最初の約束 | いつか旅立つ日が来たとしても

いつか旅立つ日が来たとしても

ひとりと一匹と、その日々のこと。

一時預かり証に手術誓約書。

自身の入院経験も手術経験もないオレは、そこに書かれている「万が一」の項目がヘビィすぎて、このままおまえをつれて帰りたくなった(笑)

それでも、引き返すわけにはいかず、サインを済ませるとケージのまま、おまえを病院に預けた。

 

午後2時以降に引き取りにきてくれと病院側がいうので、

いったん帰宅した。

おまえのいない部屋はガランとして、寂しくて、

ついこの間まで、オレひとりで住んでいたことが嘘のようだった。

 

時間が来て、早々おまえを迎えにいった。

 

病院に着き、担当医の方より、無事に済んだことを聞いて、

ほっとしたのはよかったが、その後、見せられたモノで、オレは、

初めて、自分がとんでもないことをしたということを、思い知らされた。

 

そこには、切り取られた、かってのおまえの体の一部があった。

オレはおまえの未来を閉じて、猫生(という言葉があるのなら)を捻じ曲げたんだ。

 

病院としては「手術の証拠」程度に提示したと思う。

しかし、オレには「自分がしでかしたことの責任」を突きつけられたように思えた。

「では、処分しておきますね」という言葉にうなずいたものの、

それは、冷たい鉛のように、腹の中に沈んでいった。

 

そして、大げさではなく、すぐに、覚悟は決まった。

おまえの「猫生」を捻じ曲げた以上、もう後戻りはできない。

おまえとオレは一蓮托生だ。

どんなことがあっても、おまえだけは見捨てない。

 

麻酔がはんぶん覚めず、ぼんやりとオレを見上げるおまえとの

最初の約束だった。