2015年アメリカ。邦題の副題「華麗なる大逆転」が"看板に偽りアリ"で評判のこの映画を見てみた。原題はBig Short。shortは空売りのことらしい。リーマンショック(2008年)を代表とするサブプライムローン問題を扱った実話をもとにしている。第88回のオスカーで脚色賞を受賞。

 まず「空売り」とはなにか。一般に株など有価証券は安く買って高く売ることで利益が発生する。それを「持っていない空の状態」。つまり証券会社等に担保金(保険料)を預け、自分のものとはいえない指定の銘柄を売却する。それが安くなった時に買い戻せば差額は担保金を預けた人間の利益となる。いわゆる「逆張り」だ。


 次に「サブプライムローン」とはなにか。低所得者向けの住宅ローンだが、Wikiによるとこの条件がすごい。

  1. 所得に対する借り入れが50パーセント以上。
  2. 過去1年間に30日間の延滞が2回以上あった。
  3. 過去5年以内に破産したもの。
 そりゃ焦げつくはずだ。この条件を通過した住宅ローンが証券となり、金融商品となって市場に出回っていた。なんでも金融商品にするよな。というか、映画によればこの条件すら無視されて無審査貸出状態が続いていた。日本にだってよくわかんないけど住専問題とかあったよな。事後になってみれば「そりゃそうなるよ」となるこの「焦げつき」を事前に見抜いた人物がいた。クリスチャン・ベール演じるトレーダーだ。リーマンショックの三年前、ベールはこのサブプライムローンを中心とするMBS(住宅ローンを中心とする証券化商品)の空売りに乗り出す。世の中はMBSほど安心で安全な投資はないと、大手銀行までもが信じきっていた。そのためこの債券は直接「空売り」できないほどデフォルト(債務不履行)を度外視されていた。
 ちなみにこの映画で「銀行」はたくさん出てくるが、市中銀行と投資銀行もどっちもbankで、投資銀行は日本で言うところの証券会社と考えていいみたい。
 「サイオン・キャピタル」という投資ファンドに勤めるベールはゴールドマンサックスに出向き、CDSの購入を申し出る。CDSとはクレジットデフォルトスワップ。債券(この場合はMBS)が下落したとき買い手に利益が出る、つまりベールが思いついた「空売り」の方法だ。ベールはゴールドマンの連中に「俺は投資に勝つだろうが、あなたたちはそれに充分な支払能力があるのか」と問う。失笑するゴールドマン社員。うちの支払い能力を疑うなら、世の中のどこにその能力があるのか。そもそもMBSは安泰な証券だし、これがデフォルトになるというのはアメリカ経済、ひいては世界経済の破綻を意味する。そんなことはこれまで起こらなかったし、これからも起こらない。ベールは同様の巨額投資を別のメガ(投資)銀行にも次々もっていく。いずれも失笑しながら「サイオン・キャピタル」が支払うことになる高額保険料が丸儲けと契約を成立させる。債券の暴落を見込んでCDSを申し出たベールだが、逆に価格が上がるたびに銀行対して保険料を支払わなくてはならない。
 この映画のポスターにはベールを含む四人の男が映っているが、四人で組む話ではない。ベールの行動をきっかけにそれぞれが別にMBSのCDS購入、つまりBig Shortに乗り出しす。元医者のトレーダー、マイケル・バーリ(ベール)以外の三人はというと、以下の2チームに分かれる。
 モルガン・スタンレー傘下のヘッジファンド「フロントポイント」の経営者マーク・バウム(スティーブ・カレル)。金融界の不正を暴くのに躍起だ。バウムに「儲け話」を持ち込むのはドイツ銀行のジャレド・ベネット(ライアン・ゴスリング)。モルガン・スタンレーにおいて「フロントポイント」を担当しているのは黒人女性のキャシーで妊活中だ。
 もうひとつのチームが若い二人の個人投資家(チャーリーとジェミー)と彼らに協力する元JPモルガンのトレーダー、ベン・リカート(ブラピ)だ。若いチャーリーとジェイミーは資金不足と実績のなさから大口の取引に参加できない立場だったが、ブラピの助力を得てドイツ銀行からその資格(ISDA)を取得。ベア・スターンズ(投資銀行)からMBSのCDSを購入する。
 彼らの目論見通り、サブプライムローンの大量焦げつきが始まる。しかしMBSの格付けは下がらず、債券の価格も上昇するという不合理が起こる。債券の価格が上昇すればCDSに対する保険料も上昇する。政府を巻き込んだ金融界の恐るべき欺瞞が明らかになるが、同時に3チームは揃ってピンチに陥る。やがて数々の錬金術で欺瞞を行ってきた金融界も限界を迎える。つまり3チームが相手にしてきた大手金融機関(リーマンブラザーズに代表されるような)の倒産だ。それは3チームとも「儲け」を受け取れなくなることを意味する。果たしてそれぞれどういった決断をくだすのか。

