店が閉店間際になり、元ショーガールの女性が僕に意味ありげな目配せをして、連れの友人とともに店を出て行った。

「さあ、俺たちも引き上げようか。」と仮面妻の彼女を促し、店を出て、いつも通り、ラブホに向かう。


タクシーの中で、元ショーガールに嫉妬した反動なのか、彼女は甘えるように身をゆだねてくる。
その心地よい感触に、僕は興奮し、抱きしめて口づけをする。
ラブホでは、いつも以上に彼女は濃厚な性技を求めて交わる。
あの女流画家との浮気がばれた時と同じで、彼女にとって、ほどほどの嫉妬心はセックスの刺激にもなるようだ。

ダンスレッスンの最終日を迎え、なんとか、ルンバが踊れるようになった。
もともと僕は、ロックンロールやディスコサウンドなどの激しいテンポのダンスを好んでいたので、スローテンポなルンバは不得手だった。
だが、男女が身体をくねらせながら踊るセクシーな感じは、チークダンスとは、また
違った男女間の甘いムードに浸れる。

「これでジルバもルンバも踊れるから、私のお相手もできるわね。」とダンス教師の彼女が微笑む。
「うん、時々、お相手してもらって、さらに習熟できればいいので、これからもよろしく。」と応える。
その夜は、彼女と居酒屋で飲んだあと、彼女のダンス仲間が営んでいる三軒茶屋のソシアルダンスサロンに行く。

道路際から階段を地下に降りた入り口近くには、開店祝いの花束スタンドが飾られている。
真新しい内装の小ぢんまりしたダンスホールだが、ダンスフロアーを囲むようにテーブルと椅子が横並びに配置され、ステージにカラオケ機材も用意されていて、パブスナックのように酒食もできるようだ。

「ここは、まだ、オープンして間もないから、私の彼氏も知らないし、貴方も彼女と鉢合わせすることがないから、お互いに安心して一緒にいることができるわ。」と悪戯っぽい目つきで笑顔を見せる。
「そうか、二人だけの秘密の隠れ家ってとこだね。」と僕もうなずく。

「あら、いらっしゃい。ご同伴で来ていただいて嬉しいわ。彼氏かしら?」とママさんが来て挨拶がてら、彼女に話しかける。
この女性もダンス仲間とあって、プロポーションがモデル並みの美魔女だ。

元ショーガールは、挨拶程度の会話をかわして、連れの女性と円形カウンターの少し離れた席に着いた。
すかさず仮面妻の彼女が聞いてくる。

「あの人とはどういう関係だったの?」
「もう、四年ほど前かな、ここで知り合ってさ、関西の有名な歌劇団のショーガールだったんだ。彼女も君と同じく、酒乱の旦那のDVにあっていたみたいだよ。」と話すと、同じ辛い境遇にいたということで、さらに興味を持って、「それでどうしていたの?」と聞いてくる。

「しばらく、子供を連れて、近くにある実家に戻り、旦那とは別居していたね。」
「さっき、彼氏がどうとか、話していたじゃない?」
「うん、それで実家にいる時に年下の若い男性と不倫するようになったんだ。
でも、彼氏は優しくて、DVをするようなことはないけど、束縛したがりやなんだな。」
「へえ、それも大変ね、で、貴方とはどういう関係だったの?」
「まあ、彼女が時々、この店に来ていた時に一緒に飲んだりした仲ぐらいかな。」と、さすがに、彼女と情交したことまでは話せない。
「本当にそれだけ、なにか、あの人が貴方と顔を合わせたときに、ただの飲み友達だけじゃない感じを受けたわ。」と指摘する。嫉妬心からくる勘繰りは鋭い。
「だって、その時、彼女には、すでに彼氏がいたわけだし、俺とはあり得ないよ。」と否定すると、
「ふ~ん、どうだか・・、女心は揺らぎやすいから、旦那や彼氏みたいなDVや束縛のない、貴方みたいなおおらかな大人の男性に、刹那的に惹かれることもあるわね。」と疑っている。

確かに、元ショーガールは、あの時、彼女宅の近くまで送ったのに、酔ったふりをしてタクシーから降りずに、そのままラブホに行き、情交の最中には、うわ言のように彼氏の名前を呼び続けていたのは、罪悪感を持ちつつも、僕に寄りかかり、刹那的な安らぎを求めていたのかもしれない。

バンド演奏がラストになると、彼女たちは、フロアーに出て踊り始めた。
元ショーガールだけに、やはり、華麗なダンスをしている。
それを眺めている僕を、仮面妻が不機嫌そうに見ているのに気づき、慌てて目をそらす。

「貴方って、あの元ショーガールといい、ダンス教師の女性といい、ほんとに気がかりになる人ね。ちゃんと私だけを見てくれないと、嫌なの。」と念を押す。
「もちろん、分かっているよ。」と彼女の腰に手を当てて抱き寄せた。

こんな遅い時間に女性をナンパしているようなら、ダンス教師の彼氏は、今夜は一人できているのだろう。

「まさか、あの彼女に対しての腹いせに、彼氏を本気で誘惑しようなんて思ってないだろうね。」と冗談っぽく仮面妻の彼女に聞くと、
「そんなの、ある訳ないでしょ、ただの暇つぶしよ。貴方こそ、あの人の彼女にちょっかいだしていないでしょうね。私の友人の女性画家との前科もあるしね。」ときつい目をして聞き返す。すでに確信犯になっている僕は、彼女の詰問をそらすように、
「まあ、君だって、あの同級生のこともあったしさ、分かんないよなあ。」とはぐらかす。
「まだ、そんなこと言っているのね、貴方と付き合うようになってから、誰とも何もないわよ。主人だって避けているぐらいだからね。」ときっぱりと否定する。
そこまで言及する彼女だから、ダンス教師との関係がバレたら大変なことになるだろう。

あのダンス教師の彼氏のほうをみると、ナンパしたのか、親しげに他の女性と飲んでいる。
ダンス教師の彼女は、あんな彼氏の素行には無頓着の放任状態だから、つくづく、嫉妬深い仮面妻の彼女とは真逆の性格なのだと思った。

深夜を過ぎて、客もまばらになり、ダンス教師の彼はナンパした女性と他の店に行ったようで、入れ替わるように女性二人が店に入って来た。
よく見ると何年ぶりかに会う、元ショーガールの女性だった。

彼女も僕に気づいて、僕が女連れであるのも気にかけないで、ツカツカと寄って来て声を掛けてきた。
「あら、ずいぶん、ご無沙汰ね。」と言いながら、一応、仮面妻にも会釈したが、だいぶ、酔っている様子だ。

「やあ、ほんと、久しぶり、この店にも来ていなかったようだけど、どうしてた?」と返事をすると、
「そうね、ここも一年ぶりぐらいかしら、相変わらず、彼氏が束縛したがりやなんで、年に数回しか来ないから、貴方ともタイミングが合わないのか、全然、会わなかったわね。」と笑顔をみせる。
仮面妻の彼女は、突然の女性の来訪者に不機嫌そうに成り行きを見つめている。

この元ショーガールとは、このブログの『ショーガール』のところで前述しているが、僕とは二度、関係した仲で、仮面妻と同じく、DVの旦那に苦しめられて、実家に避難しながら、年下の優しい彼氏と不倫をしていた。

その彼氏も束縛が激しかったようだが、まだ、関係は続いているみたいだ。