さらに「もう、いいでしょ、こんな話は。すべて貴方と出会う前の事だから・・、貴方だって私と付き合う前は色んな女性関係があったはずだから。」と声を荒げるので、
「いや、別に嫌味を言っているんじゃないよ。横浜の男性に君がヌードモデルをしたなんて聞いたから、ちょっと興味を持っただけさ。」となだめるように応えた。
その日に抱いた仮面妻には、彼女の艶めかしい逸話を知ってのことか、欲情が尚さらに高まった。

秋が深まり、仮面妻からの連絡がしばらく滞ったので、事情を聞くと彼女の実父の容態が思わしくなく、実母も他界しているので一人娘の彼女は、その介護に時間を割かれるようになったらしい。
週に一度ぐらいだった僕との逢瀬も一ケ月余り途絶えて、ジングルベルのメロディが街角に流れる頃になると、木枯らしのように僕と仮面妻との間にはすきま風が吹き、別れを迎えることになるのだ。

そのきっかけは、いつもは彼女と同伴している行きつけのライブパブに僕一人でいる時だった。
Xmas用の赤いコーンハットをかぶり、酔っ払った3人組の女性が奇声を上げて、隣の席に座り込んできた。
見た目はあきらかに50代ぐらいの年配女性と30代と思える長身でモデル体型の美人、同じく30代らしき可愛い系女子で、彼女達がはしゃいでいる様子は周りの男性客から好奇の視線を集めていた。

隣同士でテーブルは別々になっているが、壁面に沿ってつながった横並びのソファーづたいに僕に身を寄せるようにして、年配女性が「貴方、お一人で飲んでいるの? 」と声を掛けてきた。
「ええ、まあ、今夜はそんなとこかな。」と返事をすると、
「今夜は・・ということは、いつもの夜はお連れが一緒なのね。」と勘繰るように笑いかける。
「うん、だけどここのところはいつも一人で飲んでいるよ。」と僕も笑顔で返答する。
そうすると、モデル体型の美人のほうが、「あら、振られたんだ、切ないわね。じゃあ、今夜は一緒に騒ぎましょうよ。」とグラスを持ちながら乾杯を求めてくるので、それに応えてグラスを掲げると可愛い系の女子と年配女性もにこやかにグラスを合わせた。
仮面妻と逢えなくて一人飲みしていた寂しさが、その場の女性達の華やかな雰囲気に払拭された気分だ。

「君達、この店に来る前から飲んでいるみたいだね、随分、テンションが上がっているなあ。」とモデル系に尋ねると、
「ううん、やけ酒なのよ、初めての客は一万円ぽっきりというふれ込みの渋谷のホストクラブに行ったら、ただ若いだけのブサ面の男ばかりで面白くもなくて、皆、飲み放題の酒だけを飲んでいたのよ。」と愚痴をこぼす。
「そうなんだ、君達みたいな女性だったら、何もホストクラブに行かなくても、その気になれば言い寄る男どもに不自由しないのにさ。」と言うと、
「でもイケメンはなかなかいないわ、この際、貴方みたいなダンディな年配でもかまわないわよ。」と年配女性が自分はさておいて好き勝手な物言いをする。

 

どうやら彼は、仮面妻とは成り行きで一度だけのセックスを車中でして、その後は男女関係の付き合いはなかったようだが、まあ、僕と同じ女を抱いたという事にかわりはない。

「そうそう彼女は時折、この店に来る画家に頼まれてヌードモデルをしたことがありますよ。あれだけの容姿だから画家も創作意欲が湧いたのでしょうね。」と彼は面白可笑しく僕に語る。
「へえ、そんなことがあったんだ。初耳ですね。」と意外な仮面妻の裏話を聞いて、彼は僕より仮面妻との付き合いが長い分、彼女の過去の事はよく知っているようだ。
そう言えば僕と関係を持った彼女の友人も女流画家で、妖艶な色気があったのを思い浮かべた。

彼とは、その後もこの店でよく会って、話題や遊びのライフスタイルなどが僕と似通い、遊び友達として交流が続くことになる。

後日に仮面妻と逢った折、その画家の話を問うと、
「ええ、画伯のことね、最初は断ったけど何回も頼まれて、根負けして引き受けたわよ。モデル代として10万円もらったわ。」と平然と応える。

