秀吉はいらだっていた。どいつもこいつもなぜこうも身勝手なのか。秀頼はまさしく目の中に入れても痛くないほどだが、自分の長期不在中に無断で儀式を行ったことについては茶々をいまだに許していなかった。今度は秀次だ。秀頼かわいといえど、秀次とてかわいい甥。ないがしろにする気は毛頭ないのに無断で入山して政務を投げ出すとは何事か。

 秀吉が淀殿のもとで秀頼をあやしていると、急報が告げられた。今度は何かとうんざりしていると、耳元で驚くべ気言葉がささやかれた。

「関白殿、高野山青巌寺にてご自害」

 秀吉は焼けつくような怒りが身のうちにたぎるのを感じた。このところ感情の制御がままならず、秀頼がかわいいのも家臣が無能なのも抑えがたい荒波となって身を切り裂くのを覚えた。かつてこのようなことはなかった。秀次自害のしらせに茶々はほくそえんだ。傍らで秀吉はぶるぶると震えていた。

「母上の菩提寺を血で汚すとは何たる不敬。一族郎党、女子供に至るまで捕らえ、処罰する。秀次は謀反人。謀反人の一族がどうなるか、ひのもとのみなみなにわからせるのじゃ」
「女子供たちに罪はありません」

 茶々は思わず声を上げた自分に驚いた。

「黙れ。わしの判断に口出しするなど無礼千万」

 茶々、大蔵卿らは茶々すら四条河原に送りかねない興奮を秀吉の語気に見た。恐怖に怯える茶々に一瞥を投げると、秀吉は部屋を出て行った。

 

(終わり)
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