物語89 | Thinelの世界

Thinelの世界

私の描く世界へようこそ


  「アリアネの腕の中に意識を失った時、ここまま死にたいと思った
   許してくれ」とカエール侯爵は紙に書いた
 
  初めてカエール侯爵の字を見た日のことを思い出した。当時私は15歳だった。
  父上の部屋にあったテーブルの上においてあった手紙に気がつき、好奇心で字を見ようと思った。
  最初の挨拶の部分だけ読み、女性の字だと思った。
  上品で、綺麗。そして丁寧。
  もっと読めば、どんな人なのか分かるじゃないかと思って、気づけば手紙を全部読んでしまった。
  最初は女性の字だと思い込んだが、言葉遣いから、そして時に感じられる力強さから男性のものだと分かり、
  名前を見たら、確信して、驚いた。
  比較する男性の字はエンリの位しかいなかったから、驚いたかもしれない。
  エンリは書けばいいと思う人で、丁寧に書くことがなく、読みにくい小さい字だった。
  私はもう一度手紙を読んでいる時に、エンリが部屋に入ってきた
  「何してんの?」
  「ごめんなさい」と言う私。
  絶対怒られる。私は手紙をエンリに渡した
  「これ、軍のことが書かれている手紙だぞ。お前が読んでいいものじゃねぇだろう?」とエンリは手紙を見るなり、言う
  「ごめんなさい。好奇心で、つい」
  「ファオランに知られたら、ついって言葉で済まねぇよ」
  「ごめんなさい。父上に言わないで、お願い」
  エンリは厳しいけど、父上が怖い。
  「なんで手紙を読んだ?」
  「綺麗な字だと思って・・・」
  「馬鹿馬鹿しい。というかこの部屋に入ること実体禁止なんだろう」
  「父上に呼び出されたから、入った」
  「聞いてねぇぞ」
  「アリアネ!」と部屋に入ってきた父上は言う「ちょうどいい。エンリ、ごめん、言い忘れた」
  「いいえ」
  「手紙の返事を書いてほしいんだ」と父上は言う
  「俺の仕事だと思っていたが」とエンリは少し驚いた顔する
  「貴族にお前の字で手紙を送ったら、失礼だろう。アリアネはもう俺たちと一緒に戦っているから、いいだろう。エンリは色々アリアネに教えてくれ」
  「分かりました」
  
  その日から、私はカエール侯爵から来た手紙の返事を書くことになった。
  文章とても分かりやすく、学のない父上にも混乱させる言葉一つもない。
  自分に対して、初めて「ワタシ」を使う男の人を見たから、違和感があったが、違う言葉遣いは私の頭の中でイメージを膨らませるばかり。
  侯爵から届いた手紙を見惚れていたら、
  「また王子様の夢でも見てんのか」とエンリに言われていた
  「別に夢をみているわけじゃないけど。どんな人なのかと思っていただけ」
  エンリは不機嫌そうに私を見た
  「妬かなくてもいいのに・・・」

  妬くことが殆どなかったエンリは侯爵の手紙にいつも妬いていた。
  幸せな日々だったな。

                                      つづく

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