「まあ、君の裸身はスタイリッシュで、年齢の割にはよくキープしているからいいんじゃないか。」と笑いながら言うと、
「失礼ね、年齢は関係ないのよ、貴方も私みたいな女を抱けるんだから浮気なんかしないでよ。」と高飛車な物言いをする。

そんな言葉を受け、彼女との情交が始まってからは、二股がバレたのは、彼女の親友の女流画家だけで、古都の恋路、潮騒の宿、ダンス教師とその友人のダンスクラブのママとそれぞれの女性と浮気が続いている。
いい女と付き合っていても、男の性分は他の女に目移りがしてしまうもので、後ろめたさを感じる。

「その画伯とやらは、君のヌードを描きながら邪心は起こさなかったの?」と冗談まじりに聞くと、
「そうね、そのアトリエではなにもなかったけど、終わった後に食事に誘われ、酒の酔いもまわったのか、あと10万出すから、抱かせて欲しいって言われたわ。さすがにそれは断ったのよ。お金の問題じゃないわよ。」
「ふ~ん、で、あの横浜の男性にはドライブデートで身をまかせたんだ。」と皮肉ると、
「あの時は、スナックの雇われママの時にレイプされた後だから気も滅入っていて、そんな心理状態だったから彼にすがるような気分になっていたからね。」と言い訳する。

「その後に、彼と進展することはなかったのかな。」
「もともと、あの人は私とは合わないタイプだわ。女って、落ち込んでいる時に優しくされるとガードが緩むのよ。」

昼間に仮面妻からこの男女の内情を聞いていただけに、同じように不倫をしている者同士ということで、僕も気兼ねなく話をする。
「今日も横浜で逢っていて、先ほど自宅まで送りました。」
「そうですか、彼女、以前から知っていますが、気性の激しいところもあるので、この前、カップルでいられるのを見受けて、気になっていたんですよ。」と干渉するように話をすすめるので、
「もう、付き合って一年以上になりますが、それも織り込み済みです。」と僕は意に介さないように笑って応えた。
彼と仮面妻がどれくらいの交遊があったかは知らないが、彼女からすでに彼と肉体関係を持ったのは聞いていて、それは僕と付き合う以前のことであり、たいして気にもならない。

「ところで、隣の可愛いいご婦人は彼女ですか?」
すでに仮面妻からこの二人の事情を聞いているが、知らないことにして突っ込んだ質問をしたみる。
「そうです。貴方と同じ不倫関係です。」と彼も隠し立てすることなく笑いながら返答する。
そんな彼の開けっ広げな態度に、何となく親近感を覚えた。
彼の愛人は、二人の言葉のやり取りをにこやかに聞いている。どちらかというと、この彼女は控えめで温厚な性格のようだ。
昔の職場では上司と部下の関係だったこともあるのか、彼に対しては従順な感じがする。

僕は、この男性と仮面妻とが、過去にどんな関係だったのか興味を持って聞くことにした。
「僕の彼女とは、以前はどういう付き合いだったのですか?」
「あの彼女が家出して、六本木で雇われママをしていた時、そのスナックの客として行っていましてね、常連客には美人ママって評判も良かったですよ。」
愛人の前でそんな話をするので、「いいんですか? ここででこんな話をしても・・。」と女性の方に目をやりながら心配すると、
「大丈夫、この彼女は、過去にあった事は全く気にしませんので。」と平然と言う。
彼の愛人は嫉妬深い仮面妻とは、真逆の性格ようだ。

「スナックのママといっても、店は一人で切り回していたみたいですね。だから危ない目にあったという話は彼女から聞きましたが。」と言うと、
「彼女目当ての危ない客もいたので、一対一にならないように僕もよく呼び出されましたが、でもやはり、レイプの事件がおきたのです。」
「それで、彼女は店を辞めて、家に帰ったということですね。」
「それからは彼女がよく来ているこのライブパブに、僕も時々、来るようになり、ここでは彼女とは顔なじみていどの付き合いなんです。」
「その後に僕がこの店で彼女と知り合ったということですか。」
さすがに仮面妻から彼について聞いていた、ドライブデートのカーセックスまでの話まではしないようだ。