種苗法改正が無い世界~自家採取が一般的だったら~ | 上下左右

上下左右

台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

昨日に続いて種苗法改正を取り上げます。
批判意見の多くは種子の自家採取が制限されることについてのようですが、自家採取が一般的だった場合、どうなるのか見てみましょう。

株式会社江戸word社は、良味・多収・気候変動や病にも強い”江戸X”という品種を開発しました。
販売初年度はバカ売れで、日本全国の店頭に江戸Xが並び、江戸word社は大繁盛です。
ところが次年度には江戸word社にほとんど江戸Xの注文が入らなくなり、増産体制を整えていた江戸word社は大損害を被ることになりました。江戸Xに何か問題が発生したのかと思えば、収穫期の後には前年同様江戸Xが全国の店頭に並んでいます。そう、全国の農家が江戸Xを自家採取し、江戸word社から種苗を購入しようとした農家はほとんどいなかったのです。
2年後、3年後と当然新たな注文は増えず、江戸word社は開発費の回収さえままならず倒産してしまいました。


5年後、「最近江戸Xが不味くなった」というもっぱらの噂です。自家採取を繰り返すことで劣性遺伝子が発現したり、栽培環境によって変質したりで、店頭で売られている江戸Xはオリジナルから品質が変わってしまっていたのです。


更に3年後、江戸Xの劣化を見計らったかのように、某国が”清A”という品種を日本に輸出し始め、大層な人気を博するようになりました。
江戸word社の開発者も清Aを食べてみたのですが、一口で「これはほぼオリジナルの江戸Xだ!」と確信します。そう、清Aはかなり原種に近い段階で某国に流出された江戸Xだったのです。しかし江戸Xの種子は日本全国で栽培されており、どこでどれだけ流出したのかなど見当もつきません。
某国では種苗の売買・生育が厳格に管理されており、自家採取ではなく流出した種苗を元にした栽培しか認められていないため、品質を維持し続けていたのです。

こうして江戸Xは日本の店頭から姿を消し、清Aが日本中に溢れることになりました・・・



若干極端に書きましたが、今の日本がこうなっていないのは種苗を購入してくれる良識ある農家の方々のおかげです。誰も種苗を購入しなくなれば品質も変化します。ですから農協などの農業関連団体は種子の更新率(≒購入率)の向上に取り組んでるわけです。
(JA全農兵庫のHPより)

そもそも自家採取の制限対象になるのは『登録品種』のみであり、日本の農産物の品種のうちほんの一握りでしかないのです。
ひとめぼれも鳴門金時もとちおとめも王林も登録品種ではなく一般品種です。
『登録品種』とはまさにブランド種なのです。

品質が変質するリスクも厭わず、一度種苗を買ったらそれっきり開発者に一円も支払わずにブランド種を使い続けるというのは先進国の価値観として如何なものかと強く思います。