脱中国は脱RCEPから。日本政府は政策の見直しを進めよ | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

APEC貿易担当大臣会合が7月25日にテレビ会議形式にて開催され、その場で若宮外務副大臣が『アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)実現への道筋として、TPP11の着実な実施及び拡大とRCEP協定の年内署名を目指すこと』を日本が重視する点の一つとして挙げたようです。
過去記事[反グローバリズム=反米主義?/中国との協定には反対しない自称反グローバリスト]にも書いたとおり、今RCEPが署名に進んでいないのはインドが離脱を表明したことだけが理由であり、これまで日本はあくまでもインドの加入にこだわるスタンスを示していました。
しかし今回若宮副大臣が参加したAPEC(アジア太平洋経済協力)はアジア太平洋地域の21の国と地域が参加する経済協力の枠組みであり、インドは参加していません。インド不在の場でRCEPの年内署名など主張してしまうと、日本は『インド抜きでもRCEPを進めていこう』という方針に転換したと捉えられかねないことになります。
実際にどのような文脈でRCEPに言及したのかは不明ですが、日本もサプライチェーンの再構築に2435億円もの予算を立てるなど脱中国を進めようとしている中、こうした誤解を招きかねない発言は厳に慎んでほしいと思います。
万一、インドを抜きにしてでもRCEPの年内署名を目指す方針に転換したというのであれば、それは即刻見直すべきです。

また、RCEPは情報を公開しながら交渉を進めていたTPPと違い、その内容はほとんど非公開のままです。私が探した限りですが、2017年の共同声明が最も内容について詳しく書かれたものではないかと思います。
以下、内容全文を記載します。

