既存ダムの洪水調節機能強化/ガイドラインの見直しが急務 | 上下左右

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昨年11月に菅官房長官が既存ダムを活用して洪水対策を行う方針である旨を発表していましたが、運用面においてまだまだ課題が残っているようです。

今年の夏には水系ごとに既存ダムを最大限活用した新たな運用を開始できるよう検討を進めると発表されており、実際に梅雨入りを前に多くのダムでダム管理者及び関係利水者との間において、治水協定を結ぶに至っていました。この動きは非常に早かったと思います。
この治水協定の肝となる部分は大雨が想定される場合の事前放流です。大雑把に説明すると、大雨が来る前に水を放流してダムの水位を下げておけば、いざ大雨が来たときに治水能力を底上げすることができるということです。

©️京都新聞

至極合理的な対応ですが、ダムの多くは洪水対策ではなく発電や農産物の水確保などの用途を目的としているため、予想が外れて大雨が来なかった場合には水が減少して損害が発生することになり、治水協定ではその際の賠償も定められています。

今月記録的な大雨によって球磨川などの川が氾濫し、熊本県などで甚大な被害が発生していますが、球磨川水系のダムで洪水前に事前放流されたものは1つもありませんでした。利水ダムの運用見直しで球磨川水系は5基が使えるようになり、雨水などの貯水能力(洪水調節容量)は2・6倍の4700万立方メートルに増えていたそうですが、実施されなければ何の意味もありません。
国交省によると、今回の豪雨の恐れが高まったのは大雨特別警報が出る前日の3日夜で、「3日前頃」とした事前放流の想定と異なっていたため、実施されなかったとのことです。詳細は不明ですが、事前放流のガイドラインによると洪水に対する事前放流の実施判断は3日前から行うことを基本とする』とされていますので、7月3日に判断し、7月6日に事前放流を実施する予定だったのではないかと思われます。
恐らく治水協定が締結されてから日本で最初の事前放流を判断するケースだったため、担当者もガイドラインを遵守しようとしたのでしょう。その気持ちは分かりますが、結果的に大災害を防ぐことができませんでした。
運用が始まって早々ですが、今年の台風シーズンには再び同様のケースが起こり得ますのでガイドラインの見直しは喫近の課題です。少なくとも3日前に判断などと悠長なことでは、今回の洪水と同様のケースが多発することになるのは間違いありません。
現在は全国21のダムで事前放流を行っているようですが、一度洪水が発生すればその被害は甚大です。今回の洪水によってまた「新しくダムを造れ」という声が大きくなりそうですが、新たなダム建設には言うまでもなく多大な費用と年月が必要になりますので、まずは既存ダムの運用を見直し、大雨予測が空振りした際の賠償に怯えず、事前放流を躊躇わないように実施してほしいと思います。

最後になりますが、被害に遭った方のご冥福と早急な復興を祈ります。