カエール侯爵は倒れた後、医者を呼び、痛みと咳のための注射をしてもらった。
医者は入院したくない侯爵の気持ちを分かっているようで、入院の話に触れなかった。
「もっといい治療を与えたいが・・・・」と溜め息交じりに医者は言っていた。
眠っているカエール侯爵を我が子をいとしむ親のような眼差しで医者は見ていた。
この子に救えの道がないと思っているだろう。
私に渡されたノートに書いてあった通り、今度カエール侯爵に睡眠薬を飲ませなかった。
数時間後、侯爵は目覚める。ベッドに座り、私に何か言おうとしたが、すぐ諦めた。
疲れた笑顔を見せながら、目で水の瓶を示す。
私は水と一緒に紙とペンを渡した。
予想されていたこと、二回目血の大量を吐いた時に、少しの間話せないだろうと。
いずれ完全に話せなくなる日が来るが、それはまだ先のことだ。
侯爵は自分の胸に手を当てる。
「痛いですか」
カエール侯爵は頭が振る。はいと。
「何か食べてから、薬を飲んだ方がいいので、スープを食べてみますか」
断った。
私は他の提案をしたが、断られた。でも、いつも頭を振るだけで、紙を使おうとしなかった。
どうすればいいか分からない私に微笑んで、そしてじっと飲むことがなかった水を見ている。
部屋のドアにノック。アンヌが入る。
「カエールは目覚めたと執事から聞いたので、様子見に来ました」と入っていいかどうか戸惑うアンヌ。
「目覚めているから、少し話ができますよ」と私は言った。
アンヌはカエール侯爵のベッドに座った。
「大丈夫?まだ痛い?」
カエール侯爵は苦い微笑みを見せる。
「レディーアンヌ、今侯爵は話せない状況です」
「話せないの?これからずっと?」と驚いているアンヌだった。
「いいえ。また話せるようになりますが、2週間くらいちょっと困難でしょう」
アンヌはカエール侯爵を見て、そしてもう何を言えばいいか分からず、座っていた侯爵の膝の上に頭をおいた。
カエール侯爵はアンヌの髪を撫で始めた。
「ゆっくり休んでね。仕事のことをアリアネに任せられることを任せて、体のことだけ考えてね」
カエール侯爵は紙を取って、『ごめん』と書いた。
「謝ることがないよ」とアンヌは言う
私はアンヌを少し羨ましく思えた。最初に紙に書いた言葉はアンヌ宛だったから。
咳を出す、侯爵は自分の手を見たら、また血。
これから咳を出すことが多くなる。そして咳を出す度に多少の血が出る。
カエール侯爵は痛し気そうな顔で、自分の手を見つめる。
アンヌは気づき、立った。
「夜ご飯の時に、また来ます。アリアネは疲れていたら、言ってください。看病をかわりにやりますから」
「ありがとうございます」と私は言う
アンヌは部屋から出た。私はハンカチをカエール侯爵に渡す。
侯爵は私と目を合わせない。
「私を避けていませんか」
カエール侯爵が書く。
私は紙を受け取った。
「死ぬことより、体調の回復の心配をしてください」としか言えない私だった。
カエール侯爵は微笑み、そして目を瞑った。
つづく
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