優遇税制で日本に輸出することができています。
しかしブレグジット移行期間が終了すればイギリスは日欧EPAからの適用除外となり、欧州連合の輸入枠の適用も当然終了します。日欧EPAのソフトチーズ輸入枠は最大3.1万t設定されていますが、2019年度の輸入実績は枠の58%程度で多分に消化できていない部分があり、更にイギリスが抜けた分だけ未消化枠が拡大することになるため、イギリスが抜けた分くらいは日欧EPAとは別に設定してほしいということですね。
もちろんイギリスに個別に輸入枠を設ければ日欧EPA3.1万t+日英FTAで輸入枠は拡大しますが、現時点のイギリスからのチーズ輸入は1400万円程度であり、仮にイギリスからのチーズ輸入が2倍になっても3000万円弱にしかならず、主要先進国同士の貿易という観点から見ればあまりに小さい金額です。しかもイギリスからすれば日欧EPAで元々認められていた権利を1つだけ要求している状況であり、過大どころか極めて些細な要求と言えるでしょう。

日本は今のところ、この要求を拒んでいます。記事ではその理由として日米FTAへの波及を警戒していると書いていますが、前述のとおりイギリスにとっては元々欧州連合枠として認められていた品目のうち、枠を使いきっていない1つの品目で枠を要求しているだけであり、日米FTAへの影響は小さいものと思われます。
日本が容認しないのは、かつてイギリスのウィンストン・チャーチルが言ったとされている「日本人は外交を知らない」という事態を避けるポーズではないかと思います。相手はまさにイギリスですしね。要はハードネゴシエーションであるかのように見せないと、イギリス国内から「もっと要求すればよかったのに弱腰すぎる!」という不満が噴出するということです。イギリスにとって日英FTAはゴールではなくTPP参加への入り口であり、ここで躓くわけにはいきませんので、国内の不満を軽減させる必要があります。それは日本政府も重々理解していますからポーズとして反対姿勢を見せているわけです。
輸出実績が年間1400万円程度(日本への輸出総額の1/60000)のものに執着する理由はありませんし、日本もさして反対する理由はありません。

日本はその弱味につけこんで「TPP参加の際も関税等については再交渉しない」ぐらいの条件を要求しているかと思いますが、相手に不利すぎる条件で合意して結局逃げられるというアメリカ離脱の二の轍を踏まないよう、相手国が納得できる程々の条件で合意してほしいと思います。