 いろいろ書いたが、CDSとかよくわかってはいない。このあらすじの表現にも正確にはつっこみどころがありそうなんだけど、ご容赦の上一読ください。映画を楽しむには充分助けになると思う。この映画における「悪いやつ」は大手金融機関、格付け会社と政府なんだけど、個人名マルダシなのは元FRB議長のグリーンスパン。まだ生きてるよね? この辺アメリカ映画らしい。
 しかし格付けとか銀行もほんとに信用できないよな。うちも投資信託では某都市銀行に騙された経験あり。担当者が変わって「なんでこの(もうかるわけがないってわかってる)商品買ったんですか?」ってオマエの前任者が薦めたんだよ、なんてことあったもんね。この映画を見るとわかるが、その巨大な「ヤツラ」は金融商品同士をモトにした金融商品を作る。まさしく錬金術でありバブル。崩壊したときの連鎖反応の巨大さは計り知れない。金融アナリストの今年の見通しとか、マジ意味ないのは昔FXやってたときに実感した。でかい金融機関のシニアなんちゃらとか専門家ヅラでいろいろ言ってるけど、隙間埋めてるだけのトークショー。「ウォール街は業界用語で人を煙に巻く」。相場って改めていうまでもなく、常に詐欺まがいだ。別の言い方をすれば、あまりに人間くさいというか。あたしは30代の短い「利殖時代」に本当に自分には不向きなのを体験した。この世界は優秀とかボンクラとか、稼げるか稼げないかじゃなくて、向き不向きが明瞭にある。向いてないと精神すぐに病む。

 冒頭に戻るが邦題の副題「華麗なる大逆転」は完全に詐欺。政府や金融大手の「詐欺」を扱った映画でよくこういう厚顔無恥なことできる。映画が何言ってるか理解してる? って配給会社に食ってかかりたいわ。「強者」の良心を問う映画でよくこういうことができる。怖いよね、ほんと、マスコミと含めた世の中ってさ。
 映画についていうなら、語り口含めてわかりやすい内容ではないし、馴染みのない言葉のオンパレードで集中力要る。一生懸命ポップな仕上がりにして「エンタテイメント化」しようとしてるんだけど、そのせいで却ってわかりづらくなってる。こういう内容だから表現としてのオシャレさは軽減してわかりやすさを取ったほうがよかった気がするけど。編集方針のせいでわかりにくくなってるってあるよ。結論としては、内容を追いながらひとりで自分のペースで見たほうがいい作品だけど、見ごたえはあった。同じくクリスチャン・ベール主演の「フォードVSフェラーリ」は「見て損した」と思ったが、この映画でそれはない。苦労して見た分の見応えはある。ただ映画の目的は「巨悪を暴く」で、「面白い映画か」と聞かれれば「見応えはあった」と答えざるをえない。ここで思い出すのが韓国映画「パラサイト」だ。あれも格差社会といった社会問題をたくし込みながら、結局エンタテイメント映画というか、社会問題を超えた人間ドラマに仕上げていた。なんというか「パラサイト」のほうが”面白い”映画だ。

★映画の中に出てきてあたしが調べた用語★
・タルムード・・・ユダヤ教の聖典といえば旧約聖書だが、ざっくりいってそれに準ずる経典。
・ヘッジファンド・・・金持ち用の投資信託。一般に投資信託は公募だが、ヘッジファンドは私募。その代わりあらゆる手段を講じ、金融危機のような状態にあっても利益を生むような仕組みを取っている。手数料は高く、また情報も開示されない。利益率も高いが、投資である以上当然必ず利益を生むわけではない。
・目論見書…有価証券の募集あるいは売出しにあたって、その取得の申込を勧誘する際に投資家に交付する文書。
・ベア・スターンズ・・・アメリカにあったかつての大手投資銀行。リーマンショックで経営破綻。JPモルガンに吸収される。

★突然ですが今クールのドラマ★
 長瀬智也ラスト&クドカン脚本TBS「俺の家の話」。面白い。充実してます!