ゆっくりゆっくり、何度も何度も周辺を確かめて、また同じ質問をして、それでも
答えを言おうとしない。
「もう大丈夫だから、自信がなくてもいいから、半分でもいいから、思うことを
口にしてみなよ。」
それでも少し言いかけて謝る。
「なんで謝るの?何か悪いことしたの?」
彼女は今まで、授業のなかでいつも責められ、せき立てられてきた。
反応が遅い。言い方がはっきりしない。考え方がおかしい。理解が遅い。
散々なことを言われ、能力がない、理解力がないというレッテルを貼られてきた。
自分はのろまで何もわかってないんだとそう思い込んできた。
これは高校入試の数ヶ月前、ここに来て勉強をし始めたときの彼女の状態だった。
中1のころまで戻って最初からやり直すのではなく、中3のそのときの内容を中心にかみ砕いて
一つひとつわかるところを増やしていくことにした。
確かに進度は遅かったが、理解度は驚くほど高くなった。
例えば、英語の関係代名詞。きちんと理解するにはかなりの人が苦しむ内容だけど、彼女は
完璧にマスターした。並べかえ問題や英作文問題でも困らないレベルに達した。
英文法のたった1つの項目にすぎないけど、「自分にもわかる」という喜びにつながった。
自信のかけらが沸いてきた。意欲が出てきた。
結局、どの科目においても遅れを取り戻すことはできず、第1志望の高校は断念し、第2志望の高校に
合格した。高校に入っても、中学校の内容の理解不足という現実に直面することは必至だろうが、
登る前からあきらめていた山にチャレンジできる「自分」と出会ったことが何よりの成長。
彼女に心から『中学卒業、そして高校入学、おめでとう』と言いたい。
(*彼女は高校生になってもここで勉強を続けるということです。)