ふたりといっぴき | いつか旅立つ日が来たとしても

いつか旅立つ日が来たとしても

ひとりと一匹と、その日々のこと。

やがて、オレとおまえは、同居人を迎えることになる。

 

当然、いきなり同居したわけではなく、

彼女とは、腕時計のバンドを修理した縁でつきあうように

なり、何度か、部屋に遊びにくるようになったことを

経て、やむにやまれぬ事情からそうなったのだけど。

 

やっぱりおまえは、最初に、彼女が、この部屋に来たときは

リビングで話すオレたちから距離をおいて、寝室スペースで

ずっと気配を殺していた。

 

まるで、災難が過ぎていくのを待つように。

そして彼女が帰っていくと、やれやれといった感じで

現れ、オレにひとしきり不満をいう。

 

ただ、今までの訪問者は、一回きりだったりしたことに比べ

何度も訪れるものだから、おまえのなかにも変化はあったと思う。

 

彼女も無理することなく、おまえに接していたし、おまえは、完全に

人を嫌っているのはなく、信頼するまで時間がかかるだけだと

オレは思っていたので、そんなに心配していなかった。

 

こうして、ひとりと一匹からふたりと一匹になり、

おまえには「お母さん」ができた。

 

もっとも、おまえは、彼女のことは新参の妹分としか、

思っていなかったことはやがってわかってくるのだけれど。