この当時より以前に、少年隊の仮面舞踏会がヒットソングになっていたが、まだ、その影響があるのか、そんな秘密のダンスパーティーを楽しんでいるグループがいるのだ。
「じゃあ、僕はママの人選にかなったってことかな、まだ、先ほど、会ったばかりなのにさ。」と聞くと、
「だって、貴方は私と一緒に来て、親しげに踊ったじゃない、それを見ていたママが好感を持ったのよ。ママと私は親友同士だし以心伝心みたいなものよ。私の見た目に間違いはないからそれで十分なのよ。」と自信ありげにこたえる。
「そうなんだ、でも、社交ダンスは初心者だし、そんなベテラン連中のなかで踊るのは苦手だなあ。」とちょっと気乗りがしないように言うと、
「ダンスコンテストじゃないので、ダンスが上手いなら誰でもよいというのではないの。
仮面をつけて踊りながら、ドキドキ感のある男女の刺激を楽しむのが目的のパーティーだから、ダンスはいまいちでも、見た目や品格がそれなりの魅力的な男性でないとね。
女性はあるレベル以上でも集められるけど、そんな男性はなかなかいないの。男女同数だから、男性が少ないと参加できる女性も制限されてしまうのよ。
だから、ママにとっては、ダンスが上手くなくても、ほどほどに踊れるなら、貴方みたいな男性は大歓迎なの。」
「だけど、社交ダンスのパーティーなら、ワルツも必要だよね。」
「そうね、もうジルバとルンバは大丈夫だから、他に踊れたらいいのが、ワルツね、パーティーまで二週間あるから私が特訓してあげるわ。」と励ましてくれる。
僕は、仮面舞踏会という妖しげなイベントを体験したいという期待もあり、
「では、特訓を頼むよ、受講料はしっかり、弾むからね。」と彼女に頼んで参加することにした。
彼女がママに、僕がパーティーに参加することを告げると、
「これで10組20人になるわね。あと、彼女は分かっているけど、ハロウィンの仮装じゃないから仮面は顔全体を覆うような奇抜なのは除外してね。ベネチアンマスクでも色んなデザインのものがあるわ。
女性だったら、蝶々や花をあしらったのとか、男性だったら、目の回りを覆うだけのシンプルなものから、動物をイメージしたものまで色々あるから、それを選んで個性的な演出をするのも仮面舞踏会のお楽しみなのよ。」とママもにこやかにアドバイスしてくれる。
美熟女のダンス教師の彼女もママも、仮面をつけてどんな美魔女に変身するのか、僕にとっては、それも楽しみだ。
一通り踊った後、席に着いていると、ママが来て「お似合いのカップルね、お互いに好き同士だとそんな感情が踊りにもあらわれるわ。」とにこやかに話しかけてきた。
「いや、僕はまだ初心者なのでそんな気持ちの余裕はないよ。」と応えると、
彼女が「そんなことないでしょう、貴方、レッスンの最中にだって私を抱きしめたくせに。」とあからさまにばらして、面白がっている。
「まあ、いいじゃない、社交ダンスを踊る殿方って、紳士的に見えても、そんな願望は根強く持っているから。私だって、踊っているお相手がいい男だったら、抱かれたいと思うもの。」とママが僕に気持ちを合わせるようにフォローする。
さらに「今度のパーティーは、こちらの方とご一緒かしら?」となにか含みを持たせるように、彼女に問いかけた。
「そうよね、まだ、彼には話してないけど・・、そうしようかしら。」
「ええ、それがいいわ、この方だったらパーティーの雰囲気にすごく合いそうだわね。」
僕が知らないうちに、彼女とママの話がすすんでいる。
「えっ、何の事なのかさっぱり分からないけど、僕もそのパーティーに参加することになるのかな?」と聞くと、
彼女がなにか意味ありげな笑みを浮かべて、
「ええ、秘密のダンスパーティーよ、貴方も付き合ってね。」と言う。
この二人の美魔女が何を企んでいるのか知らないが、妖しげなムードに興味がそそる。
ママが僕を見つめて、
「貴方だったら歓迎するわよ。是非、参加して欲しいわ。詳しいことは彼女に聞いてね。」と意味深な言葉を残して席を離れた。
彼女が事の次第を説明しはじめた。
「年3回ある仮面舞踏会で、40代から50代の紳士淑女の限られた人しか参加できないの。
男女同数になるようにして、ある程度のレベルでママが人選しているけど、メンバーの素性は明かさないことと、原則一人参加なので、私たちのようなカップルであっても、その場では別々に行動することがルールなの。だから、貴方と私も全く見ず知らずの立場でふるまうことになるのよ。
あとホテルのパーティールームで催すのだけど、別に幾部屋かは予備にリザーブしてあるわ。パーティー費用は男性持ちになるわね。
それとこのパーティーの存在自体を、すべてシークレットにすることをメンバーが確約することが絶対条件ね。」
そんな話をする、このダンス教師の彼女が何となく妖艶な魔女のように思われてきて、僕はミステリアスでファンタジックな世界に招待されたような気がした。
「彼氏じゃないわよ、私のダンスの生徒さん。今日でレッスンは終わったけどね。」
「そうよね、確か、以前、ダンスパーティーの折にはパートナーで彼氏だという方にお会いしたことがあったわ。」
「ええ、でも、ここには、あの彼はしばらく連れて来ないつもりなの。」
「ふーん、そうなんだ。喧嘩でもしたの?」
「そうじゃないわ。だけど、このお店は彼には知られたくないのよ。」
と二人の会話は弾んでいる。
そして、ママさんは、僕を見ながら、
「まあ、こちらの方とご一緒に来ていただければいいわよ。」とにこやかに話す。
ママさんも、ある程度の事情は察したようだ。
ダンスタイムとカラオケタイムがあり、ダンスタイムで、すでに何組かの客が踊っている。女性客は肌を露出したようなドレスを着ていて、妙に色っぽい。
ダンス教師の彼女もこの店に預けているのか、肩肌を露わにしたドレスに着替えている。
その色気に抱きしめたい衝動を抑えて、僕は彼女と向かい合う。レッスンとは違い、ダンスの実践だ。
早いテンポの曲はジルバで、緩やかなテンポの曲はルンバで踊れる。
「そのうちにワルツやタンゴも覚えると、ほぼオールマイティーに踊れるようになるわ。」と彼女が耳打ちする。
「また、教えてもらうよ。ところで僕とここで会うことで君の彼氏には後ろめたくはない?」
「いいのよ、前にも話したけど、彼氏にはちょっと距離を置きたいの。その分、貴方と付き合いたいのよ。」
「旦那に対しては不倫をしながら、彼氏には浮気ってところか・・。まあ、君がそれで割り切れるのならいいけどね。」
「貴方だって、同じ穴のなんとかで、共犯ね。」と色白肌の肩をすくめながら笑みを浮かべる。
「あのママは大丈夫? 口づてでバレるようなことはないかな?」
「ママは口が堅いのよ。それに彼女だって、私たちと同じように色々あるし、そのあたりはわきまえていて、お互いに守秘義務があるの。」
ダンス仲間の女性達の秘密のコミュニティがあるみたいで、この店は、そんな美魔女たちの集う妖しげな巣窟のように思えた。