バンド演奏が始まり、ステージがライトアップされ、ダンススペースにミラーボールが煌めく。

客席が暗くなったので彼女を抱き寄せてディープな口づけをすると、彼女は舌を絡ませて受け入れる。
もう、先日に男女の交わりをした間柄だ。
「この後、いいよね?」と思わせぶりに問いかけると、「ええ、でも12時前には帰してね。」とうなずく。
彼女の夫は、ひき籠り気味なこともあってか、彼女の素行にあまり束縛はしないようだ。だから、いままで彼女は、若い男性とも交遊できたのだろう。

このステージの演奏が終了して店を出る。
彼女は帰宅する時は、車で送られるよりも地下鉄のほうが早い、と言うので、田園都市線に乗車できる渋谷のラブホ街にタクシーで向かう。
ラブホが建ち並ぶ円山町界隈はネオンサインが燦然と輝いて、男女の営みを誘っているかのようだ。

円山町は、専業主婦の仮面妻とは昼下がりの情事でよく訪れたことがある。
この彼女とは、役所勤めのOLだけあって、夕暮れ過ぎの情事を重ねることになるだろう。

入館したラブホテルは、冬場にもかかわらず、南国ムードただようトロピカルな内装が施されている。
ドアを開けて室内に入ると造り物だろうか、椰子の木とハイビスカスが植栽してある。
「なにかハワイのリゾートホテルに来た感じだね。」と笑いながら彼女に話しかけると、
「季節外れね、冬のコートを脱いだら、水着に着替えないと。」とにこやかに応える。
「そうだね、君の水着姿見てみたいな。」と言うと、
「いやらしいのね、セパレート水着だったら、下着姿と同じでしょ。」と言い返す。
「だったら、バスルームに入る前に、そんな姿を見せてほしいな。」と頼むと、
「いいわよ、でも明かりを少し落としてね。」と快く応じてくれる。
彼女とは、二度目の情交になるが、そんなジョークを言い合えるぐらいに、打ち解けることができた。

入浴する前に、彼女は、ヤシの実とハイビスカスの赤い花々の傍らで、下着のまま、腰に手を当ててポーズをとる。
パープル系のトーンで小花柄の刺繍にレースをあしらったデザインのブラとショーツのセットアップで、スタイリッシュなモデル体型の彼女は、水着姿以上に艶めかしい色気に満ちていた。

「陰キャラの旦那なんだ、それでも納得して結婚したんじゃないの?」
「私の中学生の頃に両親が離婚したの。母の実家は資産もあって経済的には困らないので、母は再婚もしなかったから、私はシングルマザーで育ったのよ。今の夫との見合い話があった時、母が彼の生真面目さと有名企業に勤めていることを気に入って、私を早く結婚させたがったの。というのも別れた私の父親が甲斐性のない、お金と女にはだらしない人で苦労したからね。それと母は、その当時に癌を患っていたこともあるわ。」
「だから、君は母親の思いを受け入れて、妥協したわけだ。」
「そうなの、でも所詮、彼は私の理想としていた男性ではなかったわ。真面目だけが取り得で、社会性も無いくせに友人に唆されて会社を辞め、共同出資で起業したんだけど失敗して、それからは無気力で近場の町工場の工員として淡々と仕事に行く以外は引きこもり気味なのよ。」
「でも、そんな旦那だったら、特に問題はないんじゃないの、ちゃんと仕事して賭け事もしないし、浪費するタイプでもないからさ。」と僕が諌めるように言うと
「でも、一緒にいると息が詰まるの、性格が合わないのよ。子供が早くできていなければ、とっくに離婚していたわ。」と彼女は語気を強めて応える。
「まあ、君の外交的性格と彼の内向的性格では合わないかもな。」と言いつつ、ブログに前述したダンス教師の女性を思い浮かべる。彼女も同じパターンの夫婦で、妻のほうが遊びなれたダンスパートナーの男性と不倫していて、僕とも関係していたこともある。

