さらに「その方と付き合われた気持ちはよく分かります。私も同世代の男性だと子供じみて頼りなくて、交際が長く続かないのです。だから、包容力のある落ち着いた年配の男性に惹かれます。」
どうやら、この二人の若い女性は、そんな似通った男性観でも気が合うのだろう。
僕は、彼女が後輩の彼と別れると言うのを聞いて、ある意味、安堵した気分になった。
社内にいる女子社員のうちでも彼女は特に僕に慣れ親しんでいて、男女関係にはなっていないものの愛おしくは思っていて、彼と付き合っていることを知った時、なんとなく惜しむような気持がしていたのだ。
「まあ、貴重な経験をしたということで、今度は真面な交際のできる男性を見つけることだね。」と諭すように言うと、「ええ、努力はしてみます。」と明るく笑顔で応える。
仮面妻の娘が、「でも、そんないい思いをすると、後々、求める男性像のハードルが上がって満足できないのではないですか?」と気に掛ける。
女子社員が「結婚を前提にするなら現実的な妥協は必要で、ハードルは下げられると思うわ。でも、結婚後はどうなるか分からないわね。」と冗談交じりに話す。
確かに女性は現実的な安定した生活を優先して、相手の男性が理想には届かないとしても折り合いをつけて結婚するが、その分、結婚後、理想とのギャップで満足できなければ、夫との不仲を切っ掛けとして、それを満たしてくれる男性に惹かれて不倫関係になることがある。
実際、僕が関係した人妻にはよく見受けられた傾向だ。現にこの娘の母親も優しさに欠けた夫への不満から、僕と不倫している。
「そうですよね、私も若いうちに自由恋愛と結婚は分けて楽しまないといけないですね。」と娘は悟ったように納得する。
僕は女子社員に、「おいおい、まだ社会人になったばかりの子に、あまり良きにしろ悪きにしろ影響を与えないでくれよ。お母さんからクレームがきて、これじゃあ、何の研修旅行か分からなくなるよ。」と呆れたように言い聞かせると、
「だけど、うちの母親だって、父親からの現実逃避で、頻繁に家をあけて楽しんでいますわ。」と娘が笑いながら言葉を返す。
「社長だって、自由恋愛を楽しめそうですよね。」と女子社員も言いつつ、会話を面白がっている。
女子社員は、社内では、セクレタリの代行も務めているだけあって、僕の身近にいる分、この娘の母親や不倫サイトで知り合い協業したIT会社の女社長、ウェブデザイナーの女性などと僕との関係をうすうす、感じ取っているのかもしれない。
そんなちょっと際どい談笑が車内で弾むなか、館山への長いドライブが続いた。
「君とオヤジ合コンに参加した友達を経営者クラブの後輩の店に連れて行った時に、君が店のオーナーの彼に好意を持ったのは分かっていたが、彼は職業柄、派手な交遊関係があるので心配はしていたけどね。」
「ええ、私もそれは社長から事前に聞いていましたから理解はしていました。彼から誘いを受けた時も、そんな人だと割り切ってお付き合いすることにしたつもりだったのです。でも最近はこのままの関係を続けていてもいいのか、迷うようになりました。」と打ち明け始めた。
「たしかに彼とは年の差が親子に近いほどあるし、既婚者で女性関係は君の他にもあるから、今までよく続いていたと思うよ。」と僕は気になっていたままを伝えた。
「所詮、遊ばれている身だと分かっていたので、それで幾度となく、まともなお付き合いができる男性と会ってみたりはしたのですが、なにか物足りなくて気が進みませんでした。
彼は優しくて、私が、普段では行けないようなお店や遊びのスポットにも連れていってくれるし、なにより一緒にいれば、包み込まれるような安らぎを感じます。」
「それは、彼はフェミニストな性格で君と年が離れている分、大人の寛容さがあるからだろう。女性にとっては、居心地の良い遊び人で、落とされやすいタイプだろうね。」
と言ってはみたものの、それは僕自身にも相通じるところがあり、彼の意図的な心うちはよくわかる。
「実は彼、最近、私のクラブ仲間の友人とも関係してしまい、今はその友人とも気まずいことになっているんです。」
