私は基本的には記事を読んでくださる方が簡単には手に取れないような作品(本・映画・テレビ番組)はこのブログに取り上げないことにしているが、この番組は素晴らしかったのでぜひ紹介したい。9月7日にBS1で放送されたが、16日午後三時から同じくBS1で放送される。以後地上波等で再放送される可能性も高い。
私はバレエ自体をみることはないが、バレエのドキュメンタリーが好きだ。アスリートとアーティスト両方の才能が極限まで要求されるバレエダンサーという存在に惹かれる。かといってバレエを扱ったドキュメンタリーがすべて面白いかというとそうとは限らない。しかしこの番組はとてもよかった。「バレエ」がしっかり伝わる。以前このブログで扱った映画「ダンサー セルゲイ・ポルーニン」の数十倍面白い。
ロシア最古の国立バレエ学校ワガノワ。世界中から生徒が集まるこのプロダンサー養成学校で、卒業間近の男子のクラスを中心に追ったのがこの番組だ。生徒には成績優秀なミーシャ、日本人とアメリカ人のハーフのアロン、超モデル/王子様体型のキリルなど個性的な面々がいるが、なんといっても目を引くのはワガノワバレエの校長であり教師のニコライ・ツィスカリーゼ。ボリショイバレエのプリンシパルを長年務めた彼の言動には惹きこまれる。
「このバレエという職業に奇跡は起きない。奇跡は絶対にない! この世界ではコネもファンタジーも役に立たない。努力しかない。努力しか成功のレシピはない。永遠に忘れるな。バレエ界で才能は降ってはこない。絶対にだ!」
以前美輪さんが、「人間の理想は熱いハートに冷めた頭脳があること。でもたいていの人は逆で、心は冷えているのに頭はカッカしている」といっていたが、ニコライのバレエに対する姿勢はまさに前者。本物のアーティストは違うと思わされる言動ばかりだ。その情熱、客観性に撃たれた。特に変わったことを言うわけではないのに、容姿というかオーラというかファッションセンス然り、キャラが濃い。
日本人とのハーフであるアロンは背が低いこと(175センチ)がハンデとなっているが、生徒の半分が振り落とされるワガノワにあって最後まで生き残った。つまり決定的な弱点というほどではないということだ。熊川哲也氏も同じくらいの身長だ。アロンも熊川氏同様高いジャンプ力を武器にしているが、私が映像でみた最盛期の熊川氏やポルーニンのそれには及ばない。ニコライ教授はアロンの表現の仕方も筋肉の付き方も日本的でバレエ向きではないというが(確かに熊川氏は言動において日本的ではない)、それでも努力家であること等々アロンに将来性を見出している。アロンにはミーシャ同様バレエに対する強い情熱と身に着けたエレガンスがある。吉田都さんも容姿に恵まれたわけではないが、長くロイヤルバレエのプリンシパルを務めた。彼女の魅力は、バレエにまったく疎い私がいうのも気が引けるが、おそらく緻密さだ。彼女単体でみるとわかりにくいが、隣に凡庸なバレエダンサーが来るとよくわかる。「最盛期のアロン」が出現するのはこれからだ。
ニコライ先生は言う。
「(ある生徒の故郷である)フィンランドのバレエ団からオファーがありました。でもフィンランドだとバレエ文化の裏街道で生きていくのと同じ。私が考える真の劇場はロシアのボリショイとマリインスキー、パリのオペラ座。三つのみ」
つまりイギリスのロイヤルバレエもアメリカンバレエ・シアターも裏とは言わないまでも真の表とは言えないといったあたりか。
私はニコライ校長同様、いかに容姿に恵まれようとバレエを通して何かを表現しようという情熱が全く伝わらないキリルに将来性を感じなかったが、半ば強制的に見せた夫は「ああいうタイプは覚悟を決めると違う」と言う。あたしのみたところ、子供の時から容姿とバレエへのある程度の才能を認められてここまできたが、キリルにとってバレエは嫌いではないという程度のものにしか感じられなかった。彼はバレエのクリエイティビティに捉えられていない。バレエに魅了されていないのだ。覚悟を決めると口で言うのは簡単だ。普通に街を歩くだけで明らかに目立つ容姿だが、その言動にエレガンスも成長を感じさせる要素もない。ただまあ、ハイブランドのバッグをもって街中歩いてあれだけサマになるひともそうはいないけど。日本人がもつとバッグだけ浮いてたいてい滑稽だ。若い人ともなれば特にだが、キリルは違う。ニコライ先生は言う。
「キリル、君を褒める人は君の敵。それを決して忘れるな。彼らの言っていることは君のためにはならない。美しいとほめそやされても君はまだ本当に輝いてはいないよ。自分の能力を伸ばせるのは自分だけ。私は指摘しかできない。耳を傾けられるかは君次第」
番組の最初のほうで、進級試験の合否を受ける女の子たちのシーンがあり、ある生徒は体型で不合格とされていた。一か月後の再試験までに五キロ痩せろという。でなければ即退学。生徒は不満を訴える。
「私はみんなよりそんなに太っていますか? どこが太っているのか納得できません」
私が見てもそう思う。
「審査員はあなたの太りやすい体質が将来どうなるのか見越しているの。あなたが再試験までに痩せて理想の体型に戻せば問題ない」
ってあんた、あの体でレッスンしながら一カ月で五キロ痩せるって、ほとんどなにも食うなってこと?
「わが校は美しく痩身の人しか教育を受けられません。バレエに向かない子には早めに一般の学校へ転入する道を作ってあげます」
と、まあまあ太い先生(?)。単なる事務方のひとなのか、昔は痩せていた元バレエダンサーなのか。
面白い番組をみた興奮で、バレエ風にくるくると踊りながら家事をしていたら夫に、
「体型が向いていません。向いていない人には早めに教えてあげないと」
番組サイトはコチラ。
★今週の出来事★
9/9 台風15号関東直撃。朝になったら、今までにないほど近所の木や枝が倒れていた。「耳くるくるマッサージ」を始めて以来いくつも台風が来たがわりかし平気だったが、今回は調子が悪くなった。でもこれまで台風が西側にあるだけで不調に陥っていたのがこの15号まではなかった。その「耳くるくるマッサージ」についてはコチラ。