「あおいちゃんが言ってましたが、今夜は彼女と待ち合わせなんですか?」と佐野っちに聞くと、
「ええ、おたくが来る前に彼女からメールがあって、立ち寄り先で時間が長引いてだいぶ遅れそうなんです。待ち合わせ時間通りに来てたら、おたくらの修羅場に遭遇してびっくりしたことでしょう。」と笑いながら応える。
「佐野さんの彼女は温厚で嫉妬心も強くないでしょう。前にカップルで来られていた時の印象がそんな感じに見受けられました。」と思ったままを述べると、
「彼女は僕が会社勤めしていた頃の女子社員で、結婚退職したのですが、亭主がその後、ギャンブルにはまって苦労していましてね、それでかっての上司だった僕を頼ってきて、いろいろと相談にのったりしていたんですよ。性格はおとなしめで、あおいやひろみのように面とむかって激しい態度をとることはないですが、内心に秘めたジェラシーはありますよ。
まあ、夫に愛情が無くなった分、不倫相手へ嫉妬心を抱くのはそれぞれに共通しているのじゃないですか。」と悟っているように言う。
「確かにそうですね、それぞれ夫がDV、社交性の無い引き篭もり、ギャンブル依存症で愛想をつかしているから、佐野さんや僕みたいな真面にみえる男性にひかれるんですかね。」と相槌をうつ。
「だけど、我々も真面じゃないところがありますよ、おたくもそうだけど、女好きなところですかね。だからさっきみたいなトラブルにあってしまう。」と冗談交じりに笑う。
「佐野さんが女好きということは今の彼女以外にも不倫経験はあるんですか?」と突っ込んだ問い掛けをすると、
「もう、おたくがひろみと別れたから話すけど、実は彼女とも関係してましてね、私たちは同じ女を抱いているんですよ。」と打ち明けるが、このことは、すでにひろみ本人から聞いているので、特に驚かない。
「へえ~、そうなんですか、いつ頃のことですか?」と知らないふりをして聞いてみる。
「ひろみが家出して、六本木のスナックで雇われママをしていた頃ですよ。閉店直後に店内で彼女が客にレイプされた件は以前に話しましたが、後日、傷心の彼女の気を晴らす為、ドライブデートに誘って多摩方面に出かけたのですが、その山中でカーセックスしたのが初めですね。」
「初めということは、そのあともあるのですか?」
「ええ、2回目は、学大のスナックの共通の知り合いだった亡くなった常連客の法要の墓参りの後、不謹慎ですが彼女の喪服姿の色気に欲求を抑えきれずに、ちょっと強引だったのですがモーテルに立ち寄って行為に及んだのです。」
この話は仮面妻のひろみからは聞いていなくて、初耳だった。
「ひろみは落ち着いた年配男性に惹かれるので、おたくに好意をよせるのは真っ当ですが、あおいは年下の若い男性がタイプなので、学芸大のパブスナックでは言い寄るオヤジ連中をシャットアウトしていましたね。
だけど店のアルバイトのウェーターの大学生とは付き合っていたことがあったくらいなのに、正直、あおいがおたくと付き合うとは驚きでした。」と意外とばかりに述べる。
「そうですね、ひろみは僕と交際している間は、この店に来るのも必ず僕と同伴で、浮ついたことはなかったのですが、あおいちゃんは夜遊びが好きで、女友達同士で騒いで深酒もするし、カラオケのステージでは時折、露出度の高いキャミソールワンピースで歌ったりして、男性ギャラリーの視線を浴びて楽しんでいるようです。」と言いつつ、店内にいるあおいの方に目を向けた。
客席も埋まりはじめ、あおい達の席は、クリスマスの時に会った年増女性、可愛い系女子と盛り上がっている。
しばらくして、あおいがこちらの席に来て、
「貴方も私たちと合流したら? 友達も歓迎するわよ。」と誘う。
「いいや、ひろみちゃんと別れたばかりだし、今夜は遠慮してくよ。」と応えると、
「もういいんじゃないの、ひろみちゃんから別れ話があったんだから。あなた、もしかしてまだ未練があるの?」と問いつめてくる。
たしかに未練が残って無いとは言えない。
ただの短い浮気と違い、長く続いた不倫は身体の関係だけでなく、ある程度の心情も絡んでくる。
仮面妻のひろみとは2年近くの不倫関係があり、彼女の嫉妬心が強いということは、裏返せば、それだけ僕への慕情も強かったのだ。
僕はその間にも何度か浮気をしていて、とても自分勝手で言える立場ではないが、彼女との交際を振り返れば惜別の思いが過る。彼女からの別れ話だったのが、せめてもの慰めだった。
「せっかく女子会で楽しんでいるのに、僕や佐野さんが割り込んだら気を使ってテンションあがらないだろう。」と未練話から話の矛先を変えると、
「あら、さのっちは、後から彼女が来るんじゃないの?。私たちと居るところ見られたらまずいでしょう。だから誘ってないわ。」と笑いながら言葉を返す。
「わかったよ、彼女達とも久しぶりだし、後ほど挨拶がてら行くことにするからさ。」といまいち気分は乗らないが了解する。
「二人とも40代で同じ世代だし話が合うのだろうね、それにしてもまさか顔なじみ同士だったとは、僕もそうだけど、当人同士も驚いたことでしょうね。ところで佐野さんは、あおいちゃんとも親しいですね? それも意外だったんですよ。」と気になっていることを聞いてみた。
「彼女は僕が学芸大のスナックに5年ぐらい前から通うようなってからの知り合いで、その頃はあおいもひろみもすでにその店の常連で、3人で酒席を交えたことも何度もありますよ。二人とも目立つ存在だったから、よからぬ連中がナンパに来るので、僕がボデーガード役みたいなもんです。」
「なるほどガタイがでかいだけに頼りがいがあり、それで二人ともさのっちなんて、愛称で呼ぶんですか。ひろみが六本木でスナックの雇われママをしていたころにも佐野さんは、わざわざ横浜からよく行かれていたそうですね。」
「あの時は、前にも話しましたが、そのスナックでひろみのレイプ事件があったのですが、居合わせてなくてガードできなかったですよ。」
「ええ、ひろみからもその件は聞いています。家出中で警察にも相談できなかったみたいです。」
さすがに、その後の、彼とひろみのカーセックスに至る話はできない。
「それにしても、二人の美熟女にあれほどまでに好かれるなんて、男冥利に尽きますね。」とあらためて話すので、
「みっともないところを見せて、恥ずかしい次第です。」と照れ笑いしながら応える。
「あおいもひろみも嫉妬心は人一倍ですが、まあ、とりあえずは穏便に決着しましたね。足は大丈夫ですか?」と気にかけるので、
「ひろみの奇襲にはまいりましたよ。今でもズキズキしますよ。あの二人は似て非なる性格ですね。」と足をさすりながら応える。
「ひろみは亭主のDVや浮気で気丈になっている反面、おたくみたいな優しい男性に惹かれるのですが、あまり男にチヤホヤされるのは好きではないみたいです。
あおいは、陰気な引きこもり亭主に嫌気がさしていて、華やかで男にモテまくるみたいなはじけた雰囲気を好みます。」
「さすがに、僕よりも彼女達と付き合いが長い分、よく分かっていますね。」
とうなずきながらも、確かに、ひろみは仮面妻を装いながらも良家の奥様で、品の良いノーマルファションだし、あおいは地味な職場から解放されたアフターファイブでは、ライブパブで芸能人のように振舞っていって、素肌をさらした色っぽいコスチュームを着こなして、男性客を魅了している。