「友人って、彼の六本木のクラブで君と一緒だった二人なのかな? 彼女達、可愛いかった印象があるよ。」
「そうです、私が知らない他の女性なら、気づいていても気に留めないことはできるのですが、さすがに友人とは無理があります。」
「あの時、僕が彼に、タレントなんかの付き合いもあるから女性には目が肥えているんじゃないの、って聞いたら、普通のOLのような素人の女性の方が新鮮味があります、って言っていたなあ。で、その友人はどっちの方なの?」
「私と同年齢の、出版社に勤めている友人です。」
「たしか、彼女は、僕が、彼のペースに乗せられたら、遊ばれてしまうよ、と忠告した時に、遊ばれてもいいわ、それで楽しく過ごせればいいもの、と言っていたね。」
「それで、私は、彼から身を引こうか、と思っているんです。」
「そうした方がいいね。彼は女性との交際も多いし、後々、君に執着するようなことはないから、別れても大丈夫だよ。」と彼女の思いに応えたのだ。
僕が娘の母親との話題をそらすための、たわいもない問いかけから、女子社員の意味深な話になってしまった。
そんな会話を聞いていた仮面妻の娘が、興味深そうに女子社員に話しかける。
「なにか普通の恋愛話じゃなくて、大人の男女関係の経験談を聞かされたような気がします。」
旅行当日になり、仮面妻の娘と会社の女子社員を車に乗せ、初秋の気配が漂うドライブコースを千葉の館山に向かう。二人ともまだ、消化していない夏季休暇を取っていて、車内では気心の知れた親友のようにはしゃいでいる。
そんな彼女達の若さのオーラにあやかって、僕自身もなんとなくうきうきした気分になる。
この頃は自動車専用道路の館山道は開通していなくて、途中から海岸線に沿って国道127号線に入る。そこからは曲がりくねった幅員が狭くトンネルの多い道路を延々と走るので、都心から館山には4時間余りかかるが、その分、海岸沿いの青々とした景色が見渡せて、長時間のドライブに彼女達のおしゃべりも弾む。
僕は運転しながら、後部座席の彼女達の会話を聞いている。
女子社員が、「お母様、うちの会社に来られる前に、社長が行きつけの目黒のライブパブで最初にお会いしているの。」と話しかける。
「そうですか、母の夜遊びが過ぎるとは思っていたのですが・・。でもうちの父にちょっと問題があり、母は息抜きも必要なのです。」
「あの時は社長のご友人達と私の仲間との飲み会で、私達が帰る直前にお母様が来られたので、ご挨拶もできなかったの。」
「そのお店は、この前に母に連れられて私も行きました。賑やかで母の気分転換にはいい雰囲気のお店ですね。」
「でも、あれだけの綺麗なお母様が一人で行くとちょっと危ないですよ、私も社長に時折、お供していますが、ナンパ目的の男性がたむろしていますから。」
「ええ、母と行ったときも、社長さんが来られるまでは、何人ものおじさんから声をかけられました。でも、社長さんがご一緒なら安心ですよね。」と僕に後ろから肩越し話しかける。
「そうだね、僕がいる時はいいけど、お母さん一人じゃあ、心配かな。」と応えたが、勘繰ってみれば、いつも仮面妻と僕は同伴していることになる。どこまでこの娘は僕と母親の関係に勘づいているのか、そうだとしたら、どれだけ許容しているのか気になるところだ。
僕は話の流れを変えるように、わざとらしく、「ところで皆は彼氏はいるのかな。」と問いかける。
女子社員が、「え~、社長はもうご存じじゃないですか。」と笑いながら応えると、
「きっと、素敵な彼氏なんでしょうね。」と娘が聞く。
「社長の経営クラブのご友人なんですよ、でも、どこまで彼氏といえるかどうか・・。」と言うので、
「ずっと、続いているんだ、今は大丈夫なのか? 」とあまり詮索はしたくないのだが、気にかかる。
娘は、その内容がよく分からないのか、怪訝そうに話の成り行きを聞き入っている。
「遊び慣れた方ですから最初から分かっていましたが、所詮、私はあの方の彼女の一人なのです。」と話す。