年に一度のーその2 | いつか旅立つ日が来たとしても

いつか旅立つ日が来たとしても

ひとりと一匹と、その日々のこと。

いよいよ、おまえも疲れてきて、ケージに不本意ながら

入ることになるのだけれど、この後に及んでも、おまえは

ケージの中で、ひとしきり、抗議の声をあげることは

忘れない。

 

その抗議の声も、部屋のうちだけで、一歩部屋を出ると

石のように、おまえは押し黙る。

内弁慶のなせる業だろう。

すっかり、ただの荷物になったおまえをつれて

マンションを出る。

 

病院は市内のはずれにあるのでバス移動となるのだけれど

停留所でも、バスに乗ってからも、おまえはずっと体を

硬くして、必死に気配を殺している。

人がたくさんいる気配がするからだろう。

時々、オレが様子を伺うと、心臓バクバクで、瞳孔が

めいっぱい開いているのがわかる。

そして、オレが覗き込んだときだけ

おまえは、まわりに聞こえない程度のかすかな声で

憐れみを請うように鳴く。

 

処刑場につれていくわけでも、捨てにいくわけでも

ないのになあ。