「如月」
睦月に呼ばれて如月も顔を上げる。
「弥生、卯月、皐月、水無月、文月、葉月、長月、神無月、霜月…」
その後も睦月は順に月巫女の称号を挙げた。それに合わせて月巫女たちが順に顔を上げていく。そして、
「師走」
最後の称号を挙げて師走が顔を上げたのを確認し、睦月は如月とは反対側の、誠の横に腰を下ろす。
「姫巫女様、整いました」
睦月が言うと姫巫女は右手で剣の柄を持って鞘からスッと抜き、振り返って舞を踊る。それは一見、演武のようにも見えるが、魅せる優雅さは正しく舞だ。彼女が動く度に僅かに遅れて付いてくる長い髪や振袖、袴、端を長く垂らした飾り帯が流れを生み、舞の美しさを一層 引き立てる。
「……………」
誠は息をするのも忘れて姫巫女の舞に魅入った。それは幾度となく姫巫女の舞を見ているはずの月巫女たちも同様だ。舞う姫巫女からは誰も目が放せない。
姫巫女の美しい顔に汗が滲む。それが増すに従って、舞も次第に熱くなる。迸(ほとばし)る汗が松明の光に反射し、舞の美しさを更に演出する。時間にして約15分。それは姫巫女の舞を初めて見る誠には もちろん、月巫女たちにとっても優美で幸せな時間だった。
「睦月…、如月…、誠さんに お神酒を…」
舞を終えた姫巫女が静かに告げる。それに応えて如月はスッと立ち上がって誠に盃を渡し、そこへ睦月が お神酒を注ぐ。
「それでは…」
呟くように言って姫巫女は誠が持つ盃に左手をかざす。そして右手に持った剣で かざした左手の指先を僅かに切る。
途端に染み出る真っ赤な鮮血。それが盃の中央に落ちて、お神酒に赤い波紋が浮かぶ。
「誠さん、あなたを私の仕者と認めます。それを一息に飲み干して下さい」
姫巫女が静かに言った。誠は姫巫女の血が浮かぶ お神酒が満たされた盃を そっと口に付け、一気に傾けて飲み干す。―――と、
ドクンッ―――。
一度大きく心臓が高鳴り、今まで止まっていた大きな歯車が動き出すような感覚に囚われる。


