いよいよ、おまえも疲れてきて、ケージに不本意ながら
入ることになるのだけれど、この後に及んでも、おまえは
ケージの中で、ひとしきり、抗議の声をあげることは
忘れない。
その抗議の声も、部屋のうちだけで、一歩部屋を出ると
石のように、おまえは押し黙る。
内弁慶のなせる業だろう。
すっかり、ただの荷物になったおまえをつれて
マンションを出る。
病院は市内のはずれにあるのでバス移動となるのだけれど
停留所でも、バスに乗ってからも、おまえはずっと体を
硬くして、必死に気配を殺している。
人がたくさんいる気配がするからだろう。
時々、オレが様子を伺うと、心臓バクバクで、瞳孔が
めいっぱい開いているのがわかる。
そして、オレが覗き込んだときだけ
おまえは、まわりに聞こえない程度のかすかな声で
憐れみを請うように鳴く。
処刑場につれていくわけでも、捨てにいくわけでも
ないのになあ。