RCEP協定の概要(2017年11月時点) 
現在行われている交渉を予断せず,2017年11月現在のRCEP協定の概要と特質を以下に示す。
(a)物品貿易:物品貿易章は,物品関連のコミットメントの実施を規定する主要な要素を含む。テキストに基づく議論は,包括的な自由貿易圏を確立するために,RCEP参加国間の既存の自由化の水準を基礎として,実質上の全ての物品貿易について高いレベルの貿易自由化を達成するために,関税を合理的な期間に段階的に撤廃し,非関税障壁に対処することを目的とした,市場アクセス交渉によって補完される。
(b)原産地規則(ROO):ROO章は,どの産品が,そして,どのようにこれらの産品が,関税上の特恵待遇を受けることができるかを決定するためのガイドラインを定める。RCEPにとって,ROOは,実質的変更の原則を確保しつつ,事業者にとって使いやすく,特に中小企業が本協定を理解し,活用することを容易とする点に焦点を当てた,技術的に実行可能で,貿易の円滑化に資し,かつ,ビジネスフレンドリーなルールとなるように検討される。 
(c)税関手続・貿易円滑化(CPTF):CPTF章は,関税法令の適用に当たって,予見可能性,一貫性及び透明性を確保すること,また,税関手続の効率的運営及び迅速な通関手続を促進することによって,世界及び地域のサプライ・チェーンの成長に資する環境を創出する。手続きの簡素化や国際的なベストプラクティスや基準との整合性確保だけでなく,WTO貿易円滑化協定との一貫性を維持することも,CPTF章の目的である。
(d)衛生植物検疫措置(SPS):SPS章は,科学的原則に基づいた食品安全,人及び動植物の健康保護に関する要件のための基本枠組みを定める。この章は,SPS措置が健康を保護するために必要な限度においてのみ適用され,可能な限り最も貿易制限的なものでなく,また,同様の条件が存在する参加国の間において不当な差別をするものではないことを確保することを目指すものである。この章は,WTO・SPS協定の実施を強化する。
(e)任意規格・強制規格・適合性評価手続(STRACAP):STRACAP章は,WTO貿易の技術的障害(TBT)に関する協定の実施を強化し,その原則を補強する。
(f)貿易救済:貿易救済章は,WTO協定の下での原則を維持しつつ,RCEPの貿易自由化と調整を行うという目的を支える,参加国のための貿易救済関連規定の整備を目指す。
(g)サービス貿易:サービス貿易章は,分野や提供態様をあらかじめ除外せず,WTO・サービス貿易に関する一般協定(GATS)とASEAN+1のFTAにおけるサービスの約束を基礎として形成される。
(h)金融サービス:サービス貿易章における金融サービス附属書は,金融システムが不安定な状態にある場合のリスクを防ぐための十分な政策と規制に係る余地を提供しつつ,金融の規制に関する強化されたルールを支えるとともに,更なる透明性を促進する。
(i)電気通信サービス: サービス貿易章における電気電信サービス附属書は,電気通信サービスの貿易に影響を及ぼすルールの枠組みを提供する。本付属書は,合理的で,差別的でない電気通信環境を確保しつつ,参加国が規制を設ける権利を確認する。
(j)人の移動(MNP):独立章のMNP章は,参加国で交渉されたように,貿易及び投資を促進する目的で,ある参加国から別の参加国への自然人の一時的な入国及び滞在に関する約束を含む。この章は,各参加国の約束表にあげられた自然人のカテゴリーに係る,透明性及び入国様式にかかる特定の義務も定める。人の移動に関する約束とサービス貿易に関する約束の構造と関係については,議論が進行中である。
(k)投資:投資章は,この地域において,保護,自由化,促進,円滑化という投資の4本柱をカバーした,有効な投資環境を創設する。
(l)競争:競争章は,反競争的行為を禁止する法令の採用や維持及び参加国間での競争法令策定やその実施に関する地域内協力を通じて,市場における競争を促進し,経済効率や消費者の福祉を向上させる。これらの目的の追求は,参加国間の貿易及び投資の円滑化を含むRCEP協定の利益の確保に寄与する。
(m)知的財産(IP):IP章は,異なる経済発展段階や能力及び国内法制度の違いを考慮しつつ,効果的で適切な,知的財産権の創造,利用,保護及び行使を通じて,経済統合の深化と協力を促進する。この章は,イノベーションと創造性を促進し,知的財産権保有者の権利と使用者と公共の正当な利益との間の適切なバランスを維持し,正当な公共政策目的のために規制する政府の権利及び情報,知識,コンテンツ,文化,芸術の普及を円滑にすることの重要性を考慮する。
(n)電子商取引(E-commerce):E-commerce 章は,参加国間での電子商取引を推進し,世界的に電子商取引のより幅広い利用を促進するとともに,電子商取引のエコシステムの発展に係る,参加国間の協力を強化する。E-commerce 章は,特に中小企業にとって,電子商取引を円滑化する機会を利益あるものとし,また,創出する現代的な協定としてRCEPを位置付けるのに役立つ。
(o)中小企業(SMEs):SMEs 章は,参加国が,RCEP協定を通じて創出された,例えば,地域またはグローバルなサプライ・チェーンへの統合といった機会に中小企業が参加し,利益を享受する機会を得る能力を向上する経済協力のプログラムや活動を実施するためのプラットフォームを提供する。
(p)経済技術協力(ECOTECH):ECOTECH章は,RCEP協定の実効的な実施と活用に焦点を当てた,相互の利益や関心の分野における既存の経済連携を補完することを目的とする。能力構築及び技術支援を含む経済技術協力活動は,ワークプログラムの中で特定される。
(q)政府調達(GP):GP章は,GPに関する法令及び手続の透明性を促進する条項及び参加国間の協力を発展させる条項に焦点を当てる。
(r)紛争解決(DS):DS章は,RCEP協定の下で生じる紛争の効果的な,効率的な,透明性のある協議及び解決のプロセスを規定する。

2017年時点の内容のため、未確定だったり曖昧な全体像の説明に終始している分野も多いですが、これ以上詳しく説明された資料は恐らくありません。
仮に年内署名を目指すべくRCEPを推進していくのであれば、日本政府はTPPのように合意内容について公開するべきです。交渉途中であれば情報公開できないという理屈もありますが、RCEPは昨年11月に事実上合意していますので、公開できない理由は無いはずです。

何より、日本を含め西側先進国の多くが脱中国に舵を切り始めた中で、中国との連携を強化するような政策は推進するべきではないでしょう。
中国・韓国を除けば日本はRCEP参加国と何らかのFTAやEPAを締結しています(中国・韓国とも日中韓投資協定は締結済み)ので、何も急ぐ必要はありません。インドの離脱表明のおかげで日本としてもRCEPを中断する口実ができました。日本も脱中国を進めるべく、離脱を前提としたRCEP政策の見直しを進めてほしいところです。

RCEPは何故か自称反グローバリストたちが口を噤んでいることもあり、話題に上ること自体が少ないですが、声をあげていこうと思います。