この私のフェイバリット・ムービーについてまた書く。20代のときから大好きな映画だが、昔から字幕の意味がもうひとつピンとこない箇所があった。この映画を初めて見て四半世紀。ヒマに任せ、今になってその部分の字幕を再考する。ご覧になった方もたくさんいるだろう。
 夫と死別したロレッタ(シェール)はようやく再婚の機会に恵まれる。婚約者ジョニーは故郷イタリアに一時帰省する際、弟ロニー(ニコラス・ケイジ)に結婚式に列席してもらうよう、ロレッタに伝言を依頼する。ジョニーは弟と不仲で音信不通になっていた。ロニーはパン屋を経営。数年前兄と電話している最中にパンのスライサーで誤って右手を切り落としてしまい、義手の生活を余儀なくされていた。この事故をきっかけに婚約者も失い、兄とも不和に。ロレッタが会いに行くと、ロニーは結婚の報告をロレッタに任せて自身で顔を見せない兄に激怒。そんなロニーにブランデーをあおりながらロレッタは言う。


「あなたは狼で彼女は罠。罠を外すために前足を噛み切ったの。自由への代償よ。彼(ジョニー)は関係ない。あなた自身の問題よ。罠に捕まるより足を失うほうを選ぶ人だわ。だからあなたは罠を恐れて恋人を作ろうとしないのよ。痛みを繰り返すのが怖いのね」
 

 これをきっかけに二人は情熱的な(みてるこっちは笑ってしまう)ベッドインへと至るが、字幕だともうひとつ意味が伝わらない。言わずもがな、字幕というのは字数制限が大変キツイ。実際何を言ってるかというと、
 

 The big part of you has no words and it's -a wolf. This woman was a trap for you. She caught you  and you could not get away. So you chewed off your foot!  That was the price you had to pay to be free. Johonny had nothing to do with it. You did what you had to do, between you and you, and I know I'm right. I don't care what you say. And now you're afraid because you found out the big part of you is a wolf that has  the courage to bite off its own hand to save itself from the trap of the wrong love. That's why there has been no woman since that wrong woman. You are scared to death what the wolf wil do if you make that mistake again!

 字数制限を気にせず私が訳してみる。

 あなたは想いを言葉にできない獣みたいなもの。その女と婚約して、あなたははめられた、って直観したんでしょ。だからあなたっていう狼は罠にはまった自分の脚を自ら噛み切ったのよ。そこまでしないとあなたは彼女から逃げることができなかった。ジョニーは何の関係もない。あくまであなたの問題よ。あなたが何を言おうと、あたしは正しい。あなたは言葉を持たない狼であり、間違った関係から自分を救うには自ら手を切り落とすことも辞さない、それ以外に方法を持たない男だってことがわかったのよ。それがあなたにふさわしくない女と別れて以来恋人ができない理由ね。同じ間違いを冒したら似たような犠牲を自分に強いるのがわかっているから、また恋をするのを死ぬほど恐れているのよ。

 婚約者の弟相手に初対面でここまで言うのはすごい。もはや恋の助走は始まっている。
 ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」のファーストキスのシーンにはめっちゃドキドキしたおばはんではあるが、ファーストキスのシーンで笑ったのはこの映画が唯一ではないだろうか。「逃げ恥」もほぼ一目ぼれの二人が時間をかけて絆を深める過程を描いているが、この映画では初対面で二人は急激に差を詰める。私も交際1日で結婚した。この二人のように情熱的な感じではなく、「逃げ恥」同様、その辺やはり和風で農耕民族な私たちであった。やっぱり狩猟民族は違う。
 恋というのは求めて得られるとは限らないが、求めてもいないのに落とし穴のように待ち受けていることもあるようだ。そういう恋を描いた映画はたくさんあるというか、映画やドラマになるのはほとんどそっちに思える。それでいい恋が形作られるハッピーな映画も多いし、破滅に導かれる恐ろしい恋の話も多い。
 なお、ロレッタがいう、言葉を奪われているような人間の悲劇を描いたのが町田康の小説「告白」だ。