屋敷に戻ったら、侯爵はダンスを教え始めてくれた。
私たちが練習している部屋に執事が
「失礼いたします。王室からの手紙です」と
「ありがとう」と手紙を受け取り、近くにあった椅子に座った侯爵。
「軍への命令ですか」と私は。
「ああ。軍隊を動かすことになった」
「出発はいつしますか」
「出発?ワタシとアリアネは行きませんよ。ただの場所移動ですから。そういう命令がおりる度に、ワタシは都を離れたら、きりがないですよ」
「では、私だけ行かせてください」
「ためです。今のアリアネの仕事はワタシの護衛兵。ここに居なければ、どうやってワタシを護るつもりですか。それにファオラン隊長に頼まれている、君をしばらく戦場から離れることを」
「なぜ隊長がそのようなことを」
「ファオラン隊長、ヤ、君のお父さんは心配ですよ。戦場で恋人を失ってから、無理ばかりしているとか、隊長の命令を無視しているとか・・・この前君の油断で、兵の二人が失うところだった。ワタシも頭を冷やす期間が必要だと思っていましたし。護衛兵もちょうど必要な頃だったから、ワタシと一緒に連れてきたわけですが・・・」
「頼んでいません、頭を冷やす期間など」とまた切れる私。
「では上司の命令無視と仲間を危険にそらしたことに対して罰を受けるか。恋人を失って、感情的になっていることを大目で見てるのに・・・ワタシはあまり気の長い人じゃないよ、アリアネ。それに忘れているようだが、ワタシ、ヴェンドメ准将軍のくだす罰は重い」と切れる寸前のカエール侯爵だった。
そうだった。この貴族くさい、芝居得意男はヴェンドメ准将軍であった。
我が国の軍の中で誰にでも認められている戦略家で、無駄な戦をしない主義。自身で動かした軍隊は負けたことがない。実戦の経験が他の准将軍と将軍と比べると浅い割には戦略は完璧だ。それと部下に対して恐ろしいほど厳しいが、犠牲の少ない対策しかとらない。私の前にいるこのヴェンドメ准将軍だ。
准将軍に声をあげた私に頭を下げるほかなかった。
「だから今朝、今後の言葉をちゃんと選べろと言ったのに」
「申し訳ございません、もう二度とこのような真似をしません」
「分かればいい」とカエール侯爵は微笑んだ。
つづく
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