僕が席に戻ると、仮面妻の娘が「歌、上手いですね、サザンの曲は歌詞に字余り字足らず、が多くて、なかなか歌いこなせる人がいないわ。」と感心する。
「先ほど、君が歌った『亜麻色の髪の乙女』も良かったよ、あの歌は、僕の学生時代にヴィレッジ・シンガーズというグループサウンズがリリースした懐かしい曲で、今は島谷ひとみがカバーしているんだね。」と話すと、母親の仮面妻が「そうそう、私も中学生の頃によく聞いていたわ。」と応える。

そんな会話をしていると、娘は、まるで子猫が甘えるようにぴったりと僕に身体を寄り添わせてきて、彼女の若さのオーラを感受するようないい気分がして、なんとなく僕に好意を持ってくれているようにも思えた。

仮面妻が、そんな娘の様子を見て、
「だめよ、このおじさんは、優しそうに見えるのが曲者で、女たらしだから。」と冗談交じりに言うと、
「へえ~、おじさん、女たらしなんですか、じゃあ、お母さんも気をつけないとね。」と皮肉るように言い返す。

昔、ヒットした『卒業』というダスティ・ホフマン主演の洋画があったが、人妻と不倫しながら、その娘とも関係し、エンディングは、その娘が他の男と結婚式をあげている最中に花嫁を略奪して駆け落ちをするという、エキセントリックなストーリーだった。
大学生だった僕にとっては、まだ道徳観念にしばられる当時として衝撃的な印象を受けた。
その映画のスクリーンテーマーミュージック『サウンド・オブ・サイレンス』を聴くと今でも懐かしく脳裏によみがえる。
そんな映画の台本通りではないが、仮面妻の母娘ともに関係してしまうという、邪な空想がよぎるが、まあ、あり得ないことだと思い直す。

仮面妻がそんな危なげな雰囲気をそらすように、
「ねえ、この子、会社ではパソコンを使いこなさなければ仕事にならないの。あなた、教えてあげてくれない?」と話題を切り替える。
娘が、「おじさんの会社はコンピュータ関係なんですよね、アドバイスをお願いします。」とにこやかに頼んでくる。

当時は、まだ現在のようにパソコンが行き渡り、若い子がスマホまで使いこなせるよう状況ではなかった。
「まあ、パソコン教室に行くのが手っ取り早いけど、あとのフォローもあるから、そうだなあ、うちの若い女子社員を紹介してあげるから、彼女に手ほどきしてもらうのもいいだろうね。同世代だから友達にもなれるんじゃないかな。」と応える。
心当たりとして、ブログ前述の『おっさんず&OL合コン』の時に合コンを仕切っていた女子社員を思いついた。彼女なら人柄もいいし、仕事柄、パソコンの扱いには習熟している。
性格的な明るさも仮面妻の娘とも相性がよさそうだ。

「今の若い子の歌はあまり知らないけど、どんな曲を歌えばいいのかな?」と娘に聞くと、
「サザンなんかは、おじさんの世代でも歌うのでしょう?」と聞き返す。
サザンは年代を超えて幅広い世代に人気がある。たしかブログ前述の『コミュニケーションサイト1-2』で知りあった40才の人妻とカラオケボックスに連れだった時も「涙のキッス」をせがまれたことがあった。

「そう、サザンの曲のレパートリーはあるよ、どんなのがいいの?」と尋ねると、
「ラブ・アフェアーは歌える? 学生時代に見ていたドラマ、スウィート・シーズンの主題歌だったの。」とリクエストをする。
歌詞は横浜のトレンディスポットの美しい景観を歌い込みながら、ドラマと同じに不倫をテーマにした内容なので、この娘の母親と関係している僕にとっては、いささか困惑する。
母親とのことを察していて、あえて意図的な選曲したのではないかと考えてしまう。

「あのドラマ見ていたんだね、物語についてはどう思う?」
「私は特に抵抗はないわ、既婚の男性でも素敵な人だったら憧れると思うけど、ドロドロした関係になるのは避けたいわね。
うちのパパみたいに、あからさまに家に浮気相手を連れ込んで、ママを怒らせたりするのは論外ね。なんか嫌らしいものをみるみたいなの。」
この子がそこまでのことを率直に僕に話すのは、うすうす母親と僕との関係に感づいたけど、素知らぬふりをするから、お母さんが癒されるように上手く付き合ってあげてね、という暗黙の了解をしているようにも思えた。