「それと夫は引き籠りのせいか、パソコンでアダルトサイトばかり閲覧して性欲が強いみたいで、私が仕事で疲れて帰って来ても、無理やり行為に及ぼうとするのよ。それと妙な性癖もあって、私は陰部の毛を全部剃られたこともあるわ。だから、もう夫とのセックスには耐えられないの。」
「旦那、その異常な性欲の矛先が君に向いているのは、まだ、いいけど、君以外になったらヤバくない?」と気にすると、
「ううん、それはないと思うわ、社交性のない性格だし、気が小さいからね。風俗にでも行ってくれたらと思うけど、そんな度胸もないのよ。」とあきらめ顔で話す。

そんな夫婦の事情では、彼女もいたたまれない鬱積から、不倫に走るのもやむを得ないと思った。
「こんなこと、貴方に話すのも耳障りかしら?」と僕を伺うように笑顔をみせる。
「いや、君の心情がよくわかったよ、それでその反動もあって、うんと年下の若い男性とも付き合って楽しんだりしていたんだ。 まあ、淀んだ家の空気から屋外に出て新鮮な空気も吸わないとね。」と僕も笑みをうかべて応えると、
「貴方に話を聞いてもらうと、何か心が落ち着くわ。というか、そんな悩みを打ち明けられる居心地の良さが貴方のオーラにはあるような気がするの、年上の男性もいいものね。」と言いながら横並びに座っているソファーで、彼女は身をゆだね、僕は彼女の肩をそっと抱き寄せた。

慌ただしくホテルを後にして彼女を送る。途中、タクシーを待機させて、コンビニで彼女は朝食と弁当の食品を買い求める。
車内で「今夜は遅くまで付き合わせてしまい、悪かったね。旦那には言い訳できるのかな?」と気になり、聞いてみた。
「携帯に夫からの着信があったみたいだけど、寝込んでいて気付かなかったから、ありのままに言うしかないわ。もちろん、貴方のことは極秘だけど、友達と飲んで酔い潰れて寝てしまったことにするしかないわね。」と開き直ったように応える。
「その程度の弁解で納得するのかな?」とさらに心配すると、「疑われたら夫もよく知っている私の親友にアリバイ工作してもらうわ。」と悪びれる様子もない。彼女はいままでも不倫経験があるので、そんな対処は慣れていそうだ。

仮面妻の夫は、自分が浮気三昧していることもあり、妻をそれほど詮索することも無かったが、どうやらこの彼女の夫は地味でねぐらなだけに浮気できそうな性分では無いので、その分、妻への関心が強いのかもしれない。
彼女の自宅のある二子玉川近辺で降ろし、その後姿を見届けて彼女との初体験の夜を終えた。

翌日に彼女が帰宅した後のことが気になっていて、メールで打診すると、二日後にいつものライブパブで逢うことになった。
店に来た彼女は仕事帰りの公務員らしい服装のタイトスカートのスーツで、あのウェスティンホテルでのファッションモデルのような艶めかしさは無いが、それはそれで洗練された色気を感じる。

開口一番、「帰宅した時は大丈夫だった?」と聞くと、
「ええ、何とかね、もう、主人も子供も寝ていて、朝は私が早く起きて、食事の支度を済ませたの。」
「で、起きてきた旦那はどうだった?」
「やっぱり、遅くなった事を聞いてきたので、あの筋書き通りに話したの。ちょっと怪訝そうな様子だったけど、その場はそれですんだわ。」
「とりあえず、揉めることはなかったんだ。」
「でも、その日の夜、主人が私に迫ってきたの、私は前日の貴方とのセックスと寝不足でとてもその気になれないから、拒否したら、「何でできないんだ。」と怒鳴りながら無理やりレイプされたのよ。」
「それって、君の身体の検証もあったのかな? やっぱり、疑っていたのかもね。」
「もともと、夫の性癖はおかしいのよ。パソコンのアダルトサイトに興味もっていて、私に隠れてよく見ているわ。だからと言って、貴方みたいに女性に言い寄ることはとてもできないし、性欲のはけ口が内に籠ってしまうの。」
「君みたいに美人の妻がいれば十分、満足じゃないのかな。まあ、それでも浮気性は別物だけど。」
「でも、一途に私をはけ口の対象にされても困惑してしまうわ。とても陰キャラの相手は嫌だわ。」