その旅行のことで、昼間にランチを兼ねて、母親の仮面妻に会って話をする。
「娘に特訓してもらえるなら、ありがたいわ。貴方の会社の女子社員さんって、面倒見がいいのね。おっさん合コンの時にもあんなオヤジ達の相手していたぐらいだから。」
「そうだなあ、世話好きの性格なんだよね。俺にとっても彼女はずいぶん役立っているよ。」
「ふ~ん、プライベートでも社長の身の回りとかを、お世話してもらっているとかね。」と疑い深い目つきで見つめる。
「あくまでも仕事上でのことで、女子社員とは男女関係になるようなことはしてないよ。」と言うと、
「ふふっ、冗談よ、だけどムキになって否定するところがあやしいわね。」とさらに突っ込んでくる。
まあ、仮面妻の嫉妬深いのは、今に始まったことではないし、適当に聞き流す。

「どこがいいかな、君と旅行した勝浦のリゾート施設なんかどうだろう?」と聞くと、
「貴方と逢引きした所に私の娘が行くなんて、ちょっと心情的にはわだかまりがあるわね。」とあまり乗る気ではない。
「じゃあ、館山に会社関係の保養施設があり、翌日もチェクアウト後に研修ルームが使えるから、そこがいいだろう。温泉もあって、食事もフレンチコースだし、夜は踊れるディスコルームがあり、若い社員には人気があるよ。」と思いついたまま話すと、
「え~、私も行きたいわ。一緒に連れてって。」とせがむ。
「それはちょっと、まずいよ。会社の社員の研修という名目で利用するわけだし、それに君の娘も母親が付き添いだなんて嫌がると思うなあ。」
「そうよね、貴方とはまた別の機会にでもするわ。」とあきらめる。

「そこでは、一人一部屋はとれないから、リビングと別にベッドルームがある部屋に三人で宿泊することになるけどいいかな?」と一応、了解を求めると、
「娘とその女子社員と貴方が同じ部屋になるということなの?」と聞いてくる。
「同じ部屋といってもベッドルームは別だからさ。だいたい僕にそんな邪な気持ちはないからね。」と応えると、
「どうだか、間違っても3Pなんてことにならないでね。」と笑う。

仮面妻とそんな話をした後に、いつものように昼下がりの情事を楽しむ。
ベッドのなかで、彼女は、
「あの子、父親を毛嫌いしている分、その反動で貴方みたいなおおらかで寛容的な年配男性に惹かれるところがあるの、そんなムードになっても決して手を出さないでよ。」と僕の腕をつねりながら、念を押す。
「そんなことありえないな、だいたいうちの女子社員も一緒だしさ。」
「あの女子社員だって貴方に上司以上の親しみを持っているわよ。」
この場合、仮面妻の嫉妬心というよりは、疑心暗鬼な妄想にほとほと呆れてしまう。

講習後、二人を会社近くのダイニングバーに連れて行くことにした。
若者向きの店で、カジュアルな洋食メニューとカクテルなどの種類も豊富だ。

もう夜の9時を回っていることもあり、空腹だったのか、若いだけあって、カクテルを飲みながらの食欲も旺盛だ。
二人ともよほど気が合ったのか、今日が初対面にも関わらず旧知の仲のように打ち解け合っている。
会話も弾み、互いのプライベートにまで話が及んでいる。
僕は二人の保護者のように同席しているが、可愛い彼女達との酒宴の華やかさは満更でもない気分だ。

「お母さん、綺麗な人ね、前に会社にみえた時にお会いしたことがあるわ。」とうちの女子社員が話しかける。
「そうなんですか、こちらにお伺いしたことがあるんですか?」と聞き返す。
慌てて僕は、「そうだった、何か渋谷に用があったみたいで、突然、立ち寄ったことがあったね。」と口を挟む。
仮面妻は、その来訪ともう一度、ライブパブを出た後に、せがまれて深夜のオフィスに連れて行ったことがあり、あの時は静まり返った社内の社長室でセックスをしたのだった。

「社長にお母さんがご迷惑かけていませんか? たまに家出したりして素行が心配の時もありますから。」と気に掛ける。
この娘は、ライブパブの時は、僕をおじさん呼ばわりしていたが、今では、うちの女子社員と同じく社長と呼んでいる。
「いや、飲み友達というだけで、そんなに深い付き合いはしていないから大丈夫だよ。」とそらぞらしく応える。
「そうならいいのですが、社長さんは優しそうだから、お母さんが甘えていないかと思って・・。」
「いや、あんなに美人のお母さんだったら、甘えてもらっても嬉しいくらいだよ。」と他人事のようにと言うと、
女子社員が、「社長は優しいから、社内の女子にも受けがいいのよ。」と話す。
仮面妻とは、すでに娘が気にしている以上の不倫関係にあり、その娘を前にしての白々しい返答が自分なりにも気が引ける。

「ところで、どうだったかな? まだ2時間ぐらいのレッスンだったけど理解できたかな。」と話題をそらす。
「ええ、分かりやすく教えて頂きました。あとは自分で何とか頑張ってみます。」と彼女が応えると、
女子社員が、「まだまだ、教え足らないので、今度は、時間をかけて特訓してあげたいと思います。それで、彼女がよければ、泊まり込みの合宿なんかどうですか?」と提言してくる。
「いいのですか? そこまでしていただけるなら願ってもないことです。」と彼女も乗り気になっている。
そんな彼女達の意気込みを無駄にしないように、僕は二人を一泊二日の研修旅行に連れて行くことにしたんだ。

仮面妻が、「ひょっとして、ここでオヤジ達と合コンしていたOLの中にいたあの社員の子じゃないの?」と聞くので、
「その時、君とも会っていたんだ。」と応えると、
「あの可愛い子ね、私が貴方の会社に行った時にもいたわね。」とうなずく。
「まあ、仲良くなって、パソコンの事もいろいろ、教えてもらったらいいよ。」と言うと、
「そうね、彼女だったら、うちの子とも気が合いそうだわ。」と乗り気になっている。
後日、うちの女子社員を会わせるということで、その夜は仮面妻の母娘と別れた。

翌日、会社で、その女子社員に頼むと、もともと社交的な彼女のことだから、
「いいですよ、以前、会社にみえたあの綺麗な方の娘さんですね。私も会ってみたいですわ。」と笑顔で返答する。
「あのおじさん合コンしたクラブ仲間の友達みたいな感じの子だから、たぶん、君とも気が合うと思うよ。そう言えば、あの子達と六本木のクラブには行っているのかな?」とついでに、彼女と経営クラブの後輩との関係が気になっていたこともあり、聞いてみた。


「お陰様で、社長のご友人のお店で、特別に優待して遊ばせていただいてます。」と嬉しそうに応える
「そうなんだ、彼とも会っているのだね、うまくいっているのかな?」とちょっと突っ込んだ質問をすると、
「ええ、社長もすでにご推察だと思いますが、個人的にもお付き合いしていて、色んな所に連れて行っていただき、楽しんでいます。」となんら躊躇することなく話す。
さらに、「そうそう、社長がお気に入りだった和装の友人は、もう、郷里に帰ったんですが、先だって、電話で長話して、ずいぶん、社長のことを懐かしんでいました。」と告げる。
どうやら、僕と帰郷した友人のことを彼女もそれとなく気づいていたようだ。

「田舎で順調に過ごしていればなによりだよ、東京に来た折には、また、皆で食事でもしたいね。」とにこやかに受け応えたが、この女子社員とは、結果的にお互いの不倫相手を紹介したことになる。
そんなことで彼女には社員として以上の親近感があるが、仕事に影響するようなことは避けねばならない。

数日後、仮面妻の娘が終業後の夕刻に会社に来て、その女子社員に小会議室でパソコンの講習を受けることになった。
たまたま、社内で居合わせた若い男子社員達がすごく可愛い子が来ていると噂していたようだ。
二人は、やはり同じ感性があったのか、すぐに打ち解け合い、親しそうに講習をしながら、時間を過ごしている。
仮面妻からメールで状況を聞いてきたので、順調に進んでいると伝え、受講後に二人を食事に連れて行く旨を返信したら、娘にちょっかい出さないでよ、と冗談めいたリメールがあった。
だが、この後の食事中に、意気投合した二人から、思いがけない約束事をされてしまうことになった。