仮面妻は娘の話を聞きながら、「社会人になってずいぶん成長したのね、でも、社内で上司の既婚男性と関係するのは良くないわよ、仕事にも差し障ることがあるし、そんなことはドラマの中だけだからね。」と戒めるように言う。
彼女の夫も部下の女性社員と関係しているから、やはりオフィスラブの不倫には不快感をもっているのだろう。
そういえば、僕自身もブログ前述の『初めての不倫』で新入社員1年目にして、会社を辞めた苦い前歴がある。

カラオケの順番がきて、ラブ・アフェアーを歌う。
あんな会話をした後で、母娘ともこの不倫のテーマ曲をどんな気持ちで聞いているのだろうか。
僕が幾度も経験してきた不倫は、ドラマにあるような重苦しさはなく、お互いに相手の家庭環境には影響を与えない婚外恋愛であり、一時の非日常を楽しむだけの関係で、LOVE AFFAIRはこのブログのタイトルにもしている。
仮面妻ともそんなほど良い関係で続いていて、彼女の娘もDVの父親には無い優しさを僕に感じているのかもしれない。

「こんばんは、母がお世話になっています。」と娘が笑顔で話しかける。
「いや、こちらこそ、お母さんとはここでは顔なじみの飲み仲間で、楽しくさせてもらっているよ。」と僕もにこやかに応えると、
「このおじさんはすごく優しくて、パパとは段違いな人よ。」といきなり、仮面妻が旦那と比べるような言い方をするのでちょっと焦った
「へえ、そうなんだ、だからママはここで息抜きして遊んでいるのね。」と分かったような口を利く。
「そうよ、ママの気持ちわかるでしょ。」と仮面妻も笑って応えている。
「ママはおじさんといると嬉しそうね。だから、よく、夜にこの店に来ているんだ。」と何のわだかまりもなく話す。
そんな母娘のきわどい会話に、内心、この子は僕と母親との関係をどこまで感づいているのかと気にかかる。

ちょうどバンド演奏が終わった後のカラオケタイムで、娘は出番が来て席を外した。
その間に仮面妻の彼女に聞く。
「娘さんには、俺たちのこと、どこまで話しているんだ?」
「だいたい、貴方と娘とは今、会ったばかりだから、そんな詳しいことまで言えないわよ。
でも、あの子は、主人が私にDVするところを目の当たりにして心配しているから、私が多少、ハメを外していても咎めることはしないわ。」と平然と応える。
「でも、あえて関係を気づかせるような言動は慎んだ方がいいよ。」と促す。
「そうよね、でも、あの子が感づくのは仕方ないわね、だけど、それで私たちを責めるようなことはないわ。
だって、主人が出張なんかで家に居ない時は、私が夜に出かけるのも許容しているし、むしろ、その方がママのためだから、と思っているくらいだから。」
「でも、うっかり旦那に話すことなんかもあるのじゃないか。ここには連れてこない方がいいと思うけどなあ。」と念押しすると、
「あの子は、主人の暴力はもちろん、彼の浮気が続いていることも知っているから、主人を嫌って、ほとんど口もきかないから大丈夫よ。だから社会人になってからは、自立して一人暮らしをしたいようだけど、私を心配して離れないのよ。」
確かに彼女が家出して、スナックの雇われママになっていた時も母親と行動を共にして同居していたくらいだから、その苦労を娘もよく経験している。

娘がステージでカラオケを歌っていると、スポットライトを浴びたその容姿は母親を凌ぐくらいの芸能人並みの美貌で、店内の男性客の視線を集めている。

娘は席に戻ってくると、僕の横にピッタリと座り「おじさん、カラオケしようよ。」とリモコンを渡す。
娘は母親似の人懐っこい性格で、父親に対する反発があるのか、僕には慣れ親しんでいるようにも思えた。
さすがに嫉妬深い仮面妻も、娘にはヤキモチは